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コラム:バフェット氏の米経済楽観論、長期的には妥当
2016年3月6日 / 02:39 / 2年前

コラム:バフェット氏の米経済楽観論、長期的には妥当

[29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 元財務長官でホワイトハウスの経済政策における長老でもあるラリー・サマーズ氏は米経済が「長期的停滞」の時期に入ったと考えている。だが、ウォーレン・バフェット氏はその主張に納得していない。

 2月29日、ラリー・サマーズ元財務長官は米経済が「長期的停滞」の時期に入ったと考えている。だが、ウォーレン・バフェット氏(写真)はその主張に納得していない。ワシントンで昨年10月撮影(2016年 ロイター/Kevin Lamarque)

バークシャー・ハサウェイの会長を務めるバフェット氏は、先週末、株主に対する書簡のなかで「米国の未来はかつてないほど明るい」と主張している。

──関連記事:バフェット、株主への手紙で米経済を楽観 後継者に言及せず

バフェット氏は歴史を味方につけているし、恐らく超長期的には彼の正しさが証明されるのだろう。とはいえ、金融危機以降のバランスと持続性を欠く回復のせいで、米経済・グローバル経済の当面の展望は依然として暗いままだ。

数年前、米国の成長が急停止したのではないかという疑問を最初に提起したのが米ノースウェスタン大学のロバート・ゴードン氏である。同じ主張は、同氏の近著「The Rise and Fall of American Growth: The U.S. Standard of Living since the Civil War(原題)」にも再登場している。

ゴードン氏は、米経済にはいくつかの要因に足を引っ張られていると言う。特に、人口動態における不利なトレンドのせいで生産量が抑制されており、過去に比べ現代のテクノロジーは生産性を向上する力が乏しいというのが彼の主張だ。しかし、これらの論拠はいずれも脆弱である。

人口動態の長期的な予測は間違いやすく、特に伝統的に多数の移民を受け入れてきた米国のような国ではなおさらである。

実際、「長期的停滞」という言葉を最初に使ったのは1930年代初頭、ハーバード大学のアルヴィン・ハンセンだが、彼は人口の伸び悩みが設備投資・住宅需要の減少につながるだろうと主張していた。ハンセンの人口動態予測は大きく的を外した。1930年代以降、米国の人口は約160%増加し、複合増加率は年1%強となった。

将来的に生産性の上昇が減速するという示唆も、同じように不確かだ。ゴードン氏は、他国で大学進学率が上昇していることから、教育面における米国の優位が失われつつあると主張している。だが高学歴化と経済生産のつながりは弱い。

スイスは世界で最も豊かな国の1つだが、21世紀に入る時点で、スイス国民の大学進学率はわずか10%だった。それに、シリコンバレーが外国で教育を受けた労働者を受け入れて巧みに国内の人材を補ってきたという実績もある。

現代のテクノロジーは過去と同程度の効率改善をもたらしていないと、ゴードン氏は主張する。彼は「(デジタル革命は)労働の場における、また余暇の時間における新たな消費の機会を生み出したが、人間の労働を機械に置き換えるという歴史的な伝統は続かなかった」と書いている。これはナンセンスだ。

インターネットは多くのビジネスや産業を破壊したし、今も破壊は続いている。問題は、無料で提供されるデジタル情報があまりにも多いので、国内総生産(GDP)という伝統的な指標に反映されないことだ。

またゴードン氏は、地球温暖化のコストが経済成長を鈍化させることを懸念している。エネルギーを抽出するためのコストの上昇が、やはり同じような悪影響を与えるのではないかと心配する者もいる。だがこれもやはり、技術革新が終わりに近づいていると言っているにすぎない。

ゴードン氏と同じノースウェスタン大学で教える経済史家のジョエル・モキア氏は、「今日見られる悲観論の大半は、想像力の不足を主な原因としている」と書いている。同氏は、3Dプリンティング、炭素素材「グラフェン」や遺伝子治療など、大きな革新をもたらす可能性のある新たなテクノロジーの例を列挙している。

最初の「長期的停滞」が始まった頃に生まれたバフェット氏は、自分の生きている間に米国の国民1人当たりGDPが6倍という「腰を抜かすほどの」伸びを示すのを目の当たりにしてきた。

「この240年間、米国が衰退する方に賭けるのはとんでもない誤りだった。そして今それを始める時期でもない。商業と技術革新という、米国にとっての『金の卵を産むガチョウ』は、今後もより多くの、そしてもっと大きな卵を産み続けるだろう」とバフェット氏は書いている。「そして、米国の子どもたちは、両親よりもはるかに良い生活を送るようになる」と。

では、米国の人口動態と技術革新が心配の種にならないとすれば、それ以外の停滞の根拠はどうだろうか。

ゴードン氏らは、富裕層はそれ以外の層に比べて、所得が増えた分を支出に回す傾向が弱いため、経済格差は消費を抑制すると考えている。また高水準の家計債務も需要を圧迫している。雇用市場の不振が米国の労働参加率の急落をもたらしており、これもやはり同じように消費を圧迫する影響を及ぼす。

だが、こうした長期的停滞の原因とされるものは、もっぱら、ここ数十年の稚拙な金融政策の結果である。

現在みられる経済格差の拡大には複数の原因が考えられる。特に顕著なのが、グローバリゼーションの影響と、新たな「勝者総取り」型のテクノロジーだ。しかし米連邦準備理事会(FRB)が果たした役割を見過ごすのは間違っている。

低金利と量的緩和により、家計の資産は記録的な水準まで増大しており、社会の最富裕層に不釣り合いな恩恵を与えているのである。さらに低金利は金融工学の発達を促し、金融界の稼ぐ手数料収入と、株式ベースによる幹部報酬を膨張させた。実体経済はやはり取り残されてしまった。

超低金利は、経済の動脈硬化を招いている。

サタジット・ダス氏が著書「The Age of Stagnation(原題)」で書いているように、低金利は、脆弱な企業が生き延びるのを助けている。銀行の資本は収益性の低い事業に縛り付けられ、銀行の融資能力を制約している。創造的破壊が阻害されている。米国の雇用市場がこれほどまでに振るわないのは、このあたりに原因があるのかもしれない。

また低金利によって過剰債務が残ってしまっている。実際、低金利のせいで民間・公的部門双方にレバレッジを拡大するインセンティブが生じている。低金利の結果、価格バブルの流れが起きている。リーマン・ブラザーズが破綻して以来、引き受け基準が急速に低下していることで、サマーズ氏が認めているように、金融市場の安定性が脅かされている。

結局のところ、低金利がバブルを膨らませ、資本の不適切な配分が進み、それが生産性に打撃を与えているのである。

「長期的停滞」が、いわゆる「狂騒の20年代」の余波のなかで提起されたのは意外ではない。ハンセンが1934年に書いているように、1920年代の好景気は、産業界が「安易な融資の行き過ぎによって人工的な刺激を受けた」ことで生じたものであり、それが「恐慌の原因となった」のである。

ハンセンは、1930年代初頭の米国民のなかで「大衆的な苛立ちと焦りが高まり、それによって、強制的な景気回復手法を大規模に試すことが必要になった」と嘆いている。

同じような特性が、前回の金融危機の余波のなかで再び浮上している。長期的停滞は、非伝統的な金融政策がもたらした意図せぬ結果である。米経済の未来に関するバフェット氏の楽観論が場違いに思えるのは、そうした金融政策が居座り続けるあいだだけなのである。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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