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コラム:トランプ米大統領の為替認識に潜む「危険」
2017年2月21日 / 04:23 / 8ヶ月前

コラム:トランプ米大統領の為替認識に潜む「危険」

 4月20日、生半可な考えは、まったくのでたらめよりも危険な場合がある。トランプ米大統領の為替レートに関する考えはその良い例だ。写真は1月、都内の外為ディーリングルームの画面に映ったトランプ大統領のニュース映像と日米国旗(2017年 ロイター/Toru Hanai)

[ロンドン 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 生半可な考えは、まったくのでたらめよりも危険な場合がある。トランプ米大統領の為替レートに関する考えはその良い例だ。それは一面で本当だが、提唱している解決方法が問題自体より有害なことから、なおさら始末が悪い。

トランプ氏と米国家通商会議のナバロ委員長は、中国とドイツ、そして恐らく日本が人為的に為替レートを押し下げているとみなしているようだ。その結果、米国から雇用が奪われているという。

こうした批判には一片の真実が含まれている。為替レートは輸出入にある程度影響し、対外収支は雇用を幾分左右する。例えば中国は、人民元を強引に低いレートに抑え込み、輸出拡大を後押しして、経常黒字は2007年に国内総生産(GDP)の10%まで拡大した。この大規模な対外不均衡は、雇用の不均衡も意味した。つまり中国が世界に製品を提供するために生み出した雇用は、残りの世界が中国向け輸出に絡んで創出した雇用よりも多くなった。

しかしこれは真実としても、ほんの些細な事象にすぎない。米経済が抱える問題において、不公正な貿易というのは重要度のリストでは下の方に属する。米国の対GDP比2.5%という経常赤字は、国内の労働市場や経済的繁栄に相応の変化をもたらすにはあまりにも小さすぎる。米国の輸出産業が創出する雇用、米国への輸入品を外国が生産することで奪われる雇用の量はさほど差はない。

また経常収支から見ていくらかの「雇用の赤字」があるとしても、その大半は資本収支の黒字で穴埋めされるはずだ。資本収支が黒字ということは、外国人が対米輸出で稼ぎ、米国からの輸入品購入に使っていない資金が存在する。これらは米国の金融市場を通じて雇用を伴う投資として有効に活用され得る。もし米国がその機会を逃しているなら、それは貿易相手国が悪いからではなく、愚かな政府もしくは金融システムの不適切な管理が原因だろう。

百歩譲って対外不均衡が問題だと考えても、ドイツや米国のような先進国では為替レートは解決策としては大して効果がない。確かに、通貨安はしばらく輸出拡大に寄与するが、別の要素の方がずっと影響力が大きい。高度な製品は価格よりも品質やサービスが物を言う。さらに世界的なサプライチェーンの存在は、大幅な為替レートの変動も最終価格段階ではかなり小さくしてしまう。

各国はやろうと思えば国内の税制や資本フロー、金融政策を駆使して貿易に影響を及ぼせる。トランプ氏に政策を助言しているエコノミスト、ジュディ・シェルトン氏はウォールストリート・ジャーナル紙に対して、日本の大規模緩和は主に輸出促進が狙いで、米国に打撃を与えているとの見解を示したが、いささか被害妄想の気がある。さまざまな国家が米国のためにならない経済運営をしているからというだけで、不正になるわけではない。

いずれにせよ通貨価値に焦点を当てた政策は予測不能で、貿易への影響も測りがたい。日本のケースを見ても、アベノミクスが輸出にプラスかどうかこれまでのところはっきりしていない。

為替レートについてもう少し理屈の通った不満と言えるのは、変動が激しすぎることだ。ドルの実質実効レートは2011年以降に39%上昇し、02─11年は33%も下落した。いずれもなぜそうなったのかもっともらしく説明したり、正当化するのは難しい。

より短期的な乱高下も同じくその動きは勝手気ままで、国境を越えた投資のハードルを上げる。為替トレーダーにとってこそ好都合だが、実体経済には足かせとなる。

こうしたボラティリティを抑える最適な方法は、実効レートの安定化に主要中央銀行が協力することだ。国際協調が実現すれば、米国の富はより急速に、より着実に、より安全に増加していける。しかし現時点でこれは想像外の世界にある。シェルトン氏は固定相場への回帰を主張するだけでなく、為替市場への政府介入も非難している。

トランプ氏は、無害な貿易不均衡への対応として経済政策の中で最も信頼性が劣る「輸入代替(輸入に頼っていた製品を国産に転換すること)」を提案した。

同氏や側近は、輸入代替を実現する一番のやり方は個別企業たたきと関税措置の組み合わせだと考えている。もし外国政府が報復に動けば、お互いを傷つける貿易戦争が勃発する可能性がある。たとえ通商面でそれほど波風が立たなくても、米経済は国際貿易に背を向けることで大きな損をすることになる。輸入代替は、米国民が現在の輸入品より質が低く割高な製品を生産する結果を招く。輸出産業の雇用は、より低質なかつての輸入品の代替製品生産業に置き換えられる。

為替レートは何世紀にもわたって経済が抱える問題の1つになってきた。固定相場制度の時代は、動きがあまりに小さかったり、突然崩壊する場面があった。現在の変動相場制では、動きが急速すぎるか、突発的すぎる面がある。それでもトランプ氏の考えのように為替レートに対する筋の悪い解決策は、何も手を打たないよりも害が大きい。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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