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特別リポート:製造業の町、労働者がトランプ氏に求めるもの
2017年6月23日 / 03:24 / 3ヶ月前

特別リポート:製造業の町、労働者がトランプ氏に求めるもの

6月20日、トランプ大統領をはじめとする多くの政治家は、米国にはもっと製造業の雇用が必要だと主張するが、この小さな町には、十分すぎるほどの働き口がある。ここにいる労働者の多くにとって、問題は雇用の数ではなく質だ 6月12日、インディアナ州ゴーシェンの大型車両用部品工場で撮影(2017年 ロイター/Joshua Lott)

[エルクハート(米インディアナ州) 20日 ロイター] - トランプ大統領をはじめとする多くの政治家は、米国にはもっと製造業の雇用が必要だと主張するが、この小さな町には、十分すぎるほどの働き口がある。ここにいる労働者の多くにとって、問題は雇用の数ではなく質だ。

ブランドン・サイツさん(32)の場合がまさにそれだ。中西部インディアナ州エルクハートは、世界のキャンピングカー(RV)の首都と呼ばれるほどRV製造が盛んで、サイツさんは、地元工場の組み立てラインで12年間働いた。そこで、細身のサイツさんは体を壊しかけたという。

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他のRV工場の組み立て作業員と同様に、サイツさんの給料は、低い時給と、「ピース・レート(出来高払い)」と呼ばれる、割の良い特別手当という組み合わせだった。生産目標を達成して特別手当を得るため、組み立てラインは大忙しで、事故が起きることも多かった。工場勤務を始めた年、鉄鋼フレームがサイツさんに当たり、膝の腱が切れた。

そして、工場の中は暑い。大半のRV工場には、空調設備がない。「いつも汗をかいていた。夏は、2.5ガロン(約9.5リットル)の水を飲んでもまだ喉がかわく日もあった」と、サイツさんは言う。2014年に、背中を切開してレーザーで腎臓の結石を除去する手術を受けた。脱水状態が原因だと言われたという。

それをきっかけに、サイツさんはRV工場の生産ラインでは二度と働かないと決めた。「カネは良いが、身体に悪すぎる」

昨年の大統領選で、トランプ候補がアメリカ造業の復活を公約し始めたころ、エルクハートでは、まさにその復活が進行していた。

2008年から2009年にかけてのグレートリセッション(大不況)では、地元の失業率は20%に達しており、全国でも最悪レベルだったが、その後、季節調整後で1.9%にまで低下。この20年で最低となっただけでなく、全米平均の4.3%も大きく下回っている。

RV産業は、その改善に大きく貢献した。地元当局者は、雇用の半分が製造業で、そのさらに半分がRV関連だと推測する。現在、エルクハート郡とその近隣地域で、米国製RVの85%を製造している。昨年の売り上げ台数は、1970年代以降で最高に達した。

エルクハートのソーア工場でキャンピングカーを組み立てる労働者(2017年 ロイター/Joshua Lott)

エルクハートのソーア工場でキャンピングカーを組み立てる労働者(2017年 ロイター/Joshua Lott)

こうした数字を見る限り、エルクハートの景気は良好で、中央政治に忘れられたと感じ、トランプ氏を当選させる原動力となった白人労働者が集まる街ではないように見える。

<トランプ氏の牙城>

しかし、この町では有権者の3分の2がトランプ氏に票を入れた。共和党が強いインディアナ州全体よりも、トランプ氏の支持率が高かった。

新政権発足から数カ月、ロシアによる大統領選介入疑惑の捜査が行われ、トランプ大統領が公約のほとんどを実現できていないにもかかわらず、地元労働者のトランプ支持は根強い。今回ロイターの取材に応じた大統領選の投票棄権者にも、その傾向が見られた。

サイツさんもその1人だ。彼は、昨年11月の大統領選で投票しなかった。誰を信じていいか分からなかったという。今は、トランプ氏に投票するだろうと感じているという。「メキシコから雇用を取り返すという約束を果たしつつある」と、サイツさんは言う。

ブランドン・サイツさん (2017年 ロイター/Joshua Lott)

ブランドン・サイツさん (2017年 ロイター/Joshua Lott)

サイツさんや今回インタビューを受けた多くの労働者は、エルクハートにすでにあるような仕事を、さらに求めている訳ではない。彼らは、長期間働けて、安定した収入が得られる仕事が欲しいのだ。数十年前は、こうした仕事はふんだんにあり、エルクハートを含む中西部の産業地帯一帯で、中間所得者層の形成と維持に貢献した。

彼らは、移民とグローバル化により、エルクハートで見つかる仕事の質が変わってしまったと感じている。

「(トランプ大統領が)アメリカを再び偉大にできると本当に思っている」と、マリー・スワイハートさん(28)は話す。

大統領選でトランプ氏に投票したスワイハートさんは、RV製造の米最大手ソーア・インダストリーズ(THO.N)の工場で車両用ハーネスにワイヤーを取り付ける作業を、時給15ドル(約1670円)で行っている。

他の多くの労働者と同様に、スワイハートさんも、移民は米国出身の労働者よりも低い賃金で働き、悪条件にもあまり文句を言わないと考えている。「もし彼らを送り返すことができれば、合法的な米国人の雇用が増えることになる」と彼女は言う。

国勢調査によると、エルクハート郡における人口の75%は、ヒスパニック系以外の白人で、約3万人のヒスパニック系住民は、コミュティの規模は小さいものの、急増しているという。

全米各地の不法移民数を推計した、移民研究センター(ニューヨーク市)のロバート・ウォーレン氏によると、エルクハート郡には、主にメキシコからの不法移民が約9400人いる計算になる。そのうち、仕事を持つ人の67%が、工場や生産関係の仕事についているという。

ソーアなどのRVメーカーは、待遇面で移民を他と異なる扱いはしておらず、不法移民は雇用していないと回答した。

<労働者には水を>

仕事内容について、ソーアなどは、工場は忙しいものの、安全だとしている。ソーアのケン・ジュリアン副社長は、業界として常に組み立てラインのデザインなどを改善し、どの年代の従業員も作業しやすく、かつ安全に働けるよう配慮していると説明する。

暑さ対策として、水や飲み物を常に用意し、「気温が華氏100度(摂氏37.8度)を超えたら、工場を閉鎖する」と同副社長は話す。

また、業界幹部は、特別手当制度は、短期間で効率よく稼げるとして労働者に人気だと話す。

魅力的かどうかは別にして、RV業界の仕事は、米国のブルー・カラー労働者にとって最善の選択肢となりつつある種類の仕事を象徴している。業界には年間を通じて好不況の波があり、今回の生産ブームでは起きていないが、レイオフが行われることもある。

組み立てラインの猛烈な作業ペースは、多くの労働者にとって、耐えられる限界、もしくは健康や体力が衰えるまでしか、一番稼ぎの良いラインでの仕事を続けられないことを意味する。これ以上働けないとなった時点で、より給料の低い仕事に移っていく。

サイツさんも、腎臓結石の手術を受けた後、そうした。今は、ソーアが最近買収したRVメーカー「ジャイコ」のサービス部門で働いている。今の仕事は週48時間勤務で、組み立てラインでの平均35時間より長いが、週給は500ドル少ない。だが、自分のペースで働くことができ、顧客とやり取りできる今の仕事の方が気に入っているという。

ソーアのキャンピングカー工場(2017年 ロイター/Joshua Lott)

ソーアのキャンピングカー工場(2017年 ロイター/Joshua Lott)

<古き良き時代>

 6月13日、ソーアのエルクハート工場に並ぶキャンピングカー(2017年 ロイター/Joshua Lott)

RV業界の労働者は、「雇用されているが不安な層」に属すると、マイク・ダウンズ・インディアナ政治センターのアンドリュー・ダウンズ氏は言う。

トランプ氏はこうした層に、「一生懸命働いているのに、望むほど暮らしが楽にならないね」と語りかけ、かつて、生活や仕事の質が今より良かった時代があったと主張して、支持を訴えた。

そうしたメッセージは、エルクハートでは共感を呼んだ。かつてこの町には、もっと多様な産業拠点があり、中産階級を支える雇用があった。RVの前には、十数軒の楽器工場があり、「世界の楽器の首都」として知られた時代があった。そうした工場は、今では中国に移転してしまった。また、巨大製薬会社が拠点を構えた時期もあった。

エルクハートで起きたことは、米国産業界のあちこちで起きていることだ。

米国の工場賃金は、2006年に全民間産業の平均賃金を下回り、それ以降、差が拡大している。労働省の統計によると、現在、製造業の平均時給は20.79ドルで、全産業平均の22ドルより低い。2008年に製造業を抜いたサービス業の平均時給は21.79ドルだ。

カリフォルニア大バークレー校の労働センターによる2016年の研究では、米製造業労働者の3分の1は賃金が低すぎて、フードスタンプ(食糧配給券)などの政府補助の対象になるという。

ステイシー・カーチスさん(54)がトランプ氏に投票したのは、「良い」仕事を取り返し、移民に対して強硬策をとるとの公約が気に入ったからだ。

ステイシー・カーチスさん(2017年 ロイター/Joshua Lott)

ステイシー・カーチスさん(2017年 ロイター/Joshua Lott)

カーチスさんは、16歳で学校を中退してバンをカスタム仕様にする店で働き始め、その後、人気の楽器工場で職を得た。労働組合があり、給料も良く、薄い金属を加工してトランペットやトロンボーンを製造するために必要な技術力によって立派な職だと認められていた。

2006年に、カーチスさんが働いていた工場を経営するコーン・セルマーの金管楽器部門が、中国製品との競争のため、就業規則を変更して給与を引き下げる提案を行い、労働者がストライキを行った。ストライキは3年続き、労働者側が労組との関係を絶って会社提案を受け入れることで決着した。カーチスさんはトロンボーンを製造する仕事に戻らなかった。

<白人がほとんどいない>

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カーチスさんは近年、工場での職探しをするたびに給料が下がり、自身の経歴が不利に働いていると感じている。「今日、工場をのぞいて見れば、白人やアメリカ人はほとんどいない。メキシコ人ばかりだ」

今は無職で、彼女は線維症と皮膚病を理由に障害給付金の受給を申請をした。

移民に対する苦々しい態度は、トランプ氏が選挙戦で刺激した、グローバル化の威力に対する広範な敵対心の一部だ。そして、カーチスさんが発したようなコメントは、エルクハートにおけるトランプ人気に明確に存在する「人種的要素」を反映していると、一部の人々には映っている。

トレイシー・デグラフリードさん(48)は、アフリカ系米国人で、大統領選では民主党のヒラリー・クリントン候補に投票した。サプライヤー向けに長年RV業界に関わり、2015年に、RVをディーラーへと運ぶトラック運送業者として独立した。

彼は、なぜ近隣に暮らす白人の多くがトランプ大統領を支持する訳を理解できるという。「アフリカ系米国人として、われわれは常に苦労してきた。でも白人は、欲しいものは常に手に入れてきた。他の人たちが常に感じてきた痛みを、彼らはいま感じるようになったのだ」

トレイシー・デグラフリードさん(2017年 ロイター/Joshua Lott)

トレイシー・デグラフリードさん(2017年 ロイター/Joshua Lott)

この「痛み」とは、エルクハートにかつて比較的多く存在した、給料が良く安定した仕事を手に入れるための努力のことを指すと、彼は言う。「だから、トランプ氏はここで勝ったんだ」

時間とともに、さまざまな業種の工場が他に移転したことで、地元経済は、RV製造への依存を強めることになった。

それぞれの工場で製造されるRVのモデル数は数種類に限定されることが多く、結果的に、製造拠点が拡散されることになった。ソーアは、エルクハートとその周辺を中心に190の工場を運営している。売上高は、昨年46億ドルに達した。

どの工場も、これまで一度も労組が結成されたことがない。ほとんどの従業員が、他の産業ではほぼ撤廃されたピース・レートで給与を受け取っている。基本給は時給10ドルと安く、生産目標を達成すればボーナスが出る。最も高級なRVを製造する組み立て工場では、景気が良い時には、労働者1人当たり年間6万ドル程度を稼げるという。

<給料は低いが、楽な仕事>

3人の子供の母親のカースティン・サザンさん(34)は、2つの会社のRV組み立てラインで働き、ピース・レートで給料を受け取っていた。「しばらくすると、体がガタガタになった」と彼女は言う。「ピース・レートがあると、悪いことが起こりやすくなる。完成を急ぐからだ」

カースティン・サザンさん(2017年 ロイター/Joshua Lott)

カースティン・サザンさん(2017年 ロイター/Joshua Lott)

勤務中のけがはなかったものの、常に疲労状態だったという。

いまは、RV部品などを製造するLCIインダストリーズ(LCII.N)のエルクハート近郊工場で、部品供給を管理する仕事に就いている。勤務時間は固定で、待遇はおおむね良好だという。

もし昨年大統領選に投票していたなら、トランプ氏に投票しただろうと、サザンさんは言う。「トランプ氏は雇用の回復を掲げている。それには賛同する」

彼女が働くLCIは、職場環境や待遇改善に乗り出した企業の1つで、人事担当のニック・フレッチャー氏によると、離職率は4年前の100%から40%以下に低下した。

フレッチャー氏は、「労働者の安全や品質への意識を高めるものではない」して ピース・レートの廃止を訴えている。今は同社従業員の75%以上が固定時給制で、平均時給17.50ドルだという。勤務時間中の事故の発生率も、従業員数が3000人増えて8000人規模となったにもかかわらず、2013年比で大きく低下した。

だが、ほとんどのRV工場労働者にとって、労働条件はこれまでとほとんど変わってない。キャシディ・デイビーズさん(29)は以前、あるRV工場から別の工場へと、転職を重ねた。職場の雰囲気が悪く、耐え難い工場が多かったためという。

「ドリルの電池を勝手に借りたというだけで、殴り合いをする様な人がいた」という。生産台数に応じて、「給料も、いつも上がったり下がったりを繰り返した」と彼は言う。

いま、彼はソーアの大型工場で働いており、そこは今までで一番気に入っている職場だという。だが、キャリアを築いていける仕事だとは考えていない。「後どれぐらい働けるか、正直分からない。毎日、自分をいたぶっているようなものだから」

デイビーズさんは、これまで投票に行ったことがないという。「トランプ氏の人に対する話し方や態度は嫌いだ」と言う。「でも、やっている事には賛成できるものもある」。良質な製造業の雇用を取り戻すという主張は、その1つだという。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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