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視点:トランプ円安は幻想、進む「米国の日本化」=青木大樹氏
2017年1月21日 / 03:33 / 8ヶ月前

視点:トランプ円安は幻想、進む「米国の日本化」=青木大樹氏

そのため金利上昇は抑制され、ドル安方向にむしろ振れる可能性が高いと読む。ドル円レートについては、6月末110円、12月末105円と予想する。

同氏の見解は以下の通り。

<米家計・企業マインドも保守化>

当社では、11月の米大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏の勝利後、従来の市場見通しを大幅に見直すべきか否か議論してきたが、最終的には現時点でその必要はないとの結論に達した。その論拠を端的に整理すれば、1)トランプ大統領でも米国経済の日本化を容易には食い止められない、2)ゆえに長期金利の上昇ペースは抑制される、というものだ。

ここで言う日本化とはすなわち、貯蓄率の上昇、生産性の伸び悩み、高齢化の進行を背景に、低成長・低インフレ(そして潜在成長率の低下傾向)が続くことである。あまり知られていないが、米国も高齢化の進行などを受け、2010―15年近辺に生産年齢人口比率(15―64歳人口が総人口に占める割合)がピークを迎え、減少局面に入っている。今後、トランプ大統領が移民コントロールを強化するならば、こうした傾向に拍車がかかる可能性がある。

また、民間部門全体の貯蓄率(対国内総生産)にしてもここ数年で、1%台から3%台へと上昇している。リーマン・ショック直後の11%超の水準に比べれば、過剰貯蓄体質はだいぶ解消されたが、かつて貯蓄率がマイナスのときもあったことを考えれば、米国の家計・企業のマインドはかなり保守化したと言えよう。家計は可処分所得の拡大を貯蓄に回してしまっているし、企業も自社株買いや配当にばかり資金を割り当て、将来に向けた設備投資に積極的になっていないことが読み取れる。

さらに、労働生産性の伸びも、過去の景気回復局面と比べ、かなり低い状態が続いている。インターネットを活用したサービス分野でイノベーションが起こっているのは事実だが、産業全体の生産性向上につながることで低成長脱却の道筋が見えてきたとは言えない状況だ。

<財政政策の限界露呈へ>

こうした経済環境下、大統領に就任したトランプ氏が掲げているのは、周知の通り、「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」であり、保護主義的・機会主義的な政策である。イノベーションによって経済を底上げする政策アイデアが示されているわけではなく、減税やインフラ投資など旧来型の景気刺激策が語られている。

拡張的な財政政策で企業や家計のマインドが一時的に大きく回復することはあっても、潜在成長率が高まらなければ、いずれ効果は剥落する(あるいは、アニマルスピリッツが刺激され、投資や消費の回復が持続し、生産性上昇すらもたらすのだろうか。その可能性はかなり低いように思える)。

また、財政拡大と言っても、均衡予算主義者の多い共和党議会との調整の難しさを考えれば、規模は当初期待より大きく縮小し、予算執行のタイミングもかなり遅くなる可能性がある。現段階で明らかになっている材料では、とても米国経済の日本化が食い止められるとは思えないのが実情だ。

このような前提に立つと、米国経済の回復はこれまで通り、緩やかなものとなり、2017年2.4%、18年2.5%の成長を見込んでいる。よって、米連邦準備理事会(FRB)による今年と来年の政策金利引き上げも年2回ずつにとどまるだろう。

このペースは、昨年12月に連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが示した見通しとも整合的だ。結果的に、長期金利の押し上げ効果は約50ベーシスポイント(bp)にとどまり、米10年債利回りも年内は引き続き2.5%近辺が天井となろう。

ただし、これは米国経済にとって決して悪いシナリオではない。期待先行の危うさは、アベノミクス下の日本が示してきたことだ。米国の場合、緩やかとはいえ、インフレ率(消費者物価)は食品とエネルギーを除いたコアベースで前年比2%を上回るなど回復しており、成長率も国際通貨基金(IMF)の予想では、今年、来年と主要7カ国(G7)内では最も高くなると見込まれている。

経済の日本化は先進国全体に共通する現象だが、米国は欧州諸国に比べて、ましてや日本よりも、はるかにましな状況にある。長期金利の上昇が抑制されれば、ドル高の進展にもブレーキがかかる。企業収益にとってもプラスに作用しよう。

要するに、潜在成長率を引き上げる「決め手」を欠く中で、無理な財政出動によって不均衡(バブル)を作り出し、数年後にその後処理に困るよりも、現在の巡航速度を維持した方が米国にとって持続可能な成長につながる最善のシナリオと言えるだろう。

<トランプ時代の投資戦略>

では、こうした状況を見越して、どのような投資戦略を取るべきなのか。まず先進国に関しては、ドル安で企業収益の拡大が見込める米国株に引き続き期待が持てるだろう。金利が急激に上がらないので、米国の物価連動債やシニアローンも狙い目だ。

また、米金利高・ドル高が進まないとすれば、新興国危機が引き起こされることもない。よって、新興国(中国・インド・ブラジルなど)の株式も、一時的な下落局面では、押し目買いの対象となり得る。むろん、新興国とひとくくりで言っても経済ファンダメンタルズや政治情勢によって千差万別だが、世界の成長センターが先進国から新興国へとシフトしていく流れは、トランプ政権下でも不変だと考える。

最後に、ドル円についてはどうか。前述した通り、米国側の要因は下落(ドル安)方向に働くが、実は日本側の要因でも下落(円高)方向に作用すると考えている。最大の根拠は、日銀が年内に量的緩和のテーパリング(段階的縮小)に乗り出す可能性が高いとみているためだ。

日銀の大量購入の影響で、国内金融機関(預金取扱機関)の国債保有率は年々下がり、金融取引の担保や規制対応のために最低限必要と試算される5%水準に近づきつつある。このままのペースで日銀が国債購入を続けていけば、金融機関の経営を揺さぶることになりかねない。現在「年80兆円増」の購入ペースは恐らく年内に70兆円台、来年は60兆円台へと減額されていくのではないか。

加えて、今後の物価上昇見通しを考えると、早晩、日銀は現在ゼロ%としている長期金利誘導目標を引き上げざるを得なくなる可能性も出てくる。すなわち、日米金融政策のダイバージェンス(かい離)は、さほど広がらない可能性が高い。

このように米金利、日本のマネタリーベースの伸び、加えて経常収支動向などに照らして考えると、現状のドル円レート(20日のニューヨーク市場では114―115円台)が割高であることが分かる。6月末には110円程度、年末には105円近辺へとドル安円高方向に動く可能性が高いとみる。日本株についても、円高による企業収益圧迫を考えれば、下落方向に圧力がかかりやすい。日本株は、選別投資を一段と進めるべき局面だろう。

*写真を差し替えて再送します。

*本稿は、青木大樹氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(聞き手:麻生祐司)

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる。

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