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視点:所得課税から消費課税へシフト加速を=土居丈朗氏
2016年1月4日 / 04:57 / 2年前

視点:所得課税から消費課税へシフト加速を=土居丈朗氏

[東京 4日] - 財政健全化と経済成長を両立させるためにも、税源がジリ貧の法人税や所得税への依存度を下げ、消費課税へと日本の税制の主軸をシフトさせることが必要だと土居丈朗・慶應義塾大学教授は指摘する。

ただ、与党の2016年度税制改正大綱で、法人実効税率引き下げの代替財源として外形標準課税の強化が盛り込まれたことには問題があるという。

同氏の見解は以下の通り。

<世界の潮流から逸れた外形標準課税の算定方法>

安倍内閣が閣議決定した2016年度税制改正大綱に、国・地方を合わせた法人実効税率を現行の32.11%から29.97%に引き下げることが盛り込まれた。

安倍内閣は14年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2014」、いわゆる骨太の方針において、「数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す」と明言していた。有言実行は、国内外の経済界に対して、アベノミクスの健在ぶりを示す効果的なメッセージとなろう。

詳しくは後述するが、私は、財政健全化と経済成長を両立させるためにも、日本の税制は法人・個人に対する所得課税への依存度を下げ、その主軸を消費課税へとシフトすべきだと考えている。その意味で、17年4月の消費税率の現行8%から10%への引き上げを前にした、20%台への法人実効税率引き下げは、あるべき姿への大きな前進だと評価している。

安倍政権が放った「新3本の矢」について慶應義塾大学経済学部教授の土居丈朗氏は、需要喚起から供給サイド強化への政策枠組み転換だとすれば高く評価できるとの見方を示した。

ただし、今回の法人税減税をめぐっては、1つ残念な点がある。それは法人実効税率引き下げに伴う税収減を埋め合わせる代替財源として、外形標準課税の強化が決まったことだ。

外形標準課税は、分かりやすく言えば、企業の業績にかかわらず、赤字法人でも納税義務が発生する税金だ。法人税は儲け(所得)に対して税金が課される。実効税率引き下げは、法人所得に課す税率を下げることを指す。これに対し、法人実効税率引き下げに伴う代替財源として、所得以外の法人課税が強化されることとなった。それが外形標準課税の強化で、今回も再び対象となったわけだ。

この課税方式の何が問題かと言えば、経済活動を歪めてしまう可能性がある点だ。やや専門的な話になるが、外形標準課税の対象となる付加価値額は足し算方式(加算法)で算出される。人件費や払った利子、賃貸料や単年度損益などを合算し、その合計である付加価値額に比例して課税する形をとっている(「付加価値割」と呼ぶ)。

残念ながら、この付加価値割は、他の主要国の多くはもうやめつつある。むしろ、付加価値に税金をかけるならば、欧州諸国でも引き算方式(控除法)が主流となっているのが実情だ。日本でもおなじみの消費税が、まさにそれにあたる。

簡単に言えば「売り上げ-仕入れ」という引き算で計算される付加価値に対する課税である。しかも、そこにはインボイス(税額票)があって、仕入税額控除が適用される。取引前に仕入れ段階で負担した税金は、きちんと売り手が買い手に転嫁して、売るときに消費税を加えて払ってもらう。

一方、加算法である付加価値割では、それがまったくできない。仕入税額控除も輸出取引の免税も認められない。そのため、物流に税負担の重荷を課す仕組みとなっている。

また、加算法では、単年度損益が変わらない場合に、報酬給与額を増やすと、付加価値割税額が増えてしまう。安倍政権は、賃金上昇と投資増の好循環を目指しているわけだが、企業によっては人件費増の誘因が働かない可能性もある。

解決策としては、こうした付加価値割の外形標準課税からは日本もなるべく早く「卒業」し、他の方法に求めることだろう。その最有力候補は消費税だと思う。

安倍内閣になってからの法人実効税率の引き下げに伴って、事業税付加価値割の税率は2.5倍に引き上げられた。いまさら、付加価値割の税率を引き下げるのは難しい。ならば、事業税付加価値割も消費税もともに付加価値に課す税である点に着目すればよい。前者は加算法で後者は控除法という違いだけである。そこで、事業税付加価値割を消費税に完全に置き換えることで、事業税付加価値割にまつわる問題を解決できる(「置き換える」だけであって国民全体で見れば税収中立だ)。

なぜそれほどまで消費税へのシフトの必要性を強調するかと言えば、所得税や相続税、法人税ばかりに財源を求めても、グローバル競争の中で富の海外流出を招き、かえって税収を失ってしまう可能性があるからだ。

こう話すと、特に法人税については、引き下げても国民に恩恵がないという反論が来そうだが、それは誤解だ。法人には従業員や株主、債権者など様々なステークホルダーがいて、法人税負担があるために、その分給与が減らされたり、配当が抑えられたりしている。法人税負担のしわ寄せは、誰にどれくらい生じているのかは見えにくいが、従業員や株主などに確実に及んでいる。

それに対して、消費税ならば、日本の最終消費者にモノを売る限り、日本企業が作ったモノでも外国企業が作ったモノでも、平等に課税され、日本企業だけ不利になることはない。

そもそも、国際的に見て日本の消費税率は低い。しかも、これから高齢化のペースがさらに加速していく日本において、引退後の高齢世代にも負担してもらえるので、世代間格差の是正という観点からも望ましい税源だ。

むろん、消費税には、低所得者に重い税負担を課すという性質があるが、この問題は本来、給付付き税額控除(課税最低限以下の低所得者に給付を与えること)を所得税制で合わせて導入することによって解決できるはずだ。社会保障・税番号制度(マイナンバー)を利用すれば、低コストで所得を捕捉し、不正受給も防げる。

一方、政府は現在、この問題を軽減税率導入で解決しようとしているが、経済学者の立場から言えば、この考え方には反対だ。他国の事例で示されているように、事務コストは大きく、いわゆる「益税」や不正の温床となる傾向がある。ただ、それでも政治主導で導入されるのであれば、少なくとも欧州型のインボイスの早期導入だけは何としても実現してもらわなければならない。

<10%超の消費増税もタブー視せず検討必要>

もちろん、日本の財政健全化は、増税だけで実現できるわけではない。経済成長、そして歳出削減は不可欠である。

成長については、「新3本の矢」で、出生率1.8や介護離職者ゼロなど供給サイドの改革を意識した目標が打ち出された点は評価できる。日本経済の問題は、日銀の試算で0.5%程度とされる潜在成長率の低さであり、それは金融緩和や財政出動などの需要喚起策では解決しない。供給サイドに働きかける政策によって、民間部門の活性化や生産性向上を促し、潜在成長率を引き上げる必要がある。

ただ、財政健全化に対する経済成長の寄与について言えば、内閣府の試算にもあるように、今後の経済成長率を最大限高めに見積もったとしても、政府目標の20年度基礎的財政収支(PB)黒字化を実現するための要対応額は6.2兆円に上る。すべてを増税で賄うことは非現実的であり、歳出削減は避けて通れない。

政府も動き出している。経済財政諮問会議の専門調査会では12月初旬に、歳出改革の工程表をまとめた。医療・介護などの社会保障分野を中心に主要な歳出80項目のすべてについて、改革の具体的な内容、規模、時期などについて明確化した。20年度のPB黒字化にコミットしたものではないが、主要改革項目に対して約180のKPI(重要業績評価指標)を策定し、進捗(しんちょく)管理していく点は画期的な試みだ。

今後成長率が想定を下回るようなことがあれば、その分、財政健全化への要対応額はさらに膨らんでしまう。前述した歳出改革工程表ではあまり踏み込まなかった年金を含めて、この国の財政・社会保障のあり方について、16年に包括的な議論を深め、いよいよ道筋をつける必要がある。

ともすれば、17年の消費増税前に、国民の痛みを伴う改革は避けたいという誘因が働きそうだが、20年度にPB黒字化を実現し、対GDP比で政府債務比率を安定化させていくためには、もう残された時間は少ない。10%超の消費増税もタブー視せず、議論すべきだ。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、土居丈朗氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。

*土居丈朗氏は、慶應義塾大学経済学部教授。専門は、財政学、公共経済学、政治経済学。2009年より現職。現在、行政改革推進会議議員、税制調査会委員、一億総活躍国民会議議員、財政制度等審議会委員、社会保障審議会臨時委員などを務める。東京大学経済学博士。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの特集「2016年の視点」に掲載されたものです。

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