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コラム:鈍い賃金上昇、背景に高齢者の低賃金労働の可能性も 
2017年7月14日 / 10:29 / 2ヶ月前

コラム:鈍い賃金上昇、背景に高齢者の低賃金労働の可能性も 

 7月14日、国内景気は堅調推移なのに、物価上昇率は政府・日銀の見通しを下回っている。都内で1月撮影(2017年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 14日 ロイター] - 国内景気は堅調推移なのに、物価上昇率は政府・日銀の見通しを下回っている。そこにはさまざまな要因が絡み合っているが、中でも重要なのが賃金上昇の鈍さだ。失業率が低下すれば、賃金は上がるはずと政策当局は予想してきたが、想定外のことが起きている可能性がある。

それは労働市場に参入する高齢者を低賃金で働かせている現象だ。「同一労働・同一賃金」の徹底が、賃金と物価の上昇につながると考える。

<堅調な景気、鈍い物価上昇>

足元の日本経済は、0.5%程度の潜在成長率からみれば「健闘」していると言えるのではないか。2017年1─3月期の国内総生産(GDP)は前期比・年率プラス1.0%。

だが、物価は日銀の目標の2%からかなり下方で推移し、直近の5月全国消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)は前年比プラス0.4%だ。

実体経済の堅調さと物価の鈍い伸びには、どのような関連性があるのか──。19、20日に開かれる日銀の金融政策決定会合でも、この「謎」を巡って活発な議論が展開されるとみられている。

製造業を中心に労働コストが、世界的な競争にさらされ、先進国では軒並み賃上げ率が鈍化していることや、人手不足を補う自動化投資に資金を投下し、賃上げや製品価格上昇が鈍くなっていることなどが、エコノミストなど識者が指摘している大きな要因だ。

ただ、政府・日銀は失業率が低下してくれば、いずれ賃金は上がってくるとみていた。4月の完全失業率は2.8%まで低下し、5月の有効求人倍率は1974年2月以来、43年3カ月ぶりの高水準である1.49倍に上昇した。

<深刻化する人手不足、不釣り合いな賃上げ率>

しかし、人手不足が深刻化している割には、賃金の上昇力に加速感が出てこない。連合によると、2017年春闘の賃上げ率は、前年の2.00%から微減の1.98%。4年連続で2%前後の水準を維持したが、完全失業率に接近していると言われるようなタイトな雇用環境の下にもかかわらず、賃金が跳ね上がるという現象は起きていない。

政府・日銀は、企業収益の増加─賃上げ─消費拡大─整備投資増加という拡大サイクルを思い描いてきたが、現実には賃上げのところで、動きがトーンダウンしている。

過去最高益を出している企業は、先行き不安を理由に、賃上げ率の引き上げに消極的で、結果として利益剰余金を過去最高の390兆円まで積み上げ、「溜まり水」のようになって財政・金融政策の効果が十全に出ていない構造を作り出している。

<国際的に目立つ60歳超の賃金カット率>

私はここで、直近の賃金コスト圧縮には、60歳以上の社員の賃金カットや、非正規社員の雇用に低賃金を受け入れる高齢者を積極的に採用するという企業の「雇用政策」があるのではないか、という「仮説」を提起したい。

6月2日のコラム[nL3N1IZ276]でも指摘したように、日本は欧州各国と比べて、60歳以降の年収の減り方が顕著で、3割程度の賃金カットを実施している企業が多い。高齢者の賃金の3割カットは、すでに「常識化」されつつある。

また、ハローワークなどで提示されている65歳超を対象にした求人では、月額20万円やそれを下回る額の提示が圧倒的に多く、「高齢者を安く雇う」と風潮は、急速に広がっているようにみえる。

<正確な姿が見えない高齢者の労働市場参入>

こうした労働コストの圧縮策は、個々の企業にとっては、収益確保の強力なツールになるが、個人の購買力を抑制する効果を持つ。

今のところ、詳細なデータがないので確認できないが、ハローワークに行って働くを意思を示している人々以外の高齢者が、労働市場に参入して安い賃金で雇用されれば、失業率が3%を割り込んでも、賃金が上昇しないという現象を生み出しうるとの推理も成り立つ。

政府は「同一労働・同一賃金」の重要性を指摘しているが、掛け声だけでなく、同じ仕事内容における賃金カットを阻止するような法令を新たに作るべきではないか。

産業界からは当然、反対の声がわき起こるだろうが、あるべき社会構造や中長期的な経済の持続性を考えると、年齢を理由にした賃金カットや低賃金労働を規制するべきだ。

また、政府は直近の労働市場で何が起きているのか調査するべきであるし、労働問題の専門家を中心に学識経験者が、足元で起きている現象について、詳細な研究を進めてほしい。

欧米の学会で提起されている学説を「翻訳」して紹介するだけでは、高齢化の最先端社会である日本における構造変化の実態を把握することはできない。

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