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COLUMN-新興国通貨キャリートレード復活の条件=村田雅志氏
2012年9月12日 / 02:36 / 5年前

COLUMN-新興国通貨キャリートレード復活の条件=村田雅志氏

 --本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラム(here)に掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています--

 

 村田雅志 ブラウン・ブラザーズ・ハリマン シニア通貨ストラテジスト

 

 [東京 12日 ロイター] 為替市場のインプライドボラティリティ(予想変動率、以下IV)は夏場以降、低下傾向を続けている。IVは市場参加者が予想する将来の一定期間内の変動率を数値化したものであり、IVが低ければ当該期間内における値動きが小さくなると市場参加者が予想していることを意味する。

 

 たとえばドル/円の3カ月IVは4月初めに11%近くまで上昇していたが、足元(9月7日時点)では7%台前半と2007年10月以来の低水準に達した。比較的ボラティリティが高いことで知られている豪ドル/ドルの3カ月IVは6月初めに14%台後半まで上昇する場面もあったが、9%台後半に低下。欧州債務危機で揺れているユーロ/ドルですら3カ月IVは6月初めの13%ちょうど近辺から足元では8%台後半と2008年8月以来の低水準を記録した。

 

 IVが低下したのは主要通貨だけでなくエマージング通貨も同様である。ドル/ブラジルレアルの3カ月IVは5月下旬に18%台まで上昇する場面もみられたが、足元では10%台後半と昨年7月以来の水準に低下した。ドル/韓国ウォンの3カ月IVも5月下旬に13%を超える水準まで上昇したが、その後は低下基調で推移し、2008年4月以来となる8%台前半で推移している。

 

 IVは将来の変動率を必ずしも正しく予見するわけではないが、足元のIVの低下を見る限り、市場参加者は主要通貨だけでなくエマージング通貨も含め為替市場での大きな値動きを見込んでいない。

 

 一般にIVが低下すると、低金利通貨を借り入れ、高金利通貨で運用する「キャリートレード」が拡大すると言われている。IVの低下は市場参加者が予想する為替差損が限定的であることを意味するため、金利差収入を収益の源泉とするキャリートレードの合理性が高まるからだ。

 

 現にキャリートレードが大きく拡大した2007年初めの3カ月IVは、ドル/円で6%台後半、ユーロ/ドルで6%をやや下回る水準、ドル/ウォンにいたっては4%台で推移していた。この経験則が生きているのであれば、足元で進行しているIVの低下を背景にキャリートレードが再び拡大することを期待してもいいのかもしれない。

 

 <2007年と2012年の違い>

 

 ただ、2007年初めと現在では世界経済の環境が大きく異なる。世界景気の成長率は2007年第1・四半期に年率6%を記録したが、2012年は3%台半ば程度にとどまる見込みである。特に中国景気の減速が目立っており、世界景気の先行き不透明感が強まっている。金融政策の点では、2007年初めは景気過熱感を背景に先進国、新興国ともに各国中央銀行が金融引き締め姿勢を続けていたが、2012年は後半に入り緩和姿勢を強めている。

 

 最近では欧州中央銀行(ECB)が政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き下げ0.50%とするとの思惑が強まっているほか、米連邦準備理事会(FRB)も2014年終盤までとされている異例の低金利状態を2015年半ばから終盤まで延長するとの見方が広がっている。新興国では7月に入り、中国、ブラジル、韓国、南アフリカ、フィリピン、コロンビア、ハンガリーが相次いで利下げを実施した。今後もこうした国々が追加利下げをするとの見通しが強まっているうえ、他の新興国が利下げに追随する可能性もある。

 

 キャリートレードで収益拡大を目指すには、為替差損を抑えるだけでなく、金利差収入を拡大させることが必要となる。しかし、景気の先行き不透明感が強く、世界的に金融緩和姿勢が強まる見込みである以上、たとえ為替差損の縮小が見込まれる(IVが低下する)状況であっても投資家はキャリートレードを拡大させる姿勢を強めないだろう。言い換えれば、キャリートレードが拡大するためには、世界景気の先行き不透明感が後退する(景気の底打ち感が強まる)とともに世界的な金融緩和局面が終了を迎える必要がある。

 

 しかし、世界的にはキャリートレードの拡大は期待できなくても、エマージング通貨の中にはキャリートレードの拡大を期待する条件(景気の底打ち感と金融緩和局面の終了)が整いつつあるところもある。その一例はブラジルレアルである。

 

 2012年のブラジル成長率は2%を割り込む可能性が指摘されているものの、2013年の成長率はこれまでの金融緩和の効果とブラジル政府による景気刺激策の効果で4%台に高まる見通しが強まっている。また、政策金利は今後さらに25bp引き下げられ7.25%まで低下するとの見方が広がっているが、その後はインフレ圧力の高まりを背景に政策金利は据え置かれ、場合によっては利上げの可能性もある。

 

 レアルは当面、安定的な値動きが見込まれる。ドル/レアルは3月初めの1.70ちょうど近辺からレアル安方向で推移し、5月下旬には2.10までレアル安が進んだ。そして、その後は概ね2.00から2.10のレンジ内で推移を続けている。ブラジル政府は、レアル高を抑制することで輸出産業の保護を狙う一方で、レアル安にも対応することで輸入物価の上昇を通じたインフレ圧力の高まりにも配慮する姿勢だ。

 

 特に足元ではインフレ指標が徐々に加速しており、ブラジル政府はレアル安に歯止めをかける必要性が高まっている。仮にレアルの下落が今後も続くようであれば、ブラジル政府は金融取引税(IOF)の税率引き下げなどの方策でレアル安を抑制する姿勢を強めるだろう。一方でブラジル政府は景気に配慮しレアル高を放置することもないだろうから、ドル/レアルはこれまでと同様に2.00から2.10程度のレンジ内で推移すると予想される。

 

 ブラジルレアルに対しては、ブラジル景気の減速感が強いことに加えて、3月から5月のレアル安局面を経験したばかりということもあり、良いイメージを持つ投資家が減っているようだ。ただ先進国、新興国で金融緩和が一段と進む中で投資家の収益機会が減っているのも事実だ。時間とともに投資家がブラジルレアルをキャリートレード通貨の一つとして再評価する動きが強まるように思われる。

 

 *村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのシニア通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。

 

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