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〔3.11を越えて〕被災地復興で進む「スマートコミュニティ」構築、課題乗り越え世界で共有も
2012年3月14日 / 07:32 / 6年前

〔3.11を越えて〕被災地復興で進む「スマートコミュニティ」構築、課題乗り越え世界で共有も

 [東京 14日 ロイター] 行き場のないがれきの山、鉄骨だけ残った建物――。東北沿岸部は震災から1年経った今も荒れたままの土地が広がる。被災地復興への歩みの遅さは否めないが、企業と地方自治体などが連携し、震災前とは違う未来に向かって地域のあり方を少しずつ模索する動きが出始めている。IT(情報技術)を通じて地域や家庭の電力を効率的に利用する街づくり、「スマートコミュニティ」の構築だ。

 

 スマートコミュニティはもともと日本企業にとって、人口の急増でエネルギー供給が追い付かない新興国や送配電網の老朽化が進む米国、太陽光や風力といった再生可能エネルギーが大量導入できる欧州など市場の大きい海外を意識したものだった。安定した電力供給を誇る国内では普及しにくいと考えられていたが、震災と福島第1原子力発電所の事故は、日本の電力供給体制のもろさを露呈。その信頼は一気に揺らいだ。

 

 震災後はエネルギー利用を見直す機運の高まりで、国内でもスマートコミュニティの必要性が認識された。省エネで防災機能も備えたスマートコミュニティが被災地で実現すれば、世界で共有できる技術や基盤、ノウハウにつながる可能性がある。

 

  <被災地での取り組み>

 

 仙台市若林区にある荒井東地区。2015年度の地下鉄東西線の開業に合わせた土地区画整理事業が震災前から進み、地元の関係者らによる「アライグリーンシティ(仮称)構想委員会」は再生可能エネルギーによる街づくりを目指していた。震災を受けて、同じ若林区の沿岸部で被災した住民の集団移転先として準備される場所の1つとなったほか、省エネだけでなく、災害にも強い街づくりを進めることを決めた。

 

 構想では、大規模太陽光発電所や蓄電池などを設置し、病院や公的機関への停電時の電力供給態勢や、パソコン、スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)などを活用した住民の安否確認システムの構築などを検討している。事業費は数百億円規模を見込み、約34ヘクタールの敷地に警察署や福祉施設、復興支援住宅など1600戸が建つ計画だ。地下鉄開業をめどに実現を目指す。構想の大きな枠組みづくりには、依頼を受けた日立製作所(6501.T)とNTT(9432.T)グループ4社も協議に加わっている。

 

  <国内でのスマートコミュニティ化、加速も>

 

 「話を一度、聞かせてほしいという依頼が全国から山のように来ている」――。東芝(6502.T)でスマートコミュニティ事業を統括する渡辺敏治・執行役専務は話す。実際にプロジェクトとして動き出すかどうかは別として、自治体などの関心は確実に高まっており、「まだ当分先だと思っていた日本でのスマートコミュニティ化にスピード感が出てきた」。

 

 東芝がこれまでスマートコミュニティ構想を提案した被災3県での自治体は宮城県石巻市など20を超す。バイオマス(生物資源)や太陽光による効率的なエネルギー供給システムの設計、難聴者でも確実に伝わるようにスマホなどを使う警報、最適な避難経路の誘導などを検討している。昨年買収したスイスのスマートメーター(次世代電力計)大手ランディス・ギアの技術を用いて災害時に電力を融通する仕組みも視野に入れる。

 

 国内では大阪府茨木市などでも実証プロジェクトを進めているが、東芝が見据えているのは海外だ。海外市場は国内の30倍以上もある。15年に約163兆円と推定されているスマートコミュニティ関連市場(日経BPクリーンテック研究所調べ)のうち、同社は8兆円をターゲット市場と位置付け、同年度の売上高目標は現在の約2倍となる9000億円を掲げる。内訳は海外63%、国内37%。「被災地の復興が進む中で新たに蓄積されるノウハウが強い武器となり、海外展開を加速できるようになればいい。そうしていかなければならない」(渡辺専務)。

 

  <『災害に強い街』は世界展開でのモデルに>

 

 「災害に強い街づくりという意味で、日本でのプロジェクトは(世界展開での)モデルになる」。日立スマートシティ事業統括本部の戸辺昭彦・担当本部長は期待を込める。国や自治体によって優先順位は違い、自然災害の対応も地震から洪水まで場所によって異なるが、「エネルギーの効率的な使い方、移動の効率的な手段、生活者が受けるサービスの考え方など基本的な要素は共通するものがある」からだ。

 

 日立のスマートシティ事業は今のところ国内比率が高めで、12年度の売上高は11年度見込み比8.3%増の1兆3000億円以上を計画。国内のプロジェクトでは茨城県日立市や千葉県柏市で進行中のほか、被災3県では仙台市など十数カ所で提案している。海外では巨大市場となる中国やインドなどで進んでおり、今後は国内と海外の両にらみで事業を拡大したい考えだ。

 

 NTTグループも被災3県の2、3カ所で参画を検討する。NTTドコモ(9437.T)の山田隆持社長は「ICT(情報通信技術)分野でぜひやらせていただきたい」と意欲を示す。アライグリーンシティ構想にはドコモのほか、持ち株会社のNTT、NTTファシリティーズ、NTT東日本が参加している。

 

 アライグリーンシティ構想委員長を務める大村虔一・元東北大大学院教授は「モノづくりの国としての日本もそろそろ転換期に来ている。単なるモノだけではなく、システムやパッケージとして売り出さないと国際競争で勝っていくのが難しい状況になりかけている。そのためのモデルを実践する機会にしてほしい」と語る。

 

 経済産業省も東北地方をはじめとする国内各地域でのスマートコミュニティ構想の普及はもとより、日本企業によるスマートコミュニティの輸出を積極的に推進している。今月12日には海外展開を目指す日本企業に対し、個々の機器・設備納入だけでなく、土地開発からシステム構築、運営まで一括受注できるよう、補助金の交付など18件の事業化調査の支援を決めた。

 

   <立ちはだかる課題>

 

 もっともスマートコミュニティの実現は一朝一夕にはいかない。まず、再生可能エネルギーのコストがまだ割高だ。政府の試算では、太陽光発電のコストは石炭火力やLNG(液化天然ガス)の約3倍で、技術革新や量産効果で火力並みに低下するまでに約30年かかる。7月には電力会社が再生可能エネルギーで作る電気を全量買い取る制度も始まり、普及を後押しするとの期待もある。だが、買い取り費用は電気料金に上乗せされるため、消費者の負担増にもつながりかねない。

 

 また、その土地の特性を良く知る自治体が中心となって進めるのが望ましいが、自治体にITを駆使するスマートコミュニティに詳しい人材はほとんどおらず、その負荷は大きい。スピード感を持って動くには企業がイニシアチプを取る場面も求められそうだが、その企業も国内外での実証プロジェクトを通じてノウハウの蓄積や事業化の糸口をまだ探っている段階だ。

 

 地権者との話し合いや規制などの問題も多く、一般的にスマートコミュニティの最終完成までには10年―15年以上かかるといわれる。国からの復興交付金なども資金面で事業は進めやすくなるが、それに縛られて「ハコもの」中心になっては意味がない。

 

 多くの尊い命と思い出の詰まった故郷が一瞬にして失われた震災。復興で目指す新たな街づくりは、安心して暮らせる未来志向のものでなければならない。子供たちやさらに将来の世代のためにも、一つ一つ課題を乗り越えていく姿勢が求められている。

 

 

 *スマートコミュニティ:ITで電力需要を制御するスマートグリッド(次世代電力網)を導入し、太陽光や風力など再生可能エネルギーを活用した環境配慮型の街や都市。スマートシティとも呼ばれる。大規模太陽光発電や大型蓄電池などを設置し、住宅や建物などをネットワークで結び、消費電力や料金を計測できるスマートメーター(次世代電力計)を使って電力使用状況を把握。余った電気を他に回したり、地域全体のエネルギー効率を高めたり、環境負荷の低いインフラを構築した街をいう。

 

 (ロイターニュース 白木真紀;編集 石田仁志)

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