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日銀政策点検、長期金利の許容変動幅を明確化:識者はこうみる

[東京 19日 ロイター] - 日銀は19日、18日からの金融政策決定会合で議論した政策点検の結果を公表した。長期金利の許容変動幅を明確化し、通常はイールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟な運営のため、長期金利の変動幅を「プラスマイナス0.25%程度」とすることを声明に明記した。

 3月19日、日銀は18日からの金融政策決定会合で議論した政策点検の結果を公表した。日銀本店前で2015年6月撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)

市場関係者の見方は以下の通り。

●貸出促進付利制度、マイナス金利深掘りの副作用軽減には限界

<シティグループ証券 チーフエコノミスト 村嶋帰一氏>

日銀は今回、政策金利のマイナス金利を深掘りした場合の副作用軽減対策として、貸出促進付利制度などを新設したが、実際に副作用を相殺できるかというと疑問だ。政策金利が低下すると、貸出金利全体に下押し圧力がかかる。インセンティブとして付利金利を多少高めたとしても、銀行の貸出残高は規模が大きく、副作用を相殺するのには限界がある。

そもそもマイナス金利の政策効果は大きくない。効果が大きいのであれば、すでに深掘りされているはずだ。このため、マイナス金利の深掘りのハードルは依然として極めて高いのではないか。追加緩和から逃れられないような、極めて特殊な状況が発生しない限り、深掘りは行われないとみている。

●副作用を減らす体制作り、効果は不透明

<JPモルガン証券 チーフエコノミスト 鵜飼博史氏>

点検の内容は事前の観測報道通りで、日銀の結論は「今の緩和は非常に効果がある。だが、2%の物価目標達成は短期間では難しいため、粘り強く今の政策を続けていくことが適切だ」ということ。長く政策を運営するためには副作用を減らす必要があり、そうした体制を整えておくというロジックが点検の背景にあるのではないか。

ただ、点検よって何かが大きく変わるのではなく、大きな政策の枠組みではなく、もともと狭い範囲での対応になると市場も考えていた。機動的に長短金利を引き下げるため短期政策金利に連動する「貸出促進付不利制度」を創設したが、金融機関への恩恵がどこまであるかは不透明。今回の点検でどのような影響や効果が出てくるかは、黒田東彦日銀総裁の会見での発言を見極めたい。

2%の物価目標達成については、相当時間をかけていくことになると考えられる。絶対に達成できないわけではないが、あと何年で達成できるというのを見通せる状況ではない。将来的に2%の目標をなくす必要はないと思うが、いずれ「長期的な目標に位置付けを変更する」といった議論がなされる可能性はあるだろう。

また、当面は現状の政策を維持していくと思われるが、そもそもの日本の課題である潜在成長率の上昇に向けて金融政策でサポートするということなど、政策の枠組み以外でも工夫する余地があるだろう。

●ETF購入方針見直しで市場のゆがみ解消か

<東洋証券 日本株ストラテジスト 大塚竜太氏>

日銀は政策決定会合で長期金利の変動幅をプラスマイナス0.25%程度とし、上場投資信託(ETF)については原則6兆円の年間買い入れめどを削除、引き続き12兆円を上限に買い入れを行うとした。これは事前観測通りでサプライズではない。ETF購入についても、12兆円の上限を残すことによって、マーケットが混乱したときには適切に対処するというスタンスを残している。

日銀は同時にETFの買い入れ対象をTOPIX連動型のみにすると発表。これを受け、ファーストリテイリングなど日経平均の指数寄与度の高い銘柄は売られる展開となっている。これはややいたずらが過ぎるような気もする。これまで同社の株を買っては喜んでいた人たちが、一斉に焦って売っているのが想像できる。当面は日経平均ボラティリティー指数が上昇する可能性もあるだろう。

ただ、これまではファーストリテイリングが上昇すれば、日経平均も連れ高となることが多く、市場のゆがみが指摘されてきたのも事実だ。今後は市場のゆがみが解消されるという意味ではいいことなのではないか。指数の上昇と同時に、景気回復も実感できるようになればいい。

●金利が大きく動く内容は盛り込まれず

   <三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニア債券ストラテジスト 稲留克俊氏>

  結局、金利が大きく動きそうなことは盛り込まれなかったという印象。長期金利の許容変動幅を(プラスマイナス0.25%程度に)拡大して明文化したこと以外、あまり具体的・効果的な変更点はなかった。声明文では「当面の運営」、「感染症の影響が続くもとでは、イールドカーブ全体を低位で安定させることを優先」という書き方をしており、すぐに金利水準やボラティリティーを上げにいくようなオペの変更などはおそらくないだろう。

「連続指し値オペ制度の導入」は一瞬目を引くが、もともとやることができた政策で、制度化したところで追加的効果があるわけでもなく、あまり本質的な意味はないのではないか。

「貸出促進付利制度の創設」については、マイナス金利深掘りの文脈で出てきており、ショートエンドには多少関係あるが、イールドカーブ全体に与える影響はあまり気にしなくてよい。

中長期的には、「コロナ後」まで見据えればだが、国内金利は上がる方向だとみている。早くても秋以降となるだろうが、その頃になればオペの変更の話なども出て、変化が出始める可能性がある。

●相場の本質理解した購入法、バリュー株主導鮮明に

<東海東京調査センター シニアストラテジスト 中村貴司氏>

日銀の上場投資信託(ETF)の買い入れの対象がTOPIX連動型のみになった点が注目されたが、これまで一部の指数寄与度が高い銘柄に市場が翻弄される場面が多かったことを踏まえれば、適正な購入法に変更したと言えそうだ。日銀は株式市場をよく観察し、相場の本質を理解していることを示したとみることができる。

これまで購入したETFを売るわけではなく、市場が大きく不安定化した場合に大規模な買い入れを行うことが効果的と示したことで、購入方法の点検は株式市場全体として捉えれば材料とはならないだろう。それはTOPIXがプラスに転じたことが示した。

一方、今回の購入方法の変更で、物色面には大きな影響を与えそうだ。米長期金利の上昇によって、割高なグロース株が軟化する中で、見た目の動きから分析すれば、グロース株で動きが左右されやすい日経平均型を見送り、バリュー株の底上げにつながるTOPIX型のみを購入することで、日銀が現在のグロース売り、バリュー買いの相場を容認するような格好となっている。

●インパクト大きい「連続指し値オペ」

<野村証券 チーフ金利ストラテジスト 中島武信氏>

円債市場にとって大きな注目点であった長期金利の許容変動幅はプラスマイナス0.25%と事前報道通りとなり、サプライズはなかった。

ただ、連続指し値オペ制度の導入はインパクトが大きい。詳細は不明だが、それだけに金利上昇を抑える「脅し」ともなる。超長期金利に関しては、過度な低下が望ましくないという従来からの表現と変わらないため、長期金利が上昇しにくい分、超長期金利も上昇しにくくなるかもしれない。

新しく創設された貸出促進付利制度では、長短金利の引き下げの際は、金融仲介機能への配慮から貸出の状況に応じて付利金利にインセンティブが与えられることになった。ただ、0.2%の付利金利が与えられるプロパー分などは規模はそう大きくないほか、利下げの可能性も現時点では低い。短期的な影響は限定的ではないか。

●悪材料はファーストリテの需給プレミアム消滅だけ

<大和証券 チーフテクニカルアナリスト 木野内栄治氏>

株式市場で注目されていたETF購入法見直しについては、ほぼ予想された通りであり、株価全体に悪影響を及ぼすものではない。実際、日経平均こそ大幅安となったが、TOPIXは売り一巡後に前日比プラスに転じている。

市場にインパクトを与えたのは、ETF購入をTOPIX連動型のみにするとした点で、これが日経平均採用の指数寄与度が大きい銘柄の下げを促し、日経平均が大きく下げる要因になった。特に目立ったのはファーストリテイリング9983.T。5000円幅の下げとなったが、5000円で計算した下げの寄与度は180円となり、同社によってもたらされた下げと言ってもいいかもしれない。

これまで、ファーストリテは本来の上昇期待とは別に、日銀のETF購入によるプレミアムが意識されていた。その分、需給面で他の銘柄に比べて優位性があったが、今後はそれがなくなることが嫌気され、今回の下げにつながった。

決定会合全体の内容そのものは、企業などの資金繰り支援に努めることをはじめ、株式市場で好感される材料が多い。悪材料となったのはファーストリテの需給面でのプレミアム消滅のみと言えそうだ。

●日米金利差縮小の思惑後退、円高は勢いづかず

<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

為替市場の観点から今回の決定会合は、長期金利の変動幅の拡大・明確化やETF買い入れの「原則6兆円」目標の削除など、既にシミュレーションしていた事項がメインであり、特段のサプライズはなかった。

貸出促進付利制度の創設については、将来マイナス金利の深掘りがあった場合に金融機関の収益などにネガティブな影響が及ばないように配慮したものだろう。

日銀は長期金利変動幅の下限について、「日々の動きの中で一時的に下回る場合に厳格に対応しない」としていることからも、今回の決定会合および金融政策の点検は、あくまでも緩和政策の続行を前提として、金融緩和の領域内での選択肢を検討したものだ。

円売りを手掛ける海外投機筋が怖れる「出口戦略」を検討した気配は微塵もない。したがって、円の長期金利が上振れし、日米金利差が縮小する見通しから円を買い戻す必要がないことに、海外投機筋も気が付くだろう。

決定会合の結果が伝わった直後は、長期金利の変動幅拡大・明確化を受けて、若干の円買い戻しの動きが見られたが、そうした動きは勢いづくことなく早晩に修正され、ドル高/円安の流れに回帰するとみている。

*内容を追加しました。

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