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焦点:FRB新戦略、日本市場では冷めた見方も 「難しい物価2%」

[東京 3日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が導入した平均インフレ目標について、日本市場では冷めた見方が多い。日銀の例からみても、中央銀行のコミットメントだけで人々のインフレ期待を上げるのは容易ではないためだ。米国市場は株高・債券高の「金融相場」となっているが、インフレ期待が高まらなければ、米金利は上がりにくくなり、ドル/円は重く、日本株も伸びを欠きやすいとみられている。

 9月3日、米連邦準備理事会(FRB)が導入した平均インフレ目標について、日本市場では冷めた見方が多い。写真は米首都ワシントンのFRB本部。5月1日撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

<日銀のオーバーシュート型コミットメント>

FRBの平均インフレ目標導入に対し、市場参加者が「似ている」と思い起こさせたのが、日銀が2016年9月に「イールドカーブ・コントロール(YCC)」政策とともに導入したオーバーシュート型コミットメントだ。

日銀のオーバーシュート型コミットメントは、消費者物価上昇率が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するとの「約束」だ。つまり物価が2%水準から一時的に上振れても、政策は変更せず、安定的に2%を超えたとみられるまで緩和は継続するとした。

今回、FRBが導入した平均インフレ目標も、一時的に物価上昇率が2%を超える状況が到来しても、これまでの物価が2%を下回る状況を相殺し、「平均」して2%が達成できる状況になるまでは、金融緩和を維持するというコミットメント(約束)だ。

「平均」を算出する期間はどのくらいなのか、どの程度の上振れなら許容されるのか、など不明な点も多いが、2%に乗せれば「出口」が近づくとの見方から、一時的に2%に乗せても、しばらくは金融緩和が続くとの見方に代わることで、緩和長期化の期待醸成につながる。

<目的達成の「手段」は>

しかし、日本の物価上昇率はいまだ2%を大きく下回る。原油価格の下落やコロナショックがあったとはいえ、インフレ圧力は弱く、人々の物価予想に対して、オーバーシュート型コミットメントが大きな効果を上げているとの見方は市場では少ない。

8月の東京都区部消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比0.3%低下した。2017年3月(同0.4%下落)以来、3年5カ月ぶりの下落率となり、4カ月ぶりにマイナス(デフレ)となった。

「日銀の例を見る限り、FRBの新戦略によって人々の期待インフレ率が上昇することは期待しにくい。米金利は徐々に下がっていくのではないか」と、パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は指摘する。

ポイントは「手段」だ。日銀はYCC導入後、国債買い入れペースを鈍化させたが、FRBのブレイナード理事は1日、新戦略の下で一段の金融刺激が必要になるとし、緩和措置は債券買い入れ拡充の形で実施される公算が大きいとの見方を示した。

「ブレイナード理事は民主党寄りだ。バイデン大統領の誕生をにらんで、財政拡大をサポートする量的緩和拡大を打ち出したのではないか。財政拡大によるインフレ期待上昇をねらっているのかもしれない」と、三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏はみる。

しかし、財政拡大によってインフレ期待を高めることができるかどうかは分からない。米議会予算局(CBO)によると、米国の2020会計年度連邦予算の赤字は3兆3000億ドル。2019年度の3倍以上だ。しかし、米国の物価は2%に届いていない。コロナ禍で需要が減少する中、ディスインフレ懸念も出ている。

<「副作用」に懸念も>

7月の米コア消費者物価指数(CPI、季節調整済み)は前年比1.6%上昇。FRBが注視する個人消費支出(PCE)のコア価格指数も7月は前年比1.3%上昇と2%にはまだ距離がある。こうした現状において、インフレ2%を達成することが、米国経済にとってプラスなのかという疑問も残る。

インフレが進んでも、人々の「懐(ふところ)」が痛まない状況は、賃金が2%上昇したときだ。インフレだけが進んでしまえば、実質所得は低下する。新型コロナで失業率が高止まりし、賃金も伸びない中で、物価だけが上昇する状況は、「インフレ税」を課してしまうことと同じだ。

カリフォルニア大学バークレー校のユリイ・ゴロドニチェンコ教授らは論文の中で、インフレ期待を高めて実質金利を下げることで経済を刺激しようとする「口先」介入は、意図しない影響を所得に及ぼす場合、裏目に出る恐れがあると指摘。多くの企業や家計は物価上昇を成長鈍化の前触れと捉え、手持ち資金を消費ではなく貯蓄に回す可能性があると指摘している。

また新型コロナの影響で、業種間の景況感にばらつきが出ているが、米国で好調なセクターの1つは住宅業界だ。7月は新築、中古とも米住宅販売は13年半ぶりの高水準と活況を呈しているが、物価が上昇し、金利が高くなれば、冷や水をかけかねない。

遠い目標を達成するために、無理をして、緩和を長期化させたり、強い副作用を持つ手段がとられかねないのではないか──。三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏は「バブルにつながる金融不均衡が生じるおそれもある」と警戒感を強めている。

(編集:内田慎一)

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