December 28, 2017 / 2:06 AM / 14 days ago

視点:新産業創出へ電波制度改革の意義=大田弘子氏

大田弘子 政策研究大学院大学教授

[東京 28日] - 政府の規制改革推進会議は11月、電波の有効利用などに焦点を当てた規制緩和策を安倍晋三首相に答申した。同会議の議長を務める大田弘子・政策研究大学院大学教授は、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、自動走行、ドローンなど新たなイノベーションで電波利用のニーズは今後飛躍的に拡大する見通しであり、電波制度改革は急務だと説く。

電波の周波数帯の利用権を競争入札にかけるオークション導入にのみ関心が集まったが、会議では電波利用の「見える化」から利用料体系の見直しまで、有効活用のための制度改革を包括的に取り上げたという。特に、総務省による現行の比較審査方式に加えて、価格競争の要素を入れた新たな割り当て方式が導入されることには大きな意義があると述べる。

また、日本経済にとって、電波制度改革などイノベーション促進策と同等に重要な課題は、社会保障改革だと指摘。人口分布の多い団塊の世代が全て75歳以上の後期高齢者となり、年金・医療・介護などにかかる社会保障費の急増が予想される「2025年問題」に直面する前に、政府は改革のグランドデザインをまとめる必要があると説く。

同氏の見解は以下の通り。

<電波割り当ての仕組みや料金体系を抜本改革>

日本経済の最大の課題は、引き続き生産性革命である。むろん、その担い手は民間企業だが、政府の役割も重要だ。サービス化が進む時代に合った多様な働き方を保障するとともに、新しい先端分野でイノベーションを促進する競争環境を整備し、同時に産業の新陳代謝を図っていく必要がある(その裏側で、社会的セーフティーネットを整備することは言をまたない)。

その前提で2017年を振り返れば、成果はあったと思う。働き方改革については、勤務先以外で働くテレワークや副業・兼業の推進など多様な就労形態を保障していくという政策姿勢は明確になった。ただ、人材を最大限に活かすには労働市場の流動化が不可欠であり、そのための具体策に議論が至らなかったのは残念だ。

また、成長戦略の一環として、日本版レギュラトリー・サンドボックス(直訳すれば「規制の砂場」)が創設される意義は大きい。現行法の規制を一時停止して、新たな技術やサービスの実証実験を可能にするこの制度は、英国やシンガポールでフィンテック分野などにおいてすでに実績を上げている。日本の政策論議でも、IoTやAI、ロボットなどの新技術を高度に融合し、社会にさまざまな変革をもたらす「ソサエティー5.0」の必要性が語られているが、その実現のためにも実効性ある制度になることを期待する。

こうしたイノベーションのインフラとして、電波制度改革の重要性は極めて大きい。規制改革推進会議では11月、電波の有効活用のための制度改革答申を安倍晋三首相に提出した。

もっぱら電波の周波数帯の利用権を競争入札にかけるオークションの是非が関心を呼んだが、大事なことは、国民の財産である電波の経済的価値を最大限引き出すために、電波の使われ方や割り当て手法、利用料体系などを包括的かつ抜本的に改革することだ。

もとより規制改革推進会議はオークションか否かの二元論を展開していたわけではない。オークション方式は割り当て手法の1つにすぎないし、オークションにもさまざまな制度設計が存在する。総務省による審査で免許人が決まる現行の比較審査方式にも、オークション方式にも良いところと悪いところがある。だからこそ、選択肢として価格競争の要素を持つ割り当て手法を入れておく必要がある。経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国のなかで、電波の割り当てに関して、オークション的要素が入っていないのは日本だけだ。先進国以外でも、タイやインドなども導入している。

言うまでもなく、電波利用ニーズは、IoTやAI、自動走行、ドローン、あるいは大容量での高速動画配信など新たなイノベーションを受けて、飛躍的に拡大する見通しだ。スマートフォンの「iPhone」が発売されてわずか10年でこれだけのことが起きた。今後5年、10年でいったいどれほど革新的なサービスが生まれるのかは想像できない。それを総務省が見通せるわけではない。なるべく新規参入が起こりやすい環境をつくっておくことが必要だ。行政がイノベーションの芽を摘んでしまうことだけは絶対に避けなければならない。

なお今回、価格競争の要素を含む新たな周波数割り当て方式の導入が決まった。電波法改正案は2018年度中に国会に提出される予定であり、具体的な内容を今後も議論していきたい。政府が初めて規制改革の会議を設置したのが1995年。そのときから電波制度改革が議論されているが、20年以上の時間を費やしてやっと実現した。日本は何かを変えるのに本当に時間がかかり、大きなエネルギーを必要とする。

<社会保障改革はもはや長期でなく短中期の課題>

もう1つ、生産性改革と並ぶ日本経済の積年の課題は、社会保障改革だ。このところ足元の景気の良さを受け、危機感が薄らいでいるように感じられるが、社会保障給付はどんどん増えていく。

2014年時点では、20―64歳の現役世代2.2人で65歳以上1人を支えていたが、支え手が2025年には1.8人になり、2050年には1.3人になる。現在の社会保障給付を続けることは不可能に近い。人口分布の多い「団塊の世代」(1947―1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者になり始めるのは2022年。到達までもう4年程度しか残されていない。もはや中長期の課題とは言っていられないだろう。社会保障関係費の伸びを毎年5000億円程度に抑えるという財政健全化計画の「目安」はクリアしているが、さらに持続可能性を高めるための制度改革に踏み込むべきだ。

改めて指摘するまでもないが、社会保障改革は、財政再建のためにも必須だ。政府が財政運営に十分に注意を払っていることを示し続けないと、日銀の異次元金融緩和策が出口に入る時に、マーケットの不信を買い、意図せざる金利上昇が起こる恐れは排除できない。その意味で、政府が2018年夏までに策定するという新たな財政健全化策と、2018年に社会保障制度の改革に本格的に着手するかが重要なポイントだ。

振り返れば、年金制度の給付と負担の両面で大きな見直しが行われたのは2004年であり、もう14年も前のことである。その後、社会保険料負担は増え続けている。年金、医療だけでなく、介護保険給付も増え続けているが、現状は問題を先送りしているにすぎない。アベノミクスはこれまで景気を明るくすることに注力してきたが、社会保険料の負担増や、将来の社会保障への不安が消費の下押し圧力になるなど、この問題が足元の景気にも影響を与え始めている。2018年はこの難題にいよいよ本腰を入れるべきだ。

2017年は、高齢者向けに偏った社会保障給付を見直し、子育て世代にも目を向ける姿勢を政権が示した。高齢化が進み、働く女性も増え、就労形態も多様化し、財政や社会保障、所得再配分に対する国民の見方もだいぶ変容してきたのではないか。広く国民レベルで大胆な改革を議論する好機だと思う。

*本稿は、特集「2018年の視点」に掲載された大田弘子氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいています。

(聞き手:麻生祐司)

*大田弘子氏は、政策研究大学院大学教授。内閣府規制改革推進会議議長、税制調査会委員などを務める。2006―08年、安倍・福田両内閣で内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)。2014年6月から、みずほフィナンシャルグループ取締役会議長。

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