イアン・ブレマー ユーラシア・グループ社長
[東京 2日] - 日本は、歴史や文化、テクノロジーよりも、社会的安定や治安の良さといったガバナンスと社会政策の成果を前面に押し出し、自国のブランディングを図るべきだと、米調査会社ユーラシア・グループ社長で国際政治学者のイアン・ブレマー氏は説く。
また、女性のエンパワーメント(能力開花)促進と、高齢化・人口減少時代に適した家族の構造や機能の再設計に向けた取り組み、そして中国・韓国・ロシアなど近隣諸国との関係改善が2018年の優先課題だと指摘する。
同氏の見解は以下の通り。
<日本の「リ・ブランディング」>
日本は国際舞台において、自国の歴史や文化、テクノロジーに関する魅力を紹介することに焦点を絞るよりも、むしろガバナンスと社会政策の成果の数々を強調することによって、自国を売り込み、ブランディングすることにもっと努力すべきだ。
安倍晋三首相は、他国のインフラ整備やその適切な長期の管理・維持を支援する日本の能力を宣伝することによって、すでに貢献している。
日本はヘルスケア分野での成果、社会的安定、治安などの面で一貫して高く評価されている。このことは、急増する高齢者の相対的に高い満足度につながっている。
日本の政治的、社会的、文化的特性の多くは、大きな修正なしには、また各地域のセンチメントへの気配りなしには恐らく他の状況に対して「移植」可能ではない。だが、それ以外の部分は相対的に取り入れやすいだろう。
日本政府は、国内外のNGO(非政府組織)と協力して、「日本が好結果を出していること」に関する包括的なカタログを作るべきである。そして、他国に対して、現実の問題と関連のある専門知識や経験をより効果的に提供する方法を見つけるべきだ。
<女性のエンパワーメント促進>
安倍政権は、女性労働力率の一層の向上、そして女性の持つ非常に大きな優れた能力のさらなる活用に向かって、順調に成果を上げている。(ただ)女性のエンパワーメント推進が、日本の将来のために公的部門・民間部門で計画されている全分野に確実に広がるように、さらに多くのことを行わなければならない。
日本の長い歴史において、女性が担ってきたさまざまな役割に関するもっと多くの調査を政府が援助することもできるはずだ。調査の目的は、女性が過去果たしてきた、そして支援が強化されれば今日も果たし続けることが可能な貢献の数々を明らかにし、気づきを促すことである。
加えて、そうした調査は、祖父母や遠戚を含めた日本の家族の他のメンバーがどのように分担して子育てをし、また病弱な人々をケアしてきたのかという点にも向けられるべきだ。
日本は、人口減少・高齢化時代の要請に応えるために、家族の構造と機能について再考・再設計するという取り組みの最先端にいると言えよう。成功するためには、全ての年齢層の女性と男性が協業しなければならない。
<近隣諸国との関係改善>
中国、韓国、ロシアを含む北東アジアの近隣諸国との日本の関係がしばしば騒然としていることに疑いの余地はない。同地域における歴史・領土を巡る政治色の濃い長期の不和がその大きな理由だ。
日本が、軍事能力増強と憲法改正の是非や方法論について、国内で議論を進めていく過程で、安倍政権とそれに続く政権は、それらの行動が他国との関係に与える負の影響を最小限に抑えるべく全力を尽くすことが肝要だ。
何も、自国の安全とより広範な利益を守るために日本が必要と見なしていることを行うのを躊躇(ちゅうちょ)すべきだと提言しているわけではない。しかし、時としてどんなにいら立つことだとしても、決断の背景にある理由を説明することに一層努力し、強烈な批判に耐える準備をしなければならない。
もっとも、政治的な意見の相違が日本の貿易・経済関係に完全に飛び火しないようにすることは不可能だ。従って、日本政府は、外交関係や広報活動支援を強化しなければならない。そして、アジアや他地域における新たなリスクとチャンスに適応できるように努力すると同時に、日本の対外関係を安定化させようとしている公的・民間グループ間の交流をもっと図るべきだ。
*本稿は、特集「2018年の視点」に掲載されたものです。イアン・ブレマー氏の個人的見解に基づいています。
(編集:麻生祐司)
*イアン・ブレマー氏は国際政治学者で、国際政治リスク分析・コンサルティングを手掛けるユーラシア・グループの創業社長。1994年、スタンフォード大学で博士号取得。同大学フーバー研究所のナショナルフェローに史上最年少25歳で就任。98年にユーラシア・グループを設立。主導国なき状況を「Gゼロ」と名付けたことでも有名。
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