for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

2021年の視点:ドル円は大波乱なき展開か 円高警戒色なお強い=植野大作氏

[東京 5日] - コロナ戦時下で迎えた2021年(令和3年)の幕開けは、正月三が日が海外市場も休日だったため、「日本人だけが休んでいるスキに為替が荒れる」という心配は無用だった。しかし、新春のドル円相場の展望について、結論から先に述べれば、しばらくの間は円高警戒色の強い状況が続くだろう。

 コロナ戦時下で迎えた2021年(令和3年)の幕開けは、正月三が日が海外市場も休日だったため、「日本人だけが休んでいるスキに為替が荒れる」という心配は無用だった。しかし、新春のドル円相場の展望について、結論から先に述べれば、しばらくの間は円高警戒色の強い状況が続くだろう。植野氏の今後の見通し。写真はドルと円の紙幣。2013年2月撮影(2021年 ロイター/Shohei Miyano)

心理的節目の100円を試す局面があるかもしれない。ただ、100円割れは仮にあっても浅めの下ヒゲで滞空時間も短いとみている。

一方、取引レンジの上限については、110円に設定している。今年どこかでドル/円<JPY=EBS>は底入れして年足は「6年ぶりの陽線」になるとみているが、値幅は昨年の11円04銭から10円程度に縮まり、変動相場制史上では下から数えて3位タイの小規模な変化に収まりそうだ。

以下、「テクニカル」、「ファンダメンタルズ」、「政治」、「需給」の4点に絞り、そのように考えている理由を整理しておく。

<テクニカル:節目の100円割れ試す心理も>

まず、テクニカル面では昨年10月21日に現れた日足の大陰線を境に、チャートの見た目の印象が非常に悪くなった。政府による円高けん制の空白期を衝いて105円前後のサポートが消滅し、現在は筆者が重視する52週移動平均線が右肩下がりで現値を上から押しつぶすチャート・パターンが完成している。

実需決済や投資目的などの背景が無く、純粋な投機で短期の回転売買にいそしむプレイヤーの目線で見ると、現在はトレンドに逆らう押し目買いより、トレンドに従う戻り売り戦略の方が勝率が高いと判断しやすい局面にある。

そのような状況下、目先の下値メドとしては昨年3月に記録した安値101円19銭が意識されやすい。今後何かの拍子に勢いづいてその水準を割ったなら、相場の動きに理由を求めず、円高でも円安でもちゅうちょなく動く短期筋を中心に、「心理的節目の100円を試してみないと気が済まない」という気運が強まる可能性はある。想定レンジの下限は、その辺まで下げておくのが無難だ。

ただ、週足より波長の長い年足でみると、違った風景も見えている。昨年のドル/円は、過去最長タイ記録に並ぶ「5年連続の陰線」で引けたが、6年連続の陰線はこれまで出現したことがない。テクニカル重視のプレーヤーの目線からみると、「トレンド(方向感)」、「モメンタム(勢い)」、「レベル(水準)」などと並ぶ重要な要素の1つである「ピリオド(日柄)」の面からは、そろそろ円高・ドル安局面に飽和感が出始めても良い頃だ。

無論、コイントスで5回連続の表が出ても、人の心を持たない人工知能(AI)なら、6回目が裏になる確率は2分の1だと冷徹に判断するだろう。だが、今のところ、為替を動かしている多数派はまだ生身の人間だ。年足日柄を考慮すると、そろそろ陽線が出現するかもしれないとの思惑がチラつき始めるのではないか。現下の局面では、中途半端なレベルで円高が止まるより、節目の100円割れを試すくらいの派手な動きがあった方が、その後の反発力も強まる可能性が高い。<ファンダメンタルズ:米、コロナ抑制なら利上げ観測も>

ドル円相場を取り巻くファンダメンタルズに目を転じても、当分は米国の政策金利は「上がりも下がりもしない」状態が続きそうだ。昨年12月の連邦公開市場委員会(FOMC)で更新された最新の政策金利予想をみると、2023年の年末まで現行のゼロ金利政策を維持、市場の利上げ期待を封印する一方、マイナス金利の領域にも踏み込まないとの見通しが示されていた。

米国の政策金利が今後3年以上の長期にわたって横ばいになるならば、ドル円相場についても大同小異のイメージで臨むのが最も自然だ。今後、FRBがマイナス金利は採用せずとの方針を貫くのなら、追加利下げの余地はほぼ消滅している。ドル/円の下値余地は100円前後以下のレベルでは広がり難いだろう。

ただ、米国で追加利下げの余地が無くなっているのなら、時期はともかく、「次の一手」は利上げになる。今年の春を過ぎて北半球の主要国で気温や湿度が上昇、ワクチン効果も相まって新型コロナウイルスの感染拡大が抑制されてくれば、米国で「早期利上げ観測」とは言わないまでも、「そのうち利上げ観測」が強まるだろう。その場合、米長期金利の上昇を眺めて、為替も110円辺りまでなら試しに行く可能性もあるだろう。

<政治要因:米新政権、金融・財政当局と「ノイズなき」協調へ>

政治の分野に視線を移すと、米国では間もなくバイデン政権が発足する。マイナス金利に踏み込んでこないパウエルFRB議長を激しくののしったりもしたトランプ大統領と違い、バイデン次期大統領は金融政策の独立性を尊重する従来の慣行に戻るだろう。

バイデン氏の経歴をみると、政治家になる前は弁護士であり、オバマ政権で副大統領に就く前の上院議員時代も外交委員長や司法委員長を歴任しているが、経済・金融・為替が絡む職責を担ったことはない。専門性の無い分野については「部下に任せる」タイプのリーダーになるのではないか。

また、バイデン政権で次期財務長官に就任する予定のイエレン氏がFRB議長だった当時、理事だったパウエル議長は反対票を投じたことがなかったようだ。「二人はウマが合う」との前評判がもっぱらで、金融・財政政策の協力も現政権より円滑になると期待されている。

ドル安、ドル高どちらか一方に偏った発言履歴が無いイエレン氏は、財務長官として自然体の市場メカニズムで生じている為替変動は是認する一方、経済や市場にとって有害な乱高下が起きた場合にのみ、それを落ち着かせる安定重視のスタンスで臨むのではないか。バイデン政権下では、金融政策、為替政策ともに、「政治的ノイズ」の混入頻度は低減しそうだ。

<需給動向:極端な変動抑える日本の国際収支構造>

最後に、ドル円相場を取り巻く為替需給要因に着目すると、近年の日本で起きた国際収支の構造変化により、極端な為替変動を抑制するメカニズムが働きやすくなっている。

近年における日本の国際収支の内訳をみると、貿易サービス収支に無償移転収支等を加えた実需のフローは小幅の赤字と黒字が混在しており、一方的なトレンドを発生させる需給の偏りは生じていない。結果的に、「海外からの利子や配当で稼いだ黒字を、海外への投資で還流する」というループが続いているのが実情だ。

日本からの対外投資は、ドル高が進み過ぎると割高感や高値警戒感から流出量が減少してドルの上昇にブレーキを掛ける一方、ドル安が進み過ぎると割安感や値ごろ感から流出圧力が増して極端なドル安にも歯止めをかける為替需給の調節弁の役割を果たす。

トランプ政権が発足した後の約3年11カ月を振り返ると、政治も経済も株価も金利も史上に類例を見ない「激動の時代」だった。しかし、ドル/円の値幅は14円32銭、変動率も13.9%と、およそ半世紀に及ぶ変動相場制史上、歴代の米政権下で最も小さかった。

「近年の日本で起きた国際収支の構造変化が、極端な為替変動を抑制している」という筆者の見立てが正しければ、バイデン政権の発足後も大同小異の状況が続くのではないか。今年の予想レンジについて、キリも良いので10円値幅で提示しているが、実際にはそんなに動かず、2018年、19年に続く3度目の10円未達もあり得るだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。)

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:北松克朗

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up