[東京 24日 ロイター] ムーディーズ・インベスターズ・サービスは24日、日本政府の自国通貨建て・外貨建て債務格付けを「Aa2」から「Aa3」に引き下げたと発表した。
引き下げ幅が1ノッチだったうえ、見通しが「安定的」に変更されたことで、債券や株式の反応は限定的だった。ムーディーズによる日本国債格下げは2002年5月以来、約9年ぶり。「Aa3」は中国などと同じ格付けで、主要7カ国(G7)で最低となった。
<見通し「安定的」に変更で安心感>
発表は日本時間午前8時と早朝だったが、同社は5月、日本政府の自国通貨建て・外貨建て債務格付けについて引き下げ方向での見直しを発表しており、今月中にも見直し結果を公表するとの見方が強まっていたためサプライズとはならなかった。むしろ市場の一部では2ノッチの引き下げも警戒されていただけに、引き下げ幅が1ノッチだったことで安心感が広がった。
また、見通しが「安定的」に変更となったことも好感された。ムーディーズによると、「安定的」の見通しは「弱まりを見せない日本の投資家の国内投資志向と国債選好を背景として、政府が財政赤字を補填(ほてん)する資金を世界で最低水準の名目金利で調達できることを根拠としている」という。この有利なコストでの調達は、日本の顕著な制度的および構造的強さによって引き続き支えられ、2011年度および2012年度に多額の財政赤字が発生しても、調達コストの優位性は持続すると指摘している。
市場では「来週の民主党代表選までには国債格下げがあると想定されていたため、特段サプライズはない。むしろ見通しを安定的に変更し、機関投資家からの売りが出始めるシングルAへの格下げの可能性が低くなったことが安心感につながりやすい」(岡三証券・日本株情報グループ長の石黒英之氏)との声が出るなど、反応は限定的。円債先物は続落して取引が始まったが、その後切り返した。10年債利回りも小幅上昇したが、低下する場面もあるなど、大きなネガティブ材料とは受け止められなかった。
<不安定な政治が財政悪化の要因>
ただクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では、指標となるiTraxxJapanシリーズ15ITJJP5Y=GFのプレミアムが一時160ベーシスポイント(bp)と、前日引け(146bp)から急伸。指数が160bp台を付けたのは約5カ月ぶり。ムーディーズの国債格下げをきっかけに「欧米CDSに比べてアウトパフォームしている日本のCDSを修正する動きが強まった」(国内金融機関)という。
巨額の債務が時間とともに膨れ上がる日本の財政状況に明るい兆しが見えたわけではない。ムーディーズは今回の格下げの理由に関して「過去5年にわたり首相が頻繁に交代したことが、長期的経済・財政戦略を効果的で一貫した政策として実行に移す上での妨げとなってきた」と指摘。経済成長見通しの弱さが、赤字削減目標の達成と、「社会保障と税の一体改革成案」の実施を一層困難にしているとの見方を示している。
民主党代表選出馬に意欲を示す野田佳彦財務相は24日朝、財務省内で記者団に対し、「民間格付け会社の判断に逐一コメントするのは控えたい」とした上で、「最近の国債入札などを見ても、順調に円滑にいっている。日本の国債に対する信認に揺らぎはない」と述べた。
野村証券のチーフ・クレジット・ストラテジスト、魚本敏宏氏は「市場は、ムーディーズによる日本国債格下げを織り込んでいたが、新首相の財政運営を確認してから格付け判断に踏み切るとみていただけに、タイミングがやや早かった印象だ。ムーディーズの立場からは、事前に格下げを発表することで、新政権の政策運営に対してけん制するとともに、財政規律の劣化に歯止めをかけたいという狙いがあったのではないか」と指摘している。
(ロイターニュース 伊賀大記;編集 山川薫)
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