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安倍首相が辞任を表明:識者はこうみる

[東京 28日 ロイター] - 安倍晋三首相は28日夕に会見し、辞任を表明した。持病の潰瘍性大腸炎の再発が8月上旬に確認されたことを明らかにした上で、「国民の負託に自信持って応えられない以上、総理の職を辞することにする」と語った。

8月28日、安倍晋三首相が辞任する意向を固めたことが分かった。持病が悪化し、職務を続けるのは困難と判断した。写真は首相官邸に入る安倍首相(2020年 ロイター/Issei Kato)

市場関係者に見方を聞いた。

●後継総裁の選出方法で様相激変も

<三菱UFJモルガンスタンレー証券 チーフ投資ストラテジスト 藤戸則弘氏>

安倍首相の辞意表明直後に訪れる最大のポイントは、自民党の後継総裁を選ぶ方法がどうなるかで、それによってマーケットの様相は激変する可能性がある。

有力候補として石破茂元防衛相、麻生太郎財務相、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長などが注目されているが、このうち、安倍政権の政策の大枠が変わる可能性があるのは石破氏が首相になった場合だ。石破氏は根本的な部分で政策へのアプローチが安倍首相と異なり、金融緩和をベースにして景気刺激策を実施してきたアベノミクスが転換点を迎えることになる。これに対して、麻生氏など安倍政権内で相応のポジションにあった人物であれば、政策の大枠は変わらないと市場は判断することになるだろう。

こうした中で、石破氏に有利とされる一般党員も巻き込んだ総裁選になった場合、マーケットは大きく動揺する可能性がある。反対に、両院議員総会による選出で、石破氏の後継総裁の芽が実質的になくなれば、次第に株式市場などで政治を材料にしなくなることになりそうだ。

一方、当面は政策の大枠に変化がないと感じ取った場合でも、総裁任期は残り1年、衆議院の任期も1年余りで、来年は確実に総選挙が行われる。政治的な安定が失われる可能性があり、これが海外勢に不安をもたらすことは想像に難くない。今回の辞意表明までは、G7(主要7カ国)の中で日本が最も政治的に安定した先進国で、それも海外勢の日本株買いの背景にあったためだ。

戦後で見ても、佐藤内閣、中曽根内閣、小泉内閣と長期政権の後は、短命内閣が続いたのが日本の政治の歴史であり、政治的な安定が失われた日本の株式を海外勢が今まで通り買うかどうかが、中期的に見極めたいポイントになる。

●株式市場は海外勢のポジション動向を注視

<大和証券 チーフテクニカルアナリスト 木野内栄治氏>

株式市場にとって当面の注目点は、安倍晋三首相から後継首相にバトンタッチされることで、海外機関投資家がどう動くかだろう。日本の政治は、政権トップを選ぶプロセスが不透明で、1年おきに首相が交代するような安定しない政治が、かつては敬遠されていた。安倍首相の就任後の「1強政治」において、そうした意味での政治リスクはしばらく意識されていなかったが、今回の退陣表明によって政治リスクが台頭し、ポジションを外す投資家が出てくるかもしれない。まずは、8月末、9月末に行われる海外投資家のアセットアロケーションがどうなるかを見極めたいところだ。

後継首相に関しては、緩和政策が維持されるかがポイントになる。ここで緊縮財政に舵を切る可能性は低いとみられるものの、緩和策が後退するとの見方が広がれば、株価が大きく崩れることもあり得るだろう。今後の金融政策で緩和策が維持された場合は、日経平均の加重平均BPS(純資産倍率)で2万1000円を基にしたPBR1倍の水準は最低限キープ、あるいは2万2000円を下回った水準で推移する52週移動平均線がサポートラインとなり、6月以降のもみあいは継続すると想定される。

●中期的には若干の円安余地

<オフィスFUKAYA コンサルティング代表 深谷幸司氏>

為替市場は、安倍首相の辞意表明に対して、初期反応として円買いで反応している。

しかし、外国人投資家は安倍政権の安定性を買っていた可能性があり、首相の辞任は中長期的に円資産や円にとってネガティブな話だ。

ただし、マネーフロー面から生じ得る円安の度合いは、当面は1、2円で、107円台までとみている。

政局が多少混迷しようとも、コロナ禍にある日本経済を支える財政拡大と金融緩和のポリシーミックスは、次期首相の下でも変わるものではないためだ。

さらに、「アベノミクスのもとで投機筋が円を売ってきた」というのは全く過去の話だ。現在は投機筋のポジションもわずかに円ロングになっている。

このため、アベノミクスで発生したポジションの巻き戻しから円買い圧力が生じるという可能性はないとみていいだろう。

●第一印象はネガティブ、注目は後任やブレーン

<第一生命経済研究所 主任エコノミスト 藤代宏一氏>

最近は、アベノミクスの政策パッケージ自体にセールスポイントがなくなりつつあった。辞任に対する第一印象はネガティブだが、これが大きな株価下落に繋がるかというと、そうではない。

これからの注目は後任は誰になるかという話だ。一般的に、マーケットでは緊縮財政派とされる石破氏、岸田氏よりも、スタンスがあまり明確ではない河野氏、菅氏、茂木氏のほうがポジティブと捉えられている。また、彼らの周りを固めるブレーンはどのような人たちか、といった点もポイントとなる。

安倍首相の辞任はまだ消化しきれない材料だが、来週以降これらの点が明らかとなると、マーケットは反応するだろう。

●安定を実現、自由貿易に尽力

<テンプル大学日本校のジェフ・キングストン教授>

(安倍首相の在任期間中について)たくさんの希望の光を見出すことは難しいが、安倍氏は安定を実現し、他国の首脳が対応に苦慮していたトランプ米大統領との関係を築いた。

自由貿易のために立ち上がり、欧州連合(EU)と経済連携協定を締結したほか、環太平洋経済連携協定(TPP)を窮地から救った。

ただ首相が「ジャパン・イズ・バック」という大胆な公約を掲げていたことを踏まえると、小さな成果に映る。

●市場の初期反応大きいが、政策は大幅に変わらず

<バンク・オブ・アメリカ チーフ金利ストラテジスト(日本) 大崎秀一氏>

アベノミクス政策は日銀の金融緩和とセットで進められており、マーケットの反応は、リスクオン・リスクオフで株と債券が逆相関で動くのではなく、政策のオン・オフに反応して株高・債券高が同時に起きる形だった。このため、きょうは「首相辞任でアベノミクス政策がオフになってしまう」との連想がはたらき、株も債券も売られるという初期反応になった。

安倍首相は本日夕方予定される記者会見で自身の健康問題への懸念を払拭するとの見方が事前に出ていたこともあり、首相の辞任意向の報道はマーケット的にはサプライズだった。その分、初期反応が大きくなっていると思われる。

マーケットは、このあと5時からの会見で首相から語られる詳細を注視している。その時間帯には欧州勢も取引に参加しているので、先物は時間外取引でもう一段売られる可能性もある。

ただし個人的には、実際には安倍首相が辞任しても政策が大きく変わることはないとみている。

今後、後継者がアベノミクスの政策を引き継ぐとか、政策が大きく変わらない・オフにならないとの理解が市場参加者の間で進めば、週明け以降のマーケットは徐々に落ち着きを取り戻すと考える。

●経済政策に大きな変更ない

<AMPキャピタル(シドニー)の投資戦略トップ、シェーン・オリバー氏>

経済政策に大きな変更はないだろう。誰が次期首相になろうと、アベノミクスに代わる有力な選択肢はない。日銀の黒田総裁は続投するとみられ、超金融緩和政策が変更されることはない。市場は短期的にやや神経質になるだろうが、すぐに収まるだろう。

●退任までコロナからの回復とオリンピックの準備に注力へ

<BNPパリバ・アセットマネジメント(香港)のアジア太平洋マルチ資産クオントソリューション部門トップ、ポール・サンドゥ氏>

(市場の)反応は一時的なもので元に戻るだろう。

安倍首相は財政支出と金融緩和によって日本経済を再生することで政権を維持してきた。退任の時期は不明だが、退任までの間に、新型コロナウイルスによる打撃から経済を回復させ、2021年の(東京)オリンピック開催への道筋をつけることに注力するのは間違いないだろう。

●財政拡張路線踏襲へ、株調整は買いの機会

<ベアリングの大中華圏投資・グローバルマーケッツ責任者、キエム・ドゥ氏>

重大なことになるとは思わない。世界的に経済は強いわけでなく、誰が首相であっても、可能な限り拡張的な財政政策を取り続けるだろう。

日本株の調整は買いの機会を提供しているかもしれない。売り手が誰か分からないが、首相辞任による不透明感を背景に個人投資家などが取引しているとも考えられる。

日本は、新型コロナウイルス禍からの回復が最も鈍い国の一つで、他国以上の対応が必要になるだろう。

●ネガティブ、今後の内政と外交に懸念

<ニッセイ基礎研究所 チーフ株式ストラテジスト 井出真吾氏>

基本的にはネガティブ。誰が後継者になっても、国民の理解を得たり、求心力を得たりするのは簡単ではない。野党の協力を得ることも難しいだろう。現状と変わらないのではないかとの見方もあるが、政策や政治はより前に進みにくくなる。

より肝心なのは外交だ。特に、後継者がトランプ米大統領と対等に渡り合えるかが心配。トランプ大統領との仲の良さは右に出るものがいなかった。北朝鮮に対して毅然とした態度で臨めるかも気になる。

日経平均はこのニュースを受けて急落した。このところコロナ急落直前の水準まで回復していたこともあり、売りの口実にされたところもありそうだ。きょうは押し目を待っていた投資家が買いを入れて下げ渋る動きを見せたが、来週以降はネガティブな展開を想定しておいた方がいいだろう。

●アベノミクス路線継続なら市場の動揺収まる

<アライアンス・バーンスタイン 債券運用調査部長 駱 正彦氏>

マーケットはアベノミクス喪失への懸念からリスクプレミアムが上昇しており、株安・債券安・円高になっている。長期政権の終わりであり、もうしばらく、市場の動揺は続きそうだ。ただ、長くは続かないとみている。

麻生太郎副総理や菅義偉官房長官が引き継げば、アベノミクス的な路線は大きく変更されないとみられるためだ。金融緩和や財政拡大の路線が変わらないということが分かれば、市場の動揺は収まるだろう。

懸念はトランプ米大統領との関係だ。安倍首相が良い関係を築いてきたおかげで、日本の超金融緩和策などへの批判を抑えられていた面がある。大統領選も控えているが、新しいリーダーがどこまで米国のリーダーと良い関係を築けるかが今後のポイントになろう。その懸念が払拭されなければ円高圧力が強まりそうだ。

●円への影響は短期的か、政策の継続性保たれる

<シンガポール銀行の為替アナリスト、モウ・シオン・シム氏>

安倍首相の辞任観測は今週初めから浮上していた。連続在任日数が歴代最長の首相であり、一定の不安や懸念はあり、辞任に伴い一定の不透明感が生じる可能性がある。

アベノミクスは恐らく終わりに近づく。一定の本国への資金還流(リパトリエーション)が起きる可能性があり、このため円がやや上昇している。

円相場に長期的な影響があるかは疑問だ。もし、辞任報道が正しければ、後継首相は自民党から安倍首相に近い人物が選出される可能性が高く、政策の継続性は保たれるだろう。

*識者を追加しました。

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