Reuters logo
コラム:米国人を北朝鮮渡航禁止にする「本当の意味」
2017年9月4日 / 04:22 / 3ヶ月後

コラム:米国人を北朝鮮渡航禁止にする「本当の意味」

[31日 ロイター] - 北朝鮮と米国などの国連軍が朝鮮戦争の休戦協定を締結してから64年を経て、米国務省は米国人の北朝鮮渡航を禁止した。通達は8月2日に官報に掲載され、9月1日に発効する。

8月31日、北朝鮮と米国などの国連軍が朝鮮戦争の休戦協定を締結してから64年を経て、米国務省は米国人の北朝鮮渡航を禁止した。写真は2016年5月、平壌の万景台学生少年宮殿を案内するツアーガイド(2017年 ロイター/Damir Sagolj)

渡航禁止は、トランプ大統領が手にしている悪い選択肢の中でも、比較的選びやすいものだ。

北朝鮮が29日に日本上空を通過するミサイル発射実験を実施した後も、トランプ大統領は「すべての選択肢がテーブルの上にある」と語った自身の同国への警告について、詳細を明らかにしていない。とはいえ、渡航制限は、この後に何が起こるかのヒントになりそうだ。

北朝鮮への渡航を制限するのは、過去10年間に、北朝鮮が滞在中の米国人15人前後を様々な理由で拘束し、米政府に譲歩を迫る材料に利用してきたからだ。誰かが拘束されるたびに、米側は時間や資源、政治力を使って米国人の解放を要請するのがパターンになっていた。

最近では、7月に米国人大学生のオットー・ワームビアさんが北朝鮮から昏睡状態で解放され、数日後に米国の病院で死亡するという悲劇があった。このことは国務省が渡航禁止を実現する追い風となった。

国務省の動きとは別に、ワームビアさんが死亡する以前から、米議会では米国人の北朝鮮渡航を禁止する法案が超党派議員から提出されていた。この法案が、米国務省による渡航禁止の通達との関係も含めて、今後どうなるかは明らかでない。

だが、渡航禁止によって、何が達成できるのだろうか。

米政府には主に3つの目的がある。まず、米国人訪問者が北朝鮮によって交渉材料に使われる事態を予防すること。そして、米国人旅行者がもたらす外貨(米ドル)を絶つこと。さらに、北朝鮮政府の行動は受け入れられないとうメッセージを発することだ。

最初の目的は、部分的に達成されるだろう。北朝鮮を旅行ビザで訪問する米国人は年間1000人近くいるが、これらの人々が北朝鮮当局の手に落ちるリスクは、今回の渡航禁止によってただちにゼロになる。

だがより詳細に見ると、2009年以降に拘束された15─17人の米国人のうち、旅行ビザで渡航していたのは4人程度にすぎなかったようだ。拘束人数は、出典によって幅がある。宗教上、又は報道の目的で、北朝鮮と中国の国境から不法入国した例もあった。その他は、北朝鮮で人道や開発、医療や教育支援活動に従事していた米国人だった。

国務省は、「限定的な人道目的または他の目的がある米国人は、国務省に特別な承認パスポートを申請できる」としている。裏を返せば、こうした人たちは、危ない立場に置かれることになる。北朝鮮政府が政治的な人質を取りたければ、より少ない選択肢のなかから対象となる米国人を選べば済むようになるからだ。

一方で、特別パスポートが必要になるため、米政府は北朝鮮に職務で渡ろうとする米国人の調査をすることが可能になる。北朝鮮を専門にする人道支援や教育支援の従事者の中には、宗教上の理由から、現地の法律やルールを破らざるを得ない状況に置かれる人も多くいる。国務省は、特別パスポートの発給を拒否することで、こうした人々を「守る」ことができるようになりそうだ。

北朝鮮に拘束されている米国人は、現在3人いる。Kim Hak-song氏、 Kim Sang-duk氏、そしてKim Dong Chul氏だ。

Kim Dong Chul氏は、羅先(羅津・先鋒)経済特区内の事業に関わり、諜報容疑で訴追された。Kim Hak-song氏とKim Sang-duk氏は、別々の時期に平壌科学技術大学に勤務していたが、帰国するため平壌の空港に出向いたところで拘束され、「敵対的行為」で訴追された。

結局のところ、渡航禁止は、米国政府が対応しなければならない拘束者の数は減らせても、ゼロにはできない可能性が高い。

渡航禁止の2番目と3番目の目的には、相関関係がある。

約1000人の米国人観光客は、実際に北朝鮮の経済成長に追い風となっている。だが、西側観光客1人が1回の北朝鮮旅行で使う金額は約2000ドル(約22万円)で、影響は限定的だ。仮に、中国人も含めた全ての外国人旅行客が明日いなくなり、北朝鮮が観光部門で稼いでいる3000万ドルを失ったとしても、核とミサイル開発は影響を受けないだろう。

また、観光部門からの収益が、北朝鮮の国庫に入る訳でもない。誤解されていることが多いが、北朝鮮は、すべてが政府によって政府のために行われる指令経済ではない。実態はほとんど市場経済であり、多くの企業がさまざまな機関と関係を持ち、各々で賃金を払い、サプライヤーから原料などを調達し、可能な時には所得を隠すことすらある。観光客が落とす外貨は、一定程度拡散している。

とはいえ、観光客は、金正恩氏の目標を支援してしまうことを避けられるわけではない。ほとんどの観光客は高麗航空を利用しており、軍所有の企業に航空機代を支払っている。その軍は、もちろん、米本土を攻撃できる武器の開発に全力をあげている。

米国務省が7月後半に渡航禁止の方針を発表して以降、北朝鮮は複数回ミサイル実験を行い、米国に対して言葉での威嚇を強めてきた。北朝鮮政府は、米側が金正恩氏を転覆させようとしていると判断すれば、「強力な核のハンマー」で、「米国の中枢」を打つことができると警告した。

今回の渡航禁止は、一種の象徴的な意味もある。北朝鮮のこれまでの行動は受け入れ可能な基準の外にあるため、米政府として自国民の渡航禁止も辞さないという決意を実際に伝えるものだ。また、小規模なやり方であっても、北朝鮮経済を締め付けるという米国の意思も示している。

これには、対価もある。人と人との交流は、北朝鮮のような管理国家であっても、人の考え方に影響を与える。外国人やその考え方に触れることで、平壌の中産階級やアッパーミドルクラスの世界の見方は変わってきている。また、北朝鮮の専門家は、観光業から驚くほど多くのことを学んでいる。観光客は、北朝鮮国内の流行や変化に気づくことが多いからだ。もし観光産業が縮小すれば、失われるものも出てくる。

渡航禁止は、米国としては極めて稀な措置だ。米国と北朝鮮の紛争の長い歴史の、1つの節目として記憶されることになるだろう。1953年に休戦協定に署名した当事者はいなくなって久しいのに、このような苦痛に満ちた関係が今も続いていること思うと、冷や水を浴びせられたような気持になる。

*筆者は、韓国の済州平和研究院とカリフォルニア大学バークレー校の韓国研究センターの客員研究員。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below