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焦点:カルタゴや奴隷貿易拠点も、アフリカ史跡に気候変動の被害

[ナイロビ 8日 トムソン・ロイター財団] - 雪を頂いたキリマンジャロからチュニジアの古代都市カルタゴ、奴隷貿易の拠点だったセネガルのゴレ島まで、アフリカは世界を代表する文化遺産・自然遺産の宝庫だ。

 アフリカでは気温の上昇や洪水の深刻化など、気候変動のさまざまな影響により、多くの世界遺産や名所が失われる危機にさらされている。写真はガーナで17世紀に奴隷貿易に使用された要塞。8月9日撮影(2022年 トムソン・ロイター財団/Nipah Dennis)

だが今、気温の上昇や洪水の深刻化など、気候変動のさまざまな影響により、これらの遺産や、その他アフリカの多くの名所が過去の記憶となってしまう危機にさらされている。

富裕国は自国の文化財を異常気象や海面上昇から守る対策を急いでいるが、文化財保護の専門家や研究者によれば、アフリカ諸国の場合は資金や考古学の専門スキルの不足といった障害に悩まされているという。

「こうした史跡については、学校で教わった。私たちのアイデンティティーであり歴史であって、かけがえのない存在だ。失われれば、二度と取り戻すことはできない」と語るのは、ケープタウン大学アフリカ気候開発イニシアチブのニック・シンプソン研究員だ。

「アフリカは、人間の活動に由来する気候変動によるものとされる損失・損害を幅広く被っている。生物多様性の喪失、水・食料不足、人命の犠牲、経済成長の鈍化などだ。その上に文化遺産・自然遺産までなくすわけにはいかない」

史跡の中には、すでに失われたものもある。

西アフリカ沿岸部には、植民地時代の奴隷貿易港の史跡が散在する。これらを訪れる人にとって欠かせない儀式は、「帰らざる門」をくぐること。要塞から海岸へと直結する、何世紀も前の関門だ。

大西洋を越える奴隷貿易の時代に故郷から強制的に引き離された何百万人ものアフリカ人をしのぶ慣習であり、地下牢から奴隷船へと連行され二度と帰ることのなかった人々の最後の歩みを逆にたどる。

だが、18世紀にオランダが奴隷を収容していた拠点、ガーナ国内のフォート・プリンゼンスタインでは、元からあった金属製の門と、その脇の通路はすでに失われている。

国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の世界遺産に登録されている同史跡を管理するジェームス・オクルー・アコーリ氏は「史跡の中心である『帰らざる門』は、かなり前に高潮により流失してしまった」と語る。

アフリカの人口は世界全体の約5分の1だが、気候変動の主な要因である二酸化炭素の排出量は全体の4%にも満たない。

にもかかわらず、干ばつや洪水などアフリカ大陸が被っている気候変動の影響は不釣り合いに大きく、各国がインフラの保護や回復力の改善に投資する必要性は明らかだ。

11月6日からエジプトで始まったCOP27(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)では、発展途上国による地球温暖化の影響への対応を支援するため、富裕国がどの程度財政的な支援を行うべきか、世界各国の首脳が議論する。

<暴風雨、洪水、侵食>

アフリカで気候変動によるリスクにさらされている文化・自然遺産が総数でどれくらいあるのか包括的なデータはない。ただ、シンプソン氏も共同リーダーとして参加する沿岸部の調査では、すでに56カ所が洪水、そして海面上昇に伴い深刻化する侵食に見舞われていることが分かった。

この調査の結果は2月、科学誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」で発表された。温室効果ガスの排出量の傾向が現状のまま変わらなければ、2050年にはこの数は現在の3倍以上に相当する198カ所に達する可能性があると警告している。

この調査ではリスクにさらされている史跡として、リビアにあるヌミディア/古代ローマ時代の壮大なサブラータ遺跡、アルジェリアにあるカルタゴ/古代ローマ時代の貿易拠点ティパサ遺跡、エジプトにある北シナイ遺跡群などを挙げている。

さらに、どちらもアフリカ奴隷貿易の歴史と関連しているガンビアのクンタ・キンテ島と関連遺跡群、トーゴのアネホ・グリジ村も、やはり危機にひんしているという。

自然環境としての価値が非常に高い名所の数々も、気温の上昇による氷河の融解、海面の上昇、沿岸部の浸食の進行により、極めて危うい状態に置かれている。

その中には、独特の植生と渡り鳥で知られるクラル・ベーリョ湿地(カーボベルデ)や、世界最大級の隆起珊瑚礁で、アルダブラゾウガメの生息地であるアルダブラ諸島(セーシェル)など、生物多様性に富む場所も含まれている。

ユネスコ世界遺産センターのラザーレ・エランドウ・アッソモ所長は「アフリカの世界遺産は気候変動のため、実に深刻な危機にひんしている」と語る。

「暴風雨や洪水、浸食、それに原野火災もある。世界遺産が現在、そして将来的に直面する大きな課題の1つが気候変動であると言えるだろう」

アッソモ氏が特に懸念しているのは、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロ山(タンザニア)などの自然遺産だという。2040年までにキリマンジャロの氷河は消失すると予想され、森林火災も増加しつつある。

<観光産業も危機に>

気候変動がアフリカの豊かな自然や文化遺産の将来を脅かす中で、こうした名所に関連する雇用や観光業も危機に直面している。

ガーナで奴隷貿易に使用された要塞、ナミビア先住民による岩壁画、ヌーの大移動が見られるマサイマラ国立自然保護区(ケニア)といった観光名所にとっても、先行きは暗い。こうした観光拠点は大勢の訪問客を集め、年間数百万ドルもの観光収入を生み出している。

たとえばガーナの奴隷要塞群は同国の歴史を構成しているだけでなく、海外に離散したアフリカ系の人々にとって、自らのルーツとのつながりを取り戻し、先祖に敬意を捧げるための巡礼の地となっている。

アフリカ出身奴隷のアメリカ大陸到着が最初に記録されてから400年となった2019年には、ガーナで「帰還の年」というイベントが開催された。記録的な数のアフリカ系米国人や欧州人が、史跡をめぐるツアーのため訪れた。

アフリカ南部に位置するナミビアには、アフリカ大陸有数の岩壁美術を見るために毎年数万人の観光客が訪れ、過疎状態の地元コミュニティーが切実に必要としている収入をもたらしている。

ユネスコ世界遺産に登録されているトゥウェイフルフォンテーンなど古代の岩線刻画や彫刻は、畜産を営むダマラ族や欧州からの植民者の到着よりずっと前に、狩猟採集民族のサン族によって作られた。

だが考古学者らは、気候変動に関連する急激な洪水や砂塵、植物の成長、菌類、近隣地域で水を探す砂漠の生物が、こうした芸術の存亡を脅かしていると懸念している。

インドネシアからオーストラリアにかけての一帯でも、気温の振れ幅の拡大や洪水、原野火災といった気候変動の影響によって、古代芸術の重要な拠点で、表面の剥離どころか岩壁の破裂といった現象まで生じていることを考古学者が確認している。

ナミビアの在野の考古学者であるアルマ・メコンジョ・ナンケラ氏は、同国の岩壁芸術遺産にも同じ問題が待ち構えているものと危惧している。

「実際、作品の劣化が見られるし、しかも非常に急速に進行している」とナンケラ氏は言う。さらに同氏は、劣化の要因の大半は「気候変動に関連している可能性が高い」と続ける。

長期的な気候変動を理解・追跡するには、長年にわたる資金・リソースを緊急に確保する必要があるとナンケラ氏は主張する。

野生動物保護関係者によれば、ケニアでは、自然遺産として世界で最も有名な光景の1つであるヌーの大移動もリスクを抱えているという。

この大移動は、地上における動物の移動の中でも指折りの迫力だ。何万頭ものヌー、シマウマ、ガゼルが、タンザニアのセレンゲティ国立公園からケニアのマサイマラ国立自然保護区へと、国境を越え、毎年決まったルートをたどって移動する。

アフリカ東部に位置するケニアにとって、もっぱらマサイマラにおけるサファリツアーを軸とする観光産業は経済の重要な柱であり、200万人以上の雇用を生み、国内総生産(GDP)の約10%を占める。

だが野生動物保護の専門家によれば、大移動も危機にさらされているという。微妙な均衡を保つマサイマラの生態系において干ばつと洪水が増加し、ヌーが草を食べる土地が奪われているためだ。

それによって、ケニアに移動する動物の数や滞留する期間にも影響が出ている。

<求められる調査拡大、リソース強化>

気候変動に関連したアフリカの文化遺産・自然遺産の損失・損害は、広範囲にわたる影響を及ぼす可能性がある。だが、富裕国における観光名所に生じているリスクほど大きな関心は寄せられていない。

ある調査では、文化遺産・自然遺産に対する気候変動の影響に対する研究のうち、アフリカ関連はわずか1%に留まっていると推定している。だがここ数十年、地球温暖化の最前線に立たされているのはアフリカ大陸なのだ。

フランス国立自然史博物館人間環境部のデービッド・プルードー准教授は「もっと各国に考古学者が必要だ」と語る。プルードー氏はナミビアのエロンゴ地域における考古学研究チームを率いている。

ナミビアの考古学者ナンケラ氏と協力関係にあるプルードー准教授は「ナミビア人研究者の教育を強化し、予算を増やし、同国の世界遺産委員会がもっと多くの考古学者を採用する必要がある」と主張する。

ガーナやエジプトなどは、沿岸部の名所を保護するため、巨費を投じて防潮壁や防波堤を建設している。

だがアフリカ気候開発イニシアチブのシンプソン氏によれば、こうした「ハードによる保護」戦略は将来の海面上昇を考慮していない場合が多く、その場所の生態系の自然な均衡をゆがめかねない。

岩壁と潮汐湿地や海藻類、あるいは波による作用を緩和する再生マングローブなど、天然のインフラを利用する「ハイブリッド保護」の方が効果が高くなる可能性がある。

さらに、危機にひんしている名所に関連するガバナンスを改善し、保全・保護の取り組みに地元コミュニティーを関与させていくことも不可欠だとシンプソン氏は言う。

フォート・プリンゼンスタインに戻ろう。管理担当者のアコーリ氏は、今も残る数少ない奴隷収容施設の1つで、壊れかけた後壁に刻み込まれた言葉を指し示す。「ライオンが自分の歴史家を持つまで、英雄は常に猟師だ」

「歴史がゆがめられる例は多い」とアコーリ氏は言う。「こうした史跡は、私たちに辛い真実を語ってくれる。だから私たちは史跡を保護する必要がある。過去に何が起きたのかを知り、将来学べるように」

(Nita Bhalla記者)

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