June 13, 2018 / 4:14 AM / 2 days ago

焦点:世界の空で深刻なパイロット不足、「獲得戦争」が激化

[シドニー/バンコク/モントリオール 6日 ロイター] - 深刻化する航空機パイロット不足が、航空業界の最近の好成長を脅かしている。稼動していない旅客機が増え、賃金高騰が企業収益を蝕み、世界中の労働組合がさらなる手当てを要求しているためだ。

 6月6日、深刻化する航空機パイロット不足が、航空業界の最近の好成長を脅かしている。写真はエールフランスのパイロット。仏シャルルドゴール空港で2016年12月撮影(2018年 ロイター/Benoit Tessier)

ドバイのエミレーツ航空や豪カンタス航空(QAN.AX)などは、採用に力を注いでいるが、パイロット訓練がボトルネックとなり、最近では事業計画に沿った形で航空機を運行することが難しくなっている。

アイルランドの格安航空ライアンエア(RYA.I)では、パイロットが欧州を横断する労組を立ち上げて就業条件の改善を要求。仏エールフランス(AIRF.PA)のパイロットは、賃金を巡ってストライキを敢行した。

米国では、航空各社が経営破たんした10数年前に賃金カットを強いられたパイロットが、近年の堅調な業績を反映した新たな契約の下で大幅な昇給を獲得している。

燃料費と並んで航空会社の財務の重石となる人件費の高騰は、原油価格高騰が各社の収益を圧迫する中で起きている。航空各社は、運賃の上昇は、コストのそれに見合うものではないとしている。

「コスト圧力はすぐには解消しない」。国際航空運送協会(IATA)のチーフエコノミスト、ブライアン・ピアース氏は、シドニーで今週行われた同協会の年次総会でこう発言した。IATAは、燃料価格と人件費の高騰を理由に、航空業界の利益予測を12%引き下げた。

「これは、より大きな問題の1つの症状だ。先進国を見ると、経済協力開発機構(OECD)加盟国の失業率は過去最低レベルまで低下しており、賃上げ圧力がかかっている。この業界では、それがパイロット不足という症状として表れている」。ピアース氏はIATA総会で航空会社幹部を前に語った。同総会では業界幹部の多くがパイロット不足への懸念を口にしていた。

何年も低水準にあったインフレ率が、OECD諸国で上昇し始めており、パイロットの賃金はそれも反映していると、同氏は指摘した。

コストのかかるパイロット訓練と、米国やオーストラリアなどで以前に行われた数年間の新規採用停止が、パイロット志望者が業界に入る障害となっている。業界では今後20年でパイロットを63万7000人増やす必要があると、米航空機大手ボーイングは予想している。

その20年で、航空機の運行量はほぼ2倍に増えるとIATAは推計している。乗務員訓練を手がけるカナダのCAE(CAE.TO)やL3テクノロジーズ(LLL.N)は、訓練需要の増加に対応しようと、新たなフライトシミュレーターを製造している。

エアバスやボーイングなどの航空機大手も、訓練などのサービスに事業を広げようとしている。航空機建造よりも利幅が大きくなる可能性があるからだ。

また、自社訓練プログラムの拡充を計画している航空会社もある。地域航空子会社のカンタスリンクで退職率が高くなっているカンタスは、パイロットを確保するため、2000万豪ドル(約17億円)を投じて新たに航空訓練学校を設立すると表明。エミレーツは昨年11月、1億3500万ドル(約148億円)を投じて最大600人の候補生を訓練する航空訓練アカデミーを開校した。

「われわれには社会的責任がある」と、カンタスの国内事業責任者アンドリュー・デービッド氏は話す。「今後も国内外の中小航空会社からパイロットを引き抜くことは可能だが、われわれも(パイロット供給に)貢献する必要がある。それが、ここでの取り組みの1つだ」

<獲得戦争>

 6月6日、深刻化する航空機パイロット不足が、航空業界の最近の好成長を脅かしている。写真はエールフランス機のコクピット。仏シャルルドゴール空港で2016年12月撮影(2018年 ロイター/Benoit Tessier)

他の航空会社は、海外から採用せざるを得なくなっており、中国との競争にさらされている。経験豊富な外国人機長の需要が高い中国では、航空各社が最高年俸31万4000ドルを免税で提示している。

「パイロットが不足しているというよりは、必要とするパイロット、特に経験豊富なパイロットを呼んできて働き続けてもらうためのコストが高くなっている」と、アジア太平洋航空会社協会のアンドリュー・ハードマン事務局長は言う。「獲得戦争が起きている」

平均賃金が比較的低い国では、パイロットは他の職業に比べてずっと豪華な報酬を提示されている。パイロットは、国境をまたいで移動することが可能な職業で、航空業界の共通言語である英語を話す必要があるからだ。

スリランカ航空では、湾岸諸国の航空会社へのパイロット流失が続いていると、エミレーツのパイロット出身であるラトワッテ最高経営責任者(CEO)はロイターに明かした。

「そこそこ高い給料を支払っている。辞めていくパイロットは、中東に転職する人が多く、われわれが提示する給与水準は、湾岸諸国のそれに非常に近づいている。違いは、スリランカが拠点だということだけだ」と同CEOは語る。「ライフフスタイルは大変良いものだ」

タイの航空大手バンコク・エアウェイズ(BA.BK)は、パイロットの賃金を引き上げ、手当ても拡充して国際線の外国人パイロットを採用していると、同社のPuttipong Prasarttong-Osot社長は話した。

パイロットの労働組合は、人手不足に乗じて、組合員のさらなる待遇改善を求めている。

カナダの定期航空操縦士協会(ALPA)のダン・アダムス会長は、カナダのパイロットは全体的に昇給を得ているものの、米大手航空会社の方がエア・カナダ(AC.TO)より給与水準が高いと語る。

「航空会社は、適任のパイロット採用が難しくなっている」と、アダムス会長は話した。このため、航空各社は賃金を引き上げている。「パイロットは、給料の良いほうに移ってしまう」

同会長は、1000人前後のカナダ人パイロットが、エミレーツなどの外国航空会社で操縦かんを握っているとみている。

自国で最優良の雇用主と評価されている、カンタスや英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)などの航空会社は、まだパイロット志望者の不足に悩まされてはいない。

BAを傘下に持つインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG)(ICAG.L)のウォルシュCEOは、業界全体を見れば「ピンチポイント」の兆候があるものの、パイロット不足が起きているとは思わないと言う。

    「私がパイロットに復帰する事態になったら、パイロット不足だと言えるだろう」と、アイルランドのエアリンガスのパイロット出身のウォルシュCEOは語った。

    (Jamie Freed記者, Chayut Setboonsarng記者、Allison Lampert記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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