[マウンテンビュー(米カリフォルニア州) 22日 ロイター] - 米アルファベットは8日、傘下グーグルの人工知能(AI)を使った自動応答ソフト(チャットボット)「バード(Bard)」が不正確な回答をしたため株価が急落し、時価総額が1000億ドル(約13兆5000億円)吹き飛んだ。同社はこの失態を軽く受け流したが、グーグルの「生成AI」導入には別の課題も浮上している。巨額のコストだ。
IT業界幹部の間では今、新興企業オープンAIが開発したチャットボット「チャットGPT」のように文書や画像を作り出す生成AIについて、高額なコストを勘案しながらどう実用化していくかが盛んに議論されている。オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)はツイッターへの投稿で、チャットGPTでの会話1回当たりのコストは数セント以上と「目玉が飛び出るほどだ」と明かしている。
アルファベットのジョン・ヘネシー会長はインタビューで、生成AIでやり取りするコストは標準的なキーワード検索の10倍以上に達する可能性が高いが、少し手を加えればすぐにコストを抑制できると述べた。
しかしアナリストの見方では、アルファベットは生成AIを検索サービスに導入すれば広告収入が見込めるものの、追加コストは数十億ドル規模に上り、利益を圧迫しそうだ。アルファベットの昨年の純利益は約600億ドルだった。
モルガン・スタンレーの推計によると、グーグルが昨年処理した検索は3兆3000億件で、1件当たりのコストはおよそ5分の1セントだった。コストはAIが生成しなければならないテキスト量に従って増えると予想されている。例えばグーグルがチャットGPTのような生成AIを使い、検索の半分に50ワードで回答した場合、2024年までに60億ドルのコスト増に直面する可能性があると、アナリストは予測している。
グーグルは、ウィキペディアなど特定のサイトに「案内する」検索の処理でチャットボットを必要とすることはなさそうだ。
また、半導体技術に特化した調査・コンサルティング会社セミアナリシスは、生成AIを検索機能に追加することによるアルファベットの追加コストを30億ドルと予想。内製半導体などがコスト抑制につながると分析している。
生成AIのコストが従来型検索よりも膨らむのは、処理のために高い能力のコンピューターを使うためだ。アナリストによると生成AIには価格が何十億ドルもする半導体が欠かせず、そのコストを数年で回収しなければならない。電力消費もコストを押し上げ、二酸化炭素(CO2)排出量削減目標を掲げる企業にとってプレッシャーとなる。
グーグルには、コストが膨らんでも生成AI導入に挑まざるを得ない立場に立たされている。ライバルの米マイクロソフトが7日、検索エンジン「Bing」にオープンAIの技術を使った生成AIを搭載すると大々的に発表し、検索におけるグーグルの牙城切り崩しに狙いを定めたからだ。
しかしマイクロソフトはその後、同社のAIが試験参加したユーザーを脅したり、ユーザーに愛を告白したりしたと報じられ、内部調査を行い、長時間のチャットを制限した。
ただマイクロソフトのエイミー・フード最高財務責任者(CFO)はアナリストに対し、Bingが何百万人もの消費者向けに展開されることによるユーザーの獲得と広告収入上積みの効果は、経費を上回るとの見通しを示した。
グーグルにとってもう1つのライバルである検索エンジン、ユー・ドット・コムのリチャード・ソチャーCEOは、AIによるチャットや、チャート、ビデオ、その他生成技術への適応によりコストが30―50%上昇するが、「技術は規模が大きくなればなるほど、そして時間がたてばたつほどコストが下がる」と楽観的な見通しを示した。
一方でアクセンチュアのポール・ドハティ最高技術責任者(CTO)は、検索サービスやソーシャルメディアの巨人が、一夜にしてAIチャットボットを展開していない理由は主に2つあり、1つはコスト、もう1つは正確性だと指摘した。
<コスト削減を模索>
アルファベットや他の企業の研究者は何年も前から、大規模な言語モデルを学習させ、運用するコストを引き下げる方法を研究してきた。
人間並みの信頼性で消費者を魅了する生成AIは規模が巨大化し、チャットGPTのような最新モデルではパラメーター(アルゴリズムが考慮するさまざまな数値)が1750億に達する。コストはユーザーの検索ワードの長さによっても変化する。
あるIT企業の上級幹部はロイターの取材に、こうしたAIを何百万人もの消費者が利用できるようにするには依然としてコストがかかり過ぎると吐露。「これらのモデルはあまりにも高価なので、学習と推論の双方でコストを削減し、あらゆるアプリで使えるようにする方法を次に考案する必要がある」と話した。
より長期的な課題は、精度を落とさずにAIモデルのパラメーター数を大幅に減らす手法だ。
以前インテルのAI用半導体部門に在籍し、現在は自身のスタートアップ企業モザイクMLを率いるナビーン・ラオ氏は「どうすれば最も効果的に(パラメーターを)縮小するかは未解決の問題だ」と述べた。
(Jeffrey Dastin記者、Stephen Nellis記者)
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