[パリ 22日 ロイター] - フランス重電大手アルストム (ALSO.PA)のエネルギー事業売却交渉は、仏政府が米ゼネラル・エレクトリック(GE)(GE.N)の買収提案への支持を表明したことをきっかけに決着した。GEとしのぎを削っていた独シーメンス(SIEGn.DE)と三菱重工(7011.T)の連合は敗北した。
ただこの交渉を通じて有力な投資家が思い知ったのは、非常に単純な事実といえる。つまりフランスでは「経済ナショナリズム」がすべてを支配するということだ。
GEが4月終盤に、アルストムの事業買収に興味を示した時点からずっと政治というものがまとわりついてきた。そしてフランス国内の政治情勢といえば、オランド大統領の与党、社会党が保護貿易主義を掲げて有権者を引きつけている極右勢力の国民戦線の台頭をなかなか抑えられない状況にあったのだ。
アルストムの事業売却交渉において主導権を握っていたのは、GEでもましてやシーメンスでもなく、フランスのモントブール経済相だった。
ロイターが取材した交渉参加者によると、最終的に成立したGEとアルストムの提携の枠組みを形作った一因として、モントブール氏が自国の利益を確保する道を推進してきたことがあるという。
モントブール氏は当初、アルストムのクロン最高経営責任者(CEO)がGEから接触を受けたことを政府に知らせなかったことなどに憤慨し、シーメンスの提案に好意を表明。また当時は政府によるアルストム株購入を否定していたオランド大統領を尻目に、こうした選択肢を保持し続ける姿勢を示した。
フランス国内では、アルストムの1万8000人の従業員の利益を守るために政府が動く態度を明確に見せろという圧力が強まった。国民戦線のルペン党首は、政府が米国もしくはドイツの利益のためにアルストムを見捨てたと非難し、主要野党からもサルコジ前大統領が10年前にアルストムをシーメンスの手から守ることに同意しているとの指摘が上がった。
こうした中でモントブール氏は、エネルギーや水資源、運輸、通信、医療の分野におけるいかなる合併・買収(M&A)にも経済相の承認を必要とするという、M&Aに関する政府の権限を大幅に強化した新たな政令を打ち出した。
この政令については欧州連合(EU)の域内市場当局が、保護主義的政策の恐れがあり、EU条約に違反していないかどうか調査中だと警告を発したほか、フランスの経営者団体Medefからも、既に近隣諸国よりもM&A市場が閉鎖的とみなされている同国にとっては筋の悪い考えだとの苦言が呈された。
それでもモントブール氏は後悔の色はまったく見せず、他国にも戦略的産業をコントロールする法律はあると強調した。
モントブール氏は、結局日の目を見なかったとはいえ、GE、シーメンスとは別に「オールフランス」の企業によるアルストムの事業買収を画策する局面もあった。
その後アルストムの事業売却交渉が大詰めを迎えた段階では、GEを支持するオランド大統領と、なおもシーメンスが望ましいと考えるモントブール氏の意見対立があるとの見方が広がった。
ある労組関係者によると、モントブール氏は、オランド大統領がGEを支持しているのは米政府に制裁破りによるBNPパリバへの罰金を緩和するよう要請しがたっているのが一因ではないかとの疑念を漏らしたという。
最終的にはモントブール氏が20日午後、政府が複合企業ブイグ(BOUY.PA)からアルストム株を取得することなどを条件に、GEの提案を選ぶと表明した。
これによりフランス政府はアルストム株の20%を保有することに加えて、原子力部門におけるアルストムとGEの合弁の戦略に拒否権を行使できる。GEは、フランス国内で最低1000人の新規雇用を創出しないと罰金を科せられる。
政府の対応について労組幹部からは評価する声が聞かれた一方、交渉に詳しいある関係者は、アルストムは民間企業なのに政府は国営企業であるかのような振る舞いをしており「いったい世界中にどのように受け取られると思っているのだろうか」と批判した。
もっともフランスの政治指導者が左右の党派を問わず、介入主義的な行動をしてきた点を考えれば、今回の件もさほど驚くには値しないとみる向きもある。
ムーディーズのGE担当主任アナリスト、ラッセル・ソロモン氏は、一連の動きは「フランスでビジネスをする場合に対応が不可欠な、保護主義環境の表れだ」と指摘。その上で「とはいうものの、GEは欧州全般やフランスにおけるこうしたビジネス慣行や規制環境に精通している。GEはやるべきことを承知している様子がうかがえる」と話した。
(Mark John、Jean-Baptiste Vey記者)