[サンフランシスコ 4日 ロイター] - 米アップルAAPL.Oは画像処理用のグラフィック・チップについて、英イマジネーション・テクノロジーズIMG.Lとのライセンス契約を停止することを決めた。これは製品の中核となる技術を自ら支配することで、大幅な利ざやを維持しつつ、拡張現実(AR)など将来の技術革新に備える同社の決意の表れだ。
アナリストによると、アップルはこれまでも外部業者への依存を減らしてきた。スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の主なプロセッサーはかつて、ソフトバンクグループ9984.Tが買収した英半導体設計会社ARMホールディングスに大きく依存していたが、現在ライセンス契約を結んでいるのはARMの基礎的な構造のみで、大半のチップは自社で設計している。
2014年にヘッドフォンのビーツ・エレクトロニクスを買収した際には、既存の情報伝達用チップを廃して自社で設計したブルートゥース用の「W1チップ」を導入した。
電子部品のチップを調査するテックインサイツのバイスプレジデント、ジム・モリソン氏は「アップルは従来の納入業者ときっぱり決別し、5つ程度のチップを1種類に置き換えた」と話す。
アップルのルカ・マエストリ最高財務責任者(CFO)は2月の会議で「われわれは以前に比べ、基本的な技術の社内開発を大幅に増やした」と述べた。
大半の消費者向け電子機器メーカーは、チップの設計・開発を外部業者に頼っている。コストが極端に高いのが主な理由だ。
しかしアップルは非常に巨大化したため、自社で設計したり、小さな部分だけ他社とライセンス契約を結び、それを基に開発を進めていくことが経済的に見合うようになった。チップの実際の製造は今でも外部に委託している。
<コスト削減>
この分野に詳しい人々によると、社内設計を増やすと煩雑さを減らせるという利点がある。かつては1つかそれ以上の設計チームに加え、製作チームを管理していたのが、アップルは今や製作チームだけを管理すれば済むようになった。
この結果、仮想現実(VR)やARといった新しい技術分野で素早く身動きが取れ、コストも節約できるようになった。アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は製品にARを組み込む計画を示唆しており、そうなるとイマジネーション社が提供しているような3Dセンサーやグラフィック・チップが極めて重要になる。
アイフォーンのチップを自社で設計できるようになれば、コストも抑えられる。新機能を満載した次期アイフォーンの発売を秋に控え、この点は非常に重要になってくる。
コーエン・アンド・カンパニーのティモシー・アーキュリ氏の調査ノートによると、例えば新型アイフォーンで予想される曲面スクリーンの導入により、コストは最大50ドルも増える。
FBNセキュリティーズのアナリスト、シェビル・セイラフィ氏の推計では、第1・四半期のアイフォーンの平均価格は695ドルと、1%しか上昇していないが、コストは8%上昇して420ドルとなり、粗利ざやは39.6%となった。2015年の平均44%から縮小している。
アップルがイマジネーション社のチップに払っているライセンス料は年間わずか7500万ドルだが、チップ設計業者向けのライセンス料をすべて合わせると、アイフォーンのコストを大きく押し上げている。
(Stephen Nellis記者)
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