June 8, 2018 / 9:44 AM / 6 months ago

焦点:需給ひっ迫でも鈍い物価、分析急ぐ日銀 生産性上昇との関連で

[東京 8日 ロイター] - 人手不足による人件費上昇や需給ギャップの改善にもかかわらず、物価上昇率に加速の兆しがみられない。日銀は、人手不足に起因した省力化投資など企業の生産性上昇の取り組みが短期的に物価を押し下げるものの、中長期的には成長期待を高めて物価を押し上げる「循環」に期待する。

 6月8日、人手不足による人件費上昇や需給ギャップの改善にもかかわらず、物価上昇率に加速の兆しがみられない。都内で先月撮影(2018年 ロイター/Issei Kato)

専門家からはその実現には数年かかるとの見方も出ており、想定を下回る足元の物価も踏まえ、日銀は分析を急ぐ。

<好景気でも鈍い物価上昇>

足元の消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)は3月、4月と2カ月連続で前年比での伸びが鈍化。2月の1.0%から3月が0.9%、4月が0.7%となり、除く生鮮・エネルギーのコアコアCPIも3月が0.5%、4月が0.4%と伸びが停滞している。

日銀内では、直近の堅調な景気とは整合的でない物価の動きに対し、その要因を分析する動きが続いている。

4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、この物価の動きについて、1)人々のデフレマインドの根強さ、2)企業が省力化投資の拡大やビジネス・プロセスの見直しなど生産性の向上による賃金コスト上昇の吸収の動き──を挙げた。

生産性上昇を巡っては昨年7月の展望リポートで、近年は労働生産性の上昇が実質賃金の伸びを上回っておりインフレ率をマイナス0.2%ポイント程度押し下げているとの試算を示した。ただ、こうした物価下押し圧力は「一時的な現象にとどまる」とも分析していた。

だが、それから1年近くが経過したものの、物価が明確に上昇していく気配はうかがえない。

黒田東彦日銀総裁は、5月30日に日銀本店で開かれた国際コンファランスでのあいさつで「先進国を中心に観察される物価・賃金ダイナミクスの変化の背景を解明することは、喫緊の課題だ」と述べ、足元で展開されている「パズリング」な現象の解明に意欲を示した。

また、桜井真審議委員が5月24日に行った講演の資料には「時間当たり労働生産性の国際比較」がグラフで示された。

それによると、主要7カ国(G7)における2010年から2017年の時間当たり労働生産性の平均伸び率は、日本は1.2%強とドイツとほぼ並んでトップクラス。「日本の労働生産性は、他国にキャッチアップする形で相対的に早いペースで改善している」(同委員)ことを示している。

<生産性上昇から成長期待へ、数年かかるとの見方>

構造失業率を下回る2%台半ばまで失業率が低下する深刻な人手不足に対応するため、企業はかなり大胆な自動化投資を推し進め、生産性が上昇する過程に入っている。

その結果、短期的には人件費抑制などのコスト圧縮効果が先行。物価に対し、下押し圧力がかかりやすくなる。

しかし、需給ひっ迫を背景とした継続的な生産性上昇が中長期的には潜在成長率や期待成長率を引き上げ、需要がさらに拡大する──日銀は、この拡大方向の景気循環メカニズムが働き出せば、物価に上昇圧力が強まると期待する。

ただ、現実に物価上昇につながるまでにどの程度の時間がかかるのか、変数が多いために確定的なことは言いにくい。日銀内でも、この期間について明確に示す関係者は少ない。

ある民間エコノミストは、短期的に物価に下押し圧力がかかりやすいのは1年程度ではないかとしたうえで、生産性上昇から物価上昇が目に見えるまで「数年」はかかるとみている。

そもそも、約25年ぶりの低い失業率にもかかわらず物価や賃金の上昇が鈍いこと自体が、経済全体でみれば需給がそれほどひっ迫していないことを示しているのではないか、との声も日銀内にある。

大和証券・チーフマーケットエコノミストの岩下真理氏は、付加価値の高い商品でもできるだけ安く提供しようとする企業のビジネスモデルは変わっていないとし、「それを転換し、企業の成長期待を高めるには相当の時間がかかる」と指摘。

その上で、日本の場合は労働生産性の上昇だけで成長期待を高めるのは難しいと述べ、外国人労働者の活用をはじめとした労働投入の拡大など「日銀では、どうにもできない課題が多い。現在の金融政策の継続で、デフレマインドの転換をじっくり待つ、というのが基本スタンスだろう」とみる。

物価が上がりにくい要因とそのメカニズムを解明し、今後、打ち出していく金融政策の手段や、市場との対話の中にどのように生かしていくのか。

もし、かなりの時間がかかるとの推論を表明するのであれば、市場への説明の仕方によっては、価格変動が大きくなるリスクも残る。黒田日銀の手腕を注視していく必要がありそうだ。

伊藤純夫 編集:田巻一彦

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