September 26, 2019 / 8:10 AM / 2 months ago

焦点:日米通商交渉、スピード感に高評価 薄氷の自動車関税にリスク

[東京 26日 ロイター] - 日米通商交渉は、日本が自動車への高関税を何とか回避したことや、1年というスピードで合意した点で、日米双方にとり一定の評価ができる内容となった。一方、米国が環太平洋連携協定(TPP)に戻る意味合いを損なわせたとの指摘があるほか、日本車への高関税回避の文言があいまいな点も含め、リスクも残っている。

 9月26日、日米通商交渉は日米双方にとり一定の評価ができる内容となった一方、米国が環太平洋連携協定(TPP)に戻る意味合いを損なわせたとの指摘があるほか、日本車への高関税回避の文言があいまいな点も含め、リスクも残っている。写真は輸出を待つ自動車。2017年11月15日、神奈川県横浜市で撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)

<自動車高関税の回避、ひとまず安堵(あんど)の声>

「時間を無駄にしなかったという意味で評価できる」──デロイトトーマツコンサルティング・執行役員の羽生田慶介氏は、今回の日米交渉についてこう評価する。先進国の貿易協定は交渉に通常3─5年かかるところ、1年というスピードで合意したこと自体、日米双方の産業界にとって停滞リスクを払しょくする効果が大きいとの視点だ。

同氏は「当面は日本が自動車高関税の対象にならないことが約束されたのであれば、工場投資などこれまでサプライチェーン上の意思決定ができなかった部分の判断ができるようになる。米中貿易摩擦の影響で中国からの拠点シフトが進む中、日本への投資が戻ってくる可能性はある」とみている。

産業界からも「実質半年に満たない短期間で日米貿易関係の安定的な発展につながり得るバランスのとれた合意に達した」(中西宏明・経団連会長)との歓迎の声が上がっている。

特に、焦点だった対米自動車輸出に対する米国通商拡大法232条による高関税が回避されたことに安堵(あんど)の声が広がっている。自工会の豊田章男会長(トヨタ自動車(7203.T)社長)は、「自動車分野における日米間の自由で公正な貿易環境が、維持・強化されることを歓迎する」と述べた。

ただ、米国による日本車・部品の輸入にかかる現状の関税は撤廃に至らなかった。菅原一秀・経済産業相は「双方の利益となるように、協定の発効後に行われる日米間協議の中でしっかりと議論を進め、結果を出す」と今後の取り組みに意欲を示す。が、「自動車部品の関税撤廃交渉を米が望むはずはない」(政府関係者)との見方は多く、関税撤廃に消極的な米国側を軟化させるのは難題だ。

<続く交渉 予断許さず>

農業分野では「聖域」とされるコメについて、米国が参加した場合のTPPで盛り込まれていた米国産コメの無関税枠は設定されないことになった。牛肉や豚肉についてもTPP並みの関税引き下げで収まったことから、日米双方にメリットのある内容となった。

ただ、工業品やサービス分野など交渉は今後も継続する。大和総研・シニアエコノミストの小林俊介氏は「今回の結果はまだ一里塚に過ぎない」と指摘。

特に日本車への高関税回避について協定文では「協定が誠実に履行されている間は、協定および共同声明の精神に反する行動はとらない」とのあいまいともとれる表現が使われている。

もし今回の共同声明が破棄され、25%の自動車・自動車部品関税が賦課された場合、小林氏は関税の増加額は1.2兆円となると試算。「輸出の減少は国内生産の減少と同義であり、これは国内雇用・設備投資の減退圧力につながる」とみている。そうした乗数効果まで含めれば、関税引き上げが日本経済全体に与える影響は、2─3倍に膨れ上がる可能性もあるという。

<残された交渉課題、世界情勢とトランプ大統領次第>

より幅広い視点でみると、今回の日米貿易協定は世界の自由貿易体制や多国間協定の推進にマイナスの要素もはらむとの見方がある。

一つには、米国はこれで農産物輸入についてTPP並みの低関税を確保でき、「米国がTPPに戻ってくるインセンティブを低減させてしまった」(羽生田氏)ことがある。経済官庁幹部からは「米国が包括的な自由貿易交渉(FTA)のための交渉を早くやりたがっているとすれば、日本には嫌な話だろう」との声が聞かれ、幅広い分野での二国間交渉を求められることへの懸念は強い。

今後俎上(そじょう)に上がるサービス分野では、米中の覇権争いも影響するとの見方がある。小林氏は米中摩擦の象徴でもある通信分野が重要度を増す可能性が高いと指摘。通信分野で対中規制の足並みをそろえるよう要請されたり、米欧間で緊張が高まりつつあるデジタル課税の議論に日本が巻き込まれる可能性に注目する。

<首相否定も早期解散説が浮上>

日米通商交渉にまだ波乱の可能性が残る中、安倍政権の政権運営も世界情勢に左右されそうだ。与党関係者からは「野党がバラバラな状態が続いているため、米国から厳しい通商要求が出たり、消費増税の悪影響が明確になったりする前に、首相が早期解散に出る可能性はある」との見方も浮上している。もっとも首相は25日(日本時間26日午前)の記者会見で解散に関し「頭の片隅にも真ん中にもない」と述べている。

取材協力:清水律子 編集:佐々木美和

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