[ニューヨーク 16日 ロイター] - ドル建てのロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の全面廃止が6月末に迫り、企業向け融資の「コーポレートローン」市場は待ったなしの対応を迫られている。
全面廃止まで5カ月を切ったが、プライベートエクイティ(PE)のKKRによると、インスティテューショナルローン(タームローンのうち元本を期日に一括返済する長期ローンタームローン)やCLO(ローン担保証券)の8割程度が今もなおLIBORを基準金利としている。
KKRでLIBOR移行の取り組みを率いるタル・レバック氏は「(バスケットボールの)24秒ルールが発動された状態だ」と述べた。
LIBORは不正操作問題で廃止が決まり、2017年から新基準金利への移行が開始。昨年まではスムーズに移行が進んでいたが、この年に金利が上昇、インフレが数十年ぶりの水準に高まり、ロシアがウクライナに侵攻、景気後退への懸念が高まって市場は大揺れとなった。
タイミングをとらえて実施される案件は棚上げされ、多くの発行体が市場で資金調達できなくなった。通常は発行時に既存債務が見直され、代替金利に転換される可能性があるが、それが阻まれたことで移行のペースが鈍った。
金融情報会社コベナント・レビューの法的イノベーション部門の責任者、イアン・ウォーカー氏は「新発市場は閉鎖状態だ。ボラティリティーと先行き不透明感があまりにも大きくなり、昨年は移行が全く進まなかった」と話した。
今年に入りLIBORから米連邦準備理事会(FRB)の推奨する金利SOFRへの移行が持ち直しているが、「依然として大量の」移行が必要だという。
KKRによると、まだ移行が必要なローンの55%程度は、LIBORの全面廃止までに移行経路が見つからなければ、基準金利がプライムレートに変更される恐れがある。現在のプライレートは7.75%で、4.5%近辺のSOFRより高い。こうしたローンの多くはCLOに組み込まれている。
レバック氏によると、多額の負債を抱え、「トリプルC」や「Bマイナス」など低い格付けの借り手は、この金利差のせいで格下げの可能性が高まり、痛手を被る恐れがある。またCLOもトリプルCやデフォルト(債務不履行)のローン数で評価が決まることから、苦境に立たされかねない。「ローン市場にとって大きなリスクだ」と言う。
LIBORとSOFRの金利差を巡る調整で、貸し手と借り手がもめるケースもある。借り手は金利が上がることで苦痛を味わう一方、貸し手は移行を好機とばかりに数ベーシスでも上乗せしようと目論むからだ。
<準備は早めに>
LIBORは2021年末までに新規契約分についての適用が廃止されたが、既存のドル建て契約の大半は、移行期限が6月30日となっている。
新基準金利移行の規定がない「タフレガシー」契約の移行手続きを容易にするため、米議会は22年3月にLIBOR法を制定。こうした契約は6月30日以降、ほとんどの場合、SOFRに26ベーシスポイント(bp)上乗せした金利へと自動的に切り替えられるようになった。
しかし多くの契約書には、LIBOR廃止とは無関係にプライムレートへの移行などの規定が盛り込まれており、これらはLIBOR法の適用外だとアルストン・アンド・バードのパートナー、ジョージ・カヒル氏は指摘する。
「LIBOR廃止前に書類を修正できない借り手は、SOFRではなく、それよりずっと高いプライムレートが基準金利になるリスクがある」と言う。
こうした負担を軽減するため、英金融行動監視機構(FCA)は24年9月末までを満期とする米ドル建て商品の一部について、ポンドの金利に基づく「シンセティック」LIBORを容認することを検討している。
しかしローン・シンジケーション・トレーディング協会のメレディス・コフィー氏によると、シンセティックLIBORの金利は、発行体が6月30日までに新しい基準金利に移行した場合に得られる金利よりも高くなる可能性がある。
契約によっては、LIBORが廃止されたり、シンセティックLIBORのような「代表性のない」金利に移行した場合に、自動的に新しい金利に移行するよう義務付けるフォールバック条項を備えたものがあるとコフィー氏は説明。一夜漬けで「論文」を書き上げて「落第点」をもらいたくなければ、対応を急ぐべきだと話した。
(John McCrank記者)
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