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アングル:景気回復でも賃金上がらず、企業は価格転嫁に及び腰

[ロンドン/シドニー/ワシントン 25日 ロイター] - オーストラリアのクイーンズランド州はビーチリゾートの接客人員不足に見舞われ、一時金支給や移動費用補助などの措置を盛り込んだ「ワーク・イン・パラダイス」制度を導入して料理人やバーテンダー、旅行ガイドを誘致しようとしている。

 世界金融危機から10年間にわたり、賃金は世界的にただでさえ回復しにくい状態が続いていた。国際労働機関(ILO)によると、昨年は新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)によって多くの国でさらに賃金が押し下げられた。写真は2017年4月、パリで撮影した配達員の男性(2021年 ロイター/Charles Platiau)

しかし地元企業は顧客を獲得するために価格を低く抑えなければならず、ここに働きに来てもそれ以降は賃金の大幅な上昇が期待できない。

クイーンズランド観光業協会のダニエル・グシュウィンド会長は「企業はさまざまな手段で人手不足に対処しようとしているが、業界全体に賃金上昇圧力は見られない」と話す。

世界金融危機から10年間にわたり、賃金は世界的にただでさえ回復しにくい状態が続いていた。国際労働機関(ILO)によると、昨年は新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)によって多くの国でさらに賃金が押し下げられた。

現在、投資家や政策当局者は新型コロナ対応の景気刺激策が望ましくないインフレで終わるのかどうかを見極めているところだ。持続的な物価上昇には賃金の伸びが必須とされるが、労働市場はこの点について悲観的なシグナルを送っている。

回復が早いセクターでは求人の際に提示される賃金が上がっている例もあるが、全体でみると賃金の伸びは景気回復に出遅れている。そして新型コロナの影響で歪んだ統計により、実際よりも過大な数字になっている場合が多い。

しかも、パンデミックの影響で企業がどの程度経営規模を縮小したり、自動化を進めたかなど、未知の要因によって将来の賃金パターンはさらに圧迫され得る。

米国では連邦準備理事会(FRB)幹部が、健全な賃金上昇は労働市場の回復ぶりを表す最も重要な兆候かもしれないと主張している。

しかしパンデミックにより、実際に何が起きているのかを判断するのが難しくなっている。平均時給はコロナ危機の初期に急上昇したが、これは単に多くの低賃金の労働者が職を失ったためだった。平均時給はその後、低賃金労働者が復職すると急低下し、賃金統計に歪みが残っていることを示している。

FRBのスタッフが編み出した別の賃金統計によると、中央値で見た3月時点の賃金の前年比伸び率は3.1%と2019年の3.5%を下回っている。スタッフら、労働市場の引き締まりを示す数字ではないとしている。

4月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨には、企業の一部が経営規模を縮小したり、「とりわけ自動化を通じて、コスト圧縮や生産性向上に注力したりしている」との指摘が含まれていた。

<消費者への価格転嫁は回避>

米国、オーストラリアと同様、英国でもワクチン接種が進んで景気が回復したことで労働力不足が顕在化している。IHSマークイットは5月調査で、英サービス業のコストが2008年7月以来の上昇率となった要因の1つは賃金上昇だと指摘した。

ただ英統計局は、第1・四半期の賃金伸び率が年率4.0%だったことについて、誤解を与えかねない数字だと注意を促した。米国同様に、過去1年間のパンデミック期に低賃金労働者が職を失った可能性が高いからだとしている。

統計局の推計では、こうした要因を除いた賃金の伸び率は2.5%程度で、長期平均に近い。

米国や英国に比べて回復の足取りが数カ月遅れているユーロ圏は、4月13日に欧州最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)と独金属労組(IGメタル)が合意した賃金協約に、賃金を巡る情勢が如実に表れている。同協約では来年1月からの賃上げ率が2.3%と低めで、労組の当初要求の4%に届かなかった。

コメルツ銀行はノートで、「賃金協約が好転するのは、仮にそうしたことがあったとしても、早くて2022年半ば以降だ」と予想。賃金上昇圧力は弱いとした4月の欧州中央銀行(ECB)理事会の判断に同意した。

一方、日本では今でもデフレの方がインフレよりも大きなリスクだと見られている。そのせいで家計や企業は大幅な物価上昇を信じてくれないと日銀は不満を抱く。

こうした受け止め方を反映して、賃金上昇圧力は弱いか、むしろ低下すらしている。賃金の前年比上昇率は3月がわずか0.2%。2019年は0.4%の低下、20年は1.2%の上昇だった。

先進国経済の回復が続くなら、労働力需要が高まり、賃金上昇圧力が上がる可能性を排除できない。しかしその場合、賃金上昇が以前と同じように物価上昇につながるかという疑問が持ち上がる。

アナリストの中には懐疑的な見方がある。中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟したことなどの影響で、企業が賃金上昇分を顧客に転嫁せず、ほかのところでコスト圧縮を図る環境が生まれたと言うのだ。

パインブリッジ・インベストメンツのマイク・ケリー氏によると、多くの企業は賃上げ分を消費者に転嫁するのが「自殺行為」となる市場で事業を展開している。「企業は賃上げ圧力を受けると、屈しはするが、自社のコスト構造の別の場所で吸収しようとする」という。

(Mark John記者 Swati Pandey記者 Howard Schneider記者)

*見出しの余分な文字を削除し再送します。

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