[シドニー 21日 ロイター] - ソブリン格付け「AAA」を獲得しているのは現在、オーストラリアを含めて世界でわずか10カ国に過ぎない。しかし「エリートクラブ」の維持コストが、離脱した場合のコストより高いというのはどうなのか。
これが今、ターンブル豪政権が直面しているジレンマだ。総選挙が7月2日に行われる可能性が濃厚な中、政治的にはインフラ支出よりも「AAA」維持のほうが重要となり、政権にとって重荷になっている。
ムーディーズは、オーストラリアが財政赤字を抑制して「AAA」を維持するには、来月発表の予算案に増税と歳出削減を盛り込む必要があると警告。新聞の1面で大々的に報じられ、豪国民の注目を集めた。
これは、全体の税負担を引き上げないことをかねてから国民に約束しているターンブル首相にとって、歓迎すべきアドバイスではない。
ターンブル首相率いる自由党は債務の削減を重視しており、労働党を「浪費家」だと非難することで政権の座についたという経緯がある。
ただ、オーストラリア国民の大半にとっては、ソブリン格付けが引き下げられても、痛くも痒くもないだろう。豪政府にとってすらも、借り入れコストへの影響はごく小さなものにとどまると見られている。
日興アセットマネジメントで債券を担当する、在シドニーのジェームズ・アレクサンダー氏は「AAAとAAにはほとんど違いはない」と話す。「いろいろな意味で政治問題になっている。自分が政権の座にあるときに、AAAを失うことは避けたいと、誰もが考える」と述べた。
世界的な金融危機を受けて多くの国が大幅に格下げされるなか、今や「AA」が「AAA」とほぼ同じ意味合いを持つようになっている。
格付けが低めでも、借り入れコストが急増するとは限らない。例えば、スペインの格付けは「BBBプラス」だが、欧州中央銀行(ECB)による国債買い入れの影響もあり、期間10年の借り入れに支払う金利は1.47%にとどまる。オーストラリアは2.57%だ。
ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)でリサーチを担当するピーター・ジョリー氏は、格付けが1段階引き下げられた場合の借り入れコストへの上乗せ幅はわずか数ベーシスポイント(bp)に過ぎないと試算。ニュージーランドはオーストラリアよりも格付けが2段階低いが、借り入れコストはあまり変わらないと指摘し「借り入れコストという点では、オーストラリアはさほど有利ではない」との見方を示した。
<インフラやインターネットの整備急務>
「AAA」を失ったとしても財政的な打撃は大きくはないかもしれないが、オーストラリア政府は格付けの維持にやっきになっており、機会費用が相当膨らんでいる。豪政府は、格付けを意識するあまり、インフラ整備に必要な借り入れをためらうようになっている。
オーストラリア経済は世界12位の規模だが、公共交通とインターネットの整備状況は大幅に遅れを取っている。公的統計によると、交通渋滞が昨年、企業や市民に与えた損失は160億豪ドルに上るという。
インターネットはインドなどの新興国より遅く、米調査によると、接続スピードの世界ランキングでオーストラリアは48位にとどまる。
オーストラリアは本来、借り入れを通じて必要な支出を賄う余地は十分にある。オーストラリアの一般政府債務(グロスベース)の対国内総生産(GDP)比率は37%程度であり、G7(主要7カ国)平均の117%よりずっと低い。健全財政にうるさいドイツですら68%だ。
実際、ファンドマネジャーの間では、オーストラリアが借り入れを増やすことを望む声が上がっている。運用会社キャップストリーム・キャピタル(シドニー)のマネジングディレクター、クマー・パールガート氏は「格下げは大した問題ではない。豪国債の供給は十分でなく、オーストラリアは利回りがプラスの数少ない国の1つだ」と話す。
パールガート氏は、オーストラリアは史上類を見ない低金利を活用し、インフラ支出を増やすべきとし「支出が目的の借り入れではなく、投資のための借金であるなら、赤字も悪いことではない」と語った。
Wayne Cole記者、Cecile Lefort記者 翻訳:吉川彩
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