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アングル:外国人労働者への支援強化、司令塔欠く対応に不安の声も
August 15, 2014 / 6:52 AM / 3 years ago

アングル:外国人労働者への支援強化、司令塔欠く対応に不安の声も

[東京 15日 ロイター] - アベノミクス成長戦略の柱である外国人労働者の受け入れ拡大が来年度から本格化する。課題のひとつは日本での生活環境の整備だが、日系ブラジル人などすでに移住している外国人労働者からは「場当たり的な対応が繰り返されるだけ」との厳しい反応も聞こえてくる。

 8月15日、アベノミクス成長戦略の柱である外国人労働者の受け入れ拡大が来年度から本格化する。写真は新成長戦略を発表する安倍首相。都内で6月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

日本の労働現場を支える新勢力として、外国人の存在をどう生かすか。雇用支援、日本語教育からコミュニティーづくりまで、総合的な政策対応の質が問われている。

<リーマンショックで政策が一変>

「政府はまた同じことをやっている」。群馬県大泉町に住む日系ブラジル人、高野祥子氏は、今年6月の成長戦略に外国人労働者の活用促進が盛り込まれたことを知っても、素直には喜べなかった。いずれ景気が悪くなれば、外国人労働者の働き口はなくなるに違いない。そんな思いを禁じ得なかったからだ。

高野氏には苦い記憶がある。1990年、バブル景気による人手不足を解消するため、政府は入国管理法を改定。その波に乗って、ピーク時には33万人の日系人が南米から日本に移住した。しかし、2009年3月、世界的不況で国内の労働需要が激減、状況は一変する。政府は「帰国支援事業」を打ち出し、日系人失業者に対し一人30万円の支援金を払って、2万1675人が日本を離れた。

「リーマンショックが起きて仕事がなくなった。(政府は)生活保護のブラジル人が増えるだろうと帰国支援金を出す一方で、支援金をもらった人には(日本に)帰ってきたらいけませんよ、とまで言った」。出稼ぎ労働者として日本にやって4半世紀余り。大泉町に住み続け、今は大泉日伯センターの代表取締役として日系ブラジル人を支援する高野氏は、国内事情を優先した政府の対応に不満を隠さない。

昨秋になって、政府は一転、帰国支援事業により帰国した日系人の再入国を認める発表をした。「昨今の経済・雇用情勢等を踏まえ」(法務省)という政府発表の文面には、人手不足を解消したいという政策的意図が透けて見える。「(外国人労働者は)労働力の供給調整弁として使われているだけ」と、NGOブラジル人労働者支援センターの加藤仁紀理事長は手厳しい。

受け入れ政策の一貫性だけでなく、生活環境への支援にもまだ改善すべき点が多い、というのが在日労働者や支援者の見方だ。今回の成長戦略(日本再興戦略)では、高い専門知識、技術、能力を持つ「高度人材」への積極的なアプローチがあるものの、建設分野などで働くそれ以外の労働者については「対策が一向に進んでいない」と、在日外国人に雇用コンサルティングを行っているACROSEEDのマネージャー、宮川真史氏は指摘する。

<各省庁が様々な支援> 

政府側も手をこまねいているわけではない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設需要の拡大などを見越して、政府は8月7日、来年度から建設現場の外国人労働者の賃金について、同じ技能を持つ日本人と同水準以上にするよう、受け入れ先企業に義務付けることを決めた。守れない企業に対しては受け入れ打ち切りなどの措置を取る。

また、1993年に始まった「外国人技能実習制度」について、共同通信によれば、政府は実態改善に向け、企業への立ち入り権限を持つ機関を創設する新法の制定を検討しているという。技能実習生について政府は、滞在期限を現行の3年から5年に延長し、受け入れ枠も拡大する方針だが、厚労省が2013年に行った調査では、受け入れ事業所の8割が労働基準法などに違反、いまだに実習生への賃金不払いや人権侵害などが横行しているとみられるためだ。   

日本にいる人も含め外国人労働者に必要な支援策は、雇用サポート、日本語教育、地域住民との交流や相互理解など広範囲に及ぶ。厚生労働省はハローワークなどを通じた就労促進、文部科学省は外国人児童への教育、国土交通省は住宅の入居支援、経産省は企業団体との意見交換など、それぞれの官公庁が様々な取り組みを行っている。

そうした政府内の動きを取りまとめる組織として、内閣官房内に関係10省庁間が参加する「外国人労働者問題関係省庁連絡会議」がある。しかし、連絡会議の役割は「事務的な調整」(内閣官房)にとどまっている。各省庁がバラバラの政策をとっており、それを統括する司令塔がないのが現状だ。

外国人労働者問題に詳しい慶應義塾大学の後藤純一教授は、「全体を見渡す組織が不在のまま個別の政策がとられると、内容の重複や食い違いなどさまざまな問題が生じる」と指摘。政府内部で、外国人労働者の基本政策に関するコンセンサスが形成されていない現状の改善を訴える。

政府や企業が外国人労働者の受け入れに意欲を見せても、雇用環境などに十分な魅力がなければ人材確保は難しい。例えば、インドネシア・フィリピン・ベトナムとの経済連携協定による外国人看護師・介護福祉士受入事業は、2009-2013年の5年間、政府の受け入れ枠の5000人に対して、1624人しか埋まっておらず、「来て欲しい人材に実際に来てもらえていない」(後藤教授)現状がある。

「5年で帰ることが決まっている人が、本気で働くだろうか」とACROSEEDの宮川氏は言う。「スキルアップできる国だからこそ、日本に残ろうと思う。もっとしっかりと、外国人が自分のためになりやすい受入体制、研修体制を作ることが必要だ」。

<大泉町を悩ます「生活保護」問題> 

ブラジルからの移住者が集まる大泉町。在日25年になる高野氏は、1991年に自ら設立した「日伯学園」でブラジル人への日本語教育を進めている。ただ、行政による外国人への雇用・日本語教育サポートは不十分で、高野氏は最低限のことは行政が支援すべきだと訴える。これに対し、大泉町側は「役場として(状況を)認識」しているものの、「今のところ行政が主導して日本語教育を行っていく流れにはなっていない」(同町国際協働課)という。

同町の大きな悩みは、生活保護受給者の34%を外国人が占める(今年7月現在)という実態だ。この中には、年金をもらう資格がなく、貯蓄も十分にないため、本国に帰れずに生活保護に頼る高齢の外国人労働者も少なくない。外国人受け入れ拡大の先行きには、こうした問題も立ちはだかる。

労働力人口の減少が日本経済への大きな脅威として浮上する中、外国人労働者の受け入れ拡大は長期的な対応が不可欠だ。しかし、「今はこれから受け入れるという議論ばかりが先行している。既にいる外国人に人道的見地から国際的にも恥じないような対策を講じるのは絶対に必要」と後藤教授は指摘している。

寺井綾乃 編集:北松克朗

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