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コラム

訂正-コラム:アントのIPO、ばら色の事業モデルに潜む問題

[ロンドン 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国電子商取引大手アリババ・グループBABA.N9988.HK傘下の金融会社アント・グループは、投資家にばらラ色のレンズを通して自社の姿を見せている。アリババの決済会社としてスタートした同社は、創業からわずか16年で消費者を融資、ファンド、保険と結びつける巨大デジタル仲介企業へと成長した。信用の置けない融資、不明朗な取引、事細かな規制が金融機関を圧迫する中国において、同社はそのビジネスモデルで重圧をかわしている。

9月28日、中国電子商取引大手アリババ・グループ傘下の金融会社アント・グループは、投資家にばらラ色のレンズを通して自社の姿を見せている。写真は杭州市のアント・グループの事務所で2018年1月撮影(2020年 ロイター/Shu Zhang)

同社は、2000億ドル超の企業価値評価を前提に新規株式公開(IPO)を計画しているが、そうした評価の実現は、公開市場の投資家が輝かしい企業像を共有してくれることにかかっている。

中国の銀行システムは近年、あまり素晴らしい結果を生み出していない。減速する同国の景気は、大規模な借金に支えられている。国際決済銀行(BIS)によると、民間セクターの負債は現在、国内総生産(GDP)の216%相当。この結果、不良債権は積み上がり、負債を返済できないゾンビ企業が増えている。

しかし香港と上海でのIPOを前に、アントはもっと明るい物語を投資家に伝えている。同社は中国のデジタル金融を築き上げ、日常生活に欠かせない企業となった。6月までの1年間で同社のアプリ「アリペイ」が処理した取引は実に118兆元(17兆ドル[訂正])と、同国のオンライン決済の半分以上を占める。

アリペイは金融サービスの「ショーウインドー」でもある。短期の消費者向け融資から零細企業向け融資、投資ファンド、保険商品まで、何でも手に入る。7億人を超える月間ユーザーに対し、リテール銀行としての機能をほとんど提供している上、国が管理する銀行より処理が素早く円滑だ。

しかし重要なのは、アントが銀行ではないという点だ。預金を受け付けておらず、バランスシート上に残っているローンはわずか2%。残りは他の金融機関に移転するか、証券化している。投資商品は関連会社が扱っており、保険商品も大半は第3者が提供するものだ。

こうした仕組みにより、アントは通常の銀行よりもバランスシート対比ではるかに大規模な与信が可能になっている。同社が6月末時点で提供していた消費者向け融資は1兆7000億元相当。これは中国最大手行、中国工商銀行(ICBC)601398.SS1398.HKが提供している同融資の約4分の1に相当する。しかしICBCの資本はアントの10倍を超え、バランスシートは33兆元と約100倍だ。

アントは他社にローンを移転し、「テクノロジー・サービス手数料」を課している。同社は膨大なデータが与信審査の精度を上げていると誇る。今のところ、不良債権比率は低い。コロナ禍の影響にもかかわらず、消費者融資残高のうち返済が30日以上遅延している割合は3%弱だ。厳しい景気後退が訪れれば、融資を下請けした銀行は損失に見舞われるだろう。それでもアント自体は難を逃れる。与信規模は減少するだろうが。

銀行との重要な違いはもうひとつある。主要な銀行規制当局がアントの事業を直接監督していない上、アントの成長は資本規制の制約に縛られないということだ。

当局も手をこまねいているわけではなく、中国人民銀行(中央銀行)は今月、一部の組織機関を金融持ち株会社に指定して厳しい管理の対象とする新規則を打ち出した。しかし事情に詳しい人々によると、この規則が影響するのはアントの総収入の2―3%にすぎない。しかも同社は子会社を金融持ち株会社に指定したため、親会社はほとんど無傷だ。

アントのビジネスモデルは非常に収益性が高い。1―6月の純利益は219億元で、株主資本利益率は年率約22%に達した。Breakingviewsの計算によると、アントの企業価値は2750億ドルと、ICBCの2460億ドルをも上回る。

しかし、記憶力の良い投資家は警戒を解かないかもしれない。2011年に創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が株主のソフトバンクやヤフーに知らせないまま、アリペイをアリババから切り離した様子を思い出すだろう。マー氏は外資保有規制のため必要な措置だったと主張したが、これにより同氏はアリペイの支配権を維持することができている。

企業統治の問題を別にしても、アントには疑問が山積している。通常の銀行のような取り付け騒ぎは起こりにくいが、技術上の障害が起こればユーザーの信頼と中国経済に深刻な影響が及びかねない。中国の金融構造において、これほどまで重要性を増している企業を、規制当局が永遠に管轄外に置いておくと考えるのは無理があるだろう。とはいえアントのIPOで成功の鍵を握るのは、新規の投資家がばら色のレンズを手放さずにいてくれることだ。

*英文の訂正により4段落目の「118兆元(170億ドル)」を「118兆元(17兆ドル)」に訂正しました。

●背景となるニュース

*ブルームバーグが21日に報じたところでは、アント・グループはIPOで少なくとも350億ドルの調達を目指している。実現すれば世界最大のIPOとなりそうだ。

*この目標は2500億ドル前後の企業価値評価に基づいている。

*これまでの世界最大のIPOは、サウジアラムコが2019年に実施したもので、調達額は290億ドルだった。

*アントは18日、上海証券取引所から国内でのIPOの承認を得た。香港市場と上海の「科創板(スター・マーケット)」での同時上場を計画している。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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