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焦点:アップルのプライバシー保護方針が生む社内不協和音
2016年3月26日 / 22:02 / 2年前

焦点:アップルのプライバシー保護方針が生む社内不協和音

[3月21日 ロイター] - 米政府とiPhone(アイフォーン)ロック解除問題をめぐり対立を続けるアップル(AAPL.O)は、プライバシー保護をめぐる社内の不協和音も抱えており、長期的な製品戦略に課題が生じる可能性がある。

 3月21日、米政府とiPhoneロック解除問題をめぐり対立を続けるアップルは、プライバシー保護をめぐる社内の不協和音も抱えており、長期的な製品戦略に課題が生じる可能性がある。写真は3Dプリントされたアップルのロゴ。サラエボで22日撮影(2016年 ロイター/Dado Ruvic/Illustration)

米グーグル(GOOGL.O)やアマゾン・ドット・コム(AMZN.O)、フェイスブック(FB.O)とは異なり、アップルはターゲット広告や個々のユーザーに合わせた提案を配信するために顧客データを利用することをひどく嫌っている。

実際、プライバシー事前審査の対象となるさまざまな製品に関わってきた元従業員4人に話を聞いたところ、アップルの顧客データを収集するには、同社の「プライバシーの大家」3人とトップ幹部1人で構成される委員会による正式な承認が必要だという。

承認は決して簡単には与えられない。元従業員らによれば、音声コマンド機能であるSiriや、最近削除された広告ネットワークiAdといった製品は、プライバシー上の懸念による制限が課されていたという。

多くの従業員はこうしたアップルの姿勢に誇りを持っており、同社のティム・クック最高経営責任者(CEO)もこれを当然視している。

「顧客は、アップルをはじめとするテクノロジー企業が、自分たちの個人情報を保護するために全力を尽くすものと期待している」とクックCEOは、ロック解除要請に対する反対理由を説明する書簡の中で、述べている。米政府はカリフォルニア州サンバーナーディーノで昨年12月発生した乱射事件の実行犯が使っていたiPhone端末のロック解除を同社に要求している。

こうしたアップルの方針にはビジネス上の根拠もある。プライバシーのためにある程度の利益を犠牲にするという意志を示すことによって、アップルは「顧客を守る企業」としてのイメージアップが図れる。

たとえばフェイスブックやアマゾンに比べて、アップルはそうした姿勢を取りやすい立場にある。アップルの主要事業は従来、広告や電子商取引ではなく、デバイスを販売することだった。

だが、iPhone販売が停滞している現在、アップルの幹部は、成長の原動力として、iCloudやアップル・ミュージックといったサービスに注力しており、個人データ利用を限定するという同社方針が試されることになりかねない。

今回の記事について、アップルからのコメントは得られなかった。

<プライバシーの「大家」>

アップル社内で「プライバシーの大家」として知られている3人の専門家は、社内で尊敬と同時に恐怖の的となっている。

ジェーン・ホーバス氏は、以前はグーグルで世界的プライバシー問題を担当する社内弁護士を務めた人物だ。一緒に仕事をしたことのある元従業員によれば、アップルでは法務・政策オタクとして知られ、アップル取締役会の見解を誘導し、規制上の要件を引き合いに出すことが多いという。

彼女は、iPhoneがユーザーの現在地情報を収集していることが明らかになった2011年の「ロケーションゲート」事件以来、プライバシー保護の実践を制度化するために採用された。

ホーバス氏とともに働いているのが、ガイ・「バド」・トリブル氏だ。オリジナルのマッキントッシュ部門のメンバーで、故スティーブ・ジョブズとともに働いた同氏は、ある元従業員の言葉を借りれば「モーゼとともにシナイ山に登った」限られた人物の1人として社内で尊敬されているという。

トリブル氏はソフトウェア技術担当の副社長として広汎な責任を負っているが、かなりの時間をプライバシー関連に割いており、技術者たちと緊密に協力していることが多いという。会議では激しいやり取りが見られることもあるが、同氏ともに働いた人々によれば、高いスキルと気さくな人柄ゆえに人気者だという。

3人目の「プライバシーの大家」は、エリック・ノイエンシュワンダーという新進気鋭の人物だ。技術者たちの仕事について、プライバシー規則に従っているか細かくチェックし、ソースコードを1行ずつ調べることさえあるという。

アップルの製品マネジャーたちは「プライバシー・バイ・デザイン」(計画的なプライバシー保護)と呼ばれるシリコンバレーで評価の高いプライバシー哲学に従って、開発初期からプライバシー技術者や法務担当者との協力していると、アップルの元従業員は指摘。複雑な事項はプライバシー担当チームから上級副社長に回され、特に判断が難しい問題はクックCEOの判断を仰ぐ場合もある。

大原則として、顧客データは管理サーバー上のクラウドではなく、各々の端末上に置く。各種データをそれぞれ切り離すことで、それらをつなぎ合わせて顧客のプロファイルを構成できないようにしている。

こうしたプライバシー指針は、「将来的に何かの役に立つかもしれないから、すべてのデータを収集しておく」技術者の本能とは対立すると、スタンフォード大学のインターネット・社会センターのディレクターで、プライバシー問題が専門のアルバート・ギダリ氏は指摘する。

アップルではデータの新たな利用に関する議論が少なくとも1カ月かかることが普通で、1年以上も引きずることもあったと、元従業員は語る。

たいていのテクノロジー企業は現在、プライバシー検証プロセスを用意している。フェイスブック、グーグル、ツイッター、スナップチャットは、そうしたプロセスを義務付ける連邦取引委員会の同意審決を受け入れている。

フェイスブックとグーグルの広報担当者によれば、両社では、プライバシー担当チームが製品開発に早期から頻繁に参加しているという。アマゾンの広報担当者からはコメントが得られなかった。

プライバシー専門家のあいだでは、アップルは同社のビジネスモデルゆえに、プライバシー保護の実践が他社よりも厳しいという点で見解が一致している。

カリフォルニア大学バークレー校でプライバシー問題を研究しているデアドル・マリガン准教授は「データが集中する企業の一部では、非常に充実したプライバシー保護が図られている」と語る。一方で、「データから利益を生み出そうと試みない企業と比べると、駆け引きや意見の不一致は、はるかに多い」という。

<広告ビジネスの足かせに>

アップルのプライバシー保護姿勢による最大の犠牲者は、2010年に導入された「iAd」サービスかもしれない。iPhone用アプリ内部への広告配信を狙ったサービスで、収益はアップルとアプリ開発者のあいだで折半されることになっていた。

広告ビジネスへの参入は遅れたが、アップルには魅力的な資産があった。業界でも最も充実した消費者データの宝庫、iTunesである。

だが、このデータベースは利用制限が厳しかった。iAd事業に携わっていた元従業員によれば、アップル社内でiTunesのデータを利用して広告ターゲットを絞り込もうとする場合、プライバシー担当チームにその必要性を主張しなければならなかった。

iAd担当チームは、広告を目にする顧客に対する広告出稿企業の可視性を高めようと懸命に努力したという。彼らが目指していたのは、匿名の識別子を作り、スポンサー企業が広告を閲覧したユーザーを識別できるようにすることだった。

だが、同じ趣旨のプレゼンを何度となく繰り返したにもかかわらず、幹部が認めたのは、ある広告を何人のユーザーが目にしたかをカウントすることだけだった。

「骨抜きもいいところで、何の役にも立ちはしなかった」と元従業員の1人は語る。

その結果、iAdは広告スポンサー企業を集めるのに苦戦した。彼らが高い料金を払うのは、顧客の詳細なデータを得るためだからだ。1月、アップルはiAdアプリの広告ネットワークを廃止すると発表した。

「iAd担当チームからはいつも、もっとデータを利用できれば、出稿企業のためにキャンペーンを最適化できるのにと、聞かされていたが、それは難しいこともあった」と、モバイル端末向けマーケティングプラットホームとして人気が高いTUNE社のピーター・ハミルトンCEOは語る。同社はiAdでのキャンペーンに関して広告出稿企業と協力していた。

<文化の衝突>

これ以外のケースでも、プライバシー保護方針によって、アップルは難しい回避策を強いられている。

2010年にアップルが買収したSiri社は、翌年iPhoneに実装された音声コントロールによるデジタルアシスタント機能の基礎となっている。

だが、一部の会議に参加していた元従業員によれば、組み込みの過程で、プライバシー担当チームのリーダーたちは、ユーザーがSiriに何を言ったかという音声データは、他の個人識別情報と別に格納すべきであると主張したという。

「最終段階で大手術ということになった」とこの元従業員は言う。

2014年版MAC用ソフトに搭載された検索機能「スポットライト」のアップデートに際しては、技術者が欲しがるデータを確保するため、プライバシー上の懸念を起こさずにユーザーの検索ログをアップルのサーバに保存する方法を編み出すべく、プライバシー担当チームと技術者のチームが緊密に協力しなければならなかった。

このプロジェクトに関わっていた元従業員は、「データ側の人間としては『馬鹿げている』というのが自然な反応だった」と言う。

とはいえ、こうした体験からも、アップルがいかに消費者データの保護に注力しているかを裏付けていると、この元従業員は語る。

アップルはサービス事業への注力を進めるなかで、データ利用とプライバシー保護の適切なバランスを見出さなければならないと、市場調査会社テクナリシス・リサーチのアナリスト、ボブ・オドネル氏は指摘する。1月に発表されたアップルの収益報告では、最新の四半期のサービス部門の収益は55億ドルであり、前年同期比15%増となった。

「どれだけ個人に合わせてカスタマイズできるかでサービス価値は決まる」とオドネル氏は言う。「そのためには、個人の嗜好を知るしか方法はない」

(Julia Love記者、翻訳:エァクレーレン)

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