[東京 16日 ロイター] - 新型スマートフォン「iPhone(アイフォーン)7」を投入し、日本でさらに販売拡大を狙う米アップルAAPL.Oに対し、規制当局が厳しい視線を向けている。総務省や公正取引委員会は携帯電話大手3社に取引慣行の適正化を求めているが、その背後にいるアップルの影響力も問題視している。公取委は8月に指針を発表、実態の改善が進まなければ、独占禁止法に基づく立件に踏み切る可能性も否定できない。
<箸の上げ下ろしまで>
規制当局が問題視しているiPhoneの販売方法については、実は携帯電話会社にも不満の声がくすぶっている。
大手携帯電話会社の幹部によると、アップルが示す「レギュレーション(取り決め)」では、iPhoneを店舗のもっとも目立つ位置に置くことや広告・ウェブ展開の方法などが細かく定められており、「箸の上げ下ろしまで指図してくる」状態にある。
ある携帯電話会社はアップルから課せられている販売ノルマを達成できなかった場合、一定額を支払わなければならない契約になっているうえ、iPhoneを他社メーカーの端末よりも安い価格で売らなければならないという条件も飲まされているという。
仕入れ価格が高いiPhoneを安く売るには、販売奨励金という名目で補てんする必要がある。この携帯電話会社はシェア拡大のために条件を受け入れているが、その結果、利益率は低くなり、販売奨励金の原資となる通信料が高止まりする一因にもなっている。
「下取りした端末は国内で転売してはいけないとアップルから言われている」──。先の携帯電話会社幹部はこうも打ち明けた。中古端末の流通が広がれば、新型モデルの売れ行きにも影響するという懸念が背景にあるようだ。
<目線の先にアップル>
公取委は8月、「携帯電話市場における競争政策上の課題について」と題した指針を発表。この中で、中古端末の国内流通を妨げることや、3社が端末の割賦契約の総額を機種ごとに固定する行為を「独占禁止法上問題となり得る行為」として、早急な見直しを求めている。
特に中古端末については「特定の端末メーカーと大手キャリアとの間で、国内流通させない契約が結ばれている」(幹部)と強い懸念を表明。この契約は拘束条件付取引や取引妨害等に当たる可能性があるとして「立件への距離感が近い行為だ」(同)と警告している。
総務省幹部は「携帯電話会社が3社に集約されて、競争原理が働きにくくなっている。その3社に端末を供給しているアップルが契約で3社を縛っているので、結果的に通信料が高止まりしている」と問題点を指摘する。
公取委は表向きは「報告書は特定のメーカーや特定の通信キャリアを狙い撃ちにしているわけではない」とコメントしているが、その目線の先にアップルがいるのは明らかだ。
<悪影響あれば立件も>
公取委の指摘を受け、ドコモは問題とされている割賦契約について「よりフレキシブルに割賦の額を変更できるよう検討している」(広報)ことを明らかにした。
一方、ソフトバンクは「現時点で、当社の販売手法・価格設定等に、競争法上の問題が生じているとの認識はないが、引き続き、総務省、公取委が示した方向性等に則り公正競争の促進のため取り組んでいく」(広報)とコメントしている。
KDDIも「引き続き適正な事業運営に努めていく」(広報)としており、3社とも一応前向きに取り組む姿勢を示しているが、公取委幹部は「市場への悪影響が認定されれば立件もあり得る」と警告する。
取引慣行の改善にはアップルとの契約を見直す必要があるが、3社は厳しいとされる契約について表立った批判はしておらず、その内容についてもコメントを控えている。ロイターはアップルに対してもコメントを求めたが、返答はきていない。
<アプリ流通でも競争阻害>
日本のスマホ市場で50%超のシェアを持つアップルに対しては、経済産業省も市場支配力に懸念を表明している。15日に公表した報告書では、スマホアプリの流通について「競争相手を排除する市場支配力を持ちえる」として米グーグルGOOGL.Oとともに名指しするなど、当局によるアップル包囲網は狭まりつつある。
経産省は「取引実態が独占禁止法等の法令違反にあたるかは、詳細・精緻な検討が必要であり、一概に結論付けることはできない」とする一方で、その市場支配力が競争環境に悪影響を与えかねないことから「問題が生じつつある段階でより機動的に対応するための制度」の必要性も訴えた。
アップル「一強」のもとで拡大してきた日本の携帯電話市場。その是正に向けて、規制当局がどのような強い措置を講じるのか。アップルや携帯電話会社にとって、改善への取り組みに残された時間はそれほど長くない。
志田義寧 編集:北松克朗
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