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コラム:IS打倒でも米国が中東で「負ける」理由
2017年11月4日 / 23:39 / 19日後

コラム:IS打倒でも米国が中東で「負ける」理由

[27日 ロイター] - ティラーソン米国務長官が中東を歴訪した目的はただ2つ。イランに対抗する地域的枠組みにイラクを取り込むこと、そしてカタールに対する禁輸措置を終了するようサウジアラビアを説得することだった。

 10月27日、米国はこの3年間、IS打倒を最優先する中東政策をとってきたが、問題は、ISをほぼ打倒した今の時点で、米国の中東政策が何によって決まるのかがほとんど明らかになっていないという点だ。写真はティラーソン米国務長官。カタールで24日代表撮影(2017年 ロイター)

だが、どちらも不首尾に終わった。

過激派組織「イスラム国(IS)」が事実上の首都としていたシリアのラッカが陥落し、ようやく戦塵は収まりつつある。米国政府とその主導による有志連合が中東地域にとどまらず広範囲で収めた大きな成功だ。

実際の戦闘の大半は現地勢力によって担われたとはいえ、米国による支援がなければ、依然としてISがこの地域に広大な占領地を維持していたのはほぼ確実だ。ISが2014年に劇的な勝利を重ねたことで、特にイラク、サウジアラビア両国政府はひどく混乱した。だが、ISが窮地に追い詰められた今、どちらの政府も米国にあれこれ指図されることを快く思っていない。

トランプ政権、オバマ政権のどちらも認めたくないかもしれないが、実はこの3年間、両政権とも中東政策に関しては似たようなアプローチをとっている。「IS最優先」と呼ばれることもあるが、中東地域のその他すべての利害よりも、IS打倒を優先してきたのである。これは理にかなったアプローチで、結果的に大きな成功を収めた。

問題は、ISをほぼ打倒した今の時点で、米国の中東政策が何によって決まるのかがほとんど明らかになっていないという点だ。核となる行動規範がないため、ただでさえ矛盾を抱えるアプローチが完全に崩壊してしまうリスクが顕在化している。

いくつかの面で、そのリスクはすでに現実のものとなっている。

米国政府と、シーア派主導でイランと同盟関係にあるイラク政府、またイラク領内のさまざまなクルド人政治組織との関係はこれまでも常にギクシャクしていたが、イスラム国の脅威が減るなかで、急速に悪化しつつある。9月にはクルド地域の独立を問う住民投票が行われたが、イラク政府はその直後、クルド地域の都市キルクーク周辺の石油資源が豊富な地域に進出した。クルド人勢力とイラク政府軍のあいだで衝突も相次いだ。

中東のそれ以外の地域では、スンニ派・シーア派間の歴史的なライバル関係が複雑化の様相を強めている。

シリアでは、アサド政権を救おうというイラン、ロシアの企図が実質的に成功した。米国政府はこれを、安定性の確保とISに対する反撃のための代償として容認しているように見える。その一方で、サウジアラビアに対しては、イエメンにおいてイラン政府と同盟関係にあるフーシ派の掃討を進めることを事実上黙認している。

ISの弱体化に伴い、トランプ政権は現在、イランへの対抗を米中東政策全般における最優先課題とすることを明らかに望んでいる。

これまでのところ、それを最も明瞭に示しているのは、トランプ大統領が10月13日に前政権が交渉したイラン核合意を承認しないと発表したことである。その後まもなく、米国がテロ支援組織に指定しているイラン革命防衛隊に対する新たな制裁が発表された。

だが対イランに関しては、米国政府がISに対して結成したような広範囲かつ一枚岩の有志連合を生み出す現実的なチャンスはほとんどない。イラン政府に対するアプローチとして何が最善なのか、米国の同盟諸国のあいだには依然として深い溝があり、欧州諸国は、ロシアも中国も署名している核合意を破棄することについて、気が進まない姿勢を明らかにしている。

湾岸諸国は、統一的な連合とはとうてい言いがたい状態にある。サウジアラビア、アラブ首長国連邦が支持する対カタール禁輸措置は継続されており、これら3カ国すべてに重要な軍事基地を持つ米国は居心地の悪い立場に置かれている。米国政府がこの状況を修復する能力はきわめて限定されているように思われる。

 10月27日、米国はこの3年間、IS打倒を最優先する中東政策をとってきたが、問題は、ISをほぼ打倒した今の時点で、米国の中東政策が何によって決まるのかがほとんど明らかになっていないという点だ。写真はティラーソン米国務長官。サウジアラビアの首都リヤドで22日代表撮影(2017年 ロイター)

カタールの近隣諸国は、同国がムスリム同胞団などの組織を支援していることに怒っており、この対立は米国政府が仲裁できる領域を超えてしまっている可能性がある。

しかしそれはともかく、ティラーソン氏が、中東歴訪のもう1つの目的であるイラク政府の立場を反イランに転向させるのに成功する可能性は、さらに低かった。

IS打倒に関して、イラク政府は、米国政府やクルド人勢力に頼るのと少なくとも同じ程度に、イランの支援を受けたシーア派民兵に依存していた。ティラーソン氏がシーア派民兵に対し、イランに帰国するよう求めたことは、ひどく不合理な要求と受け止められた可能性がある。何しろ、その構成員の多くはシーア派イラク国民だからである。

ティラーソン氏の訪問は、オバマ政権以来高まっていた言説をさらに補強してしまうリスクがある。つまり、従来の友好国・敵対国双方に対して同じように、米国の支配力・影響力がいっそう低下している、というものだ。

しかもこれら諸国では、今やプーチン大統領率いるロシアに接近するという選択肢さえあるという感覚が強まっている。遠く19世紀末以来、米国の信頼できる同盟国であったトルコは、エルドアン大統領のもとで、ますます反米的な意識を強めている。エジプトの軍事政権も、引き続き米国から大量の支援を受けているとはいえ、独自性を主張することにますます熱心になっている。

イスラエルとの関係においては、オバマ政権時代よりトランプ政権の方がわずかに改善されているかもしれないが、それでもここ数十年に比べればかなり疎遠になっている。イスラエル・パレスチナ間の紛争に関する「2国家共存」案について、トランプ氏は曖昧なシグナルを送っている。

米国大使館をテルアビブからエルサレムに移転させることを提案する一方で、今年前半には、イスラエルが提供したISに関する機密情報をロシア外相に漏らしたことが報道され、イスラエル側を動揺させている。イスラエルはイランの影響力拡大とトランプ政権の予測しにくさに懸念を抱いており、特に湾岸諸国との独自の地域外交努力を強めていくことになろう。

ISに対する有志連合の取り組みがほぼ成功を収めるのと同時進行で、このような状況が生じているのは逆説的である。その有志連合は、米国に深く依存していたのだし、このような有志連合をまさにこのような形でまとめ上げることは、恐らく他のどの国にもできなかっただろう。

米国政府は、かつてのイラクに対する単独主義的な武力介入とは対照的に、対ISにおいては域内諸勢力と協力し、彼らを介在させることに大きな努力を注ぎ、それが顕著な効果を発揮することになったのである。

米国の軍事的な支援は今後も続くだろう。ISは完全に消滅したわけではなく、攻撃を続けるだろう。リビアやアフガニスタンの一部におけるように、新たに安全な潜伏地を確保するかもしれない。アルカイダに刺激された武装勢力に対するより広範囲の戦いは確実に続くだろうし、多くの場合は、米国による軍事的な支援・協調を伴うことだろう。

だが、10年以上にわたる戦争が失敗に終わったとみられる今、中東再編という試みに向けた米国の熱意は冷めていくかもしれない。そして、仮に米国の熱意が維持されるとしても、中東の諸勢力の側で、米国の声に耳を傾けようという気持ちがうせてしまう可能性はある。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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