April 17, 2019 / 2:47 AM / 5 days ago

コラム:中国が仕掛ける南シナ海「ハイブリッド戦争」

[ロンドン 12日 ロイター] - 昨年12月初め、20隻以上の漁船とそれを護衛する軍艦からなる中国の船団が、フィリピンが実効支配する南シナ海のティトゥ島(タガログ語名:パグアサ島)に押し寄せた。

 4月12日、コラムニストのPeter Appsは、中国が公船とともに大量の漁船を南シナ海の係争海域に派遣する「非伝統的」な戦略を強めていると指摘。写真はスカボロー礁付近で活動する中国漁船と、海域をパトロールする中国海警局の巡視艇。2017年4月5日、南シナ海上で撮影(2019年  ロイター/Erik De Castro/File Photo)

月末までに船の数は約100隻に増え、当初ほとんど表面化していなかった対立は、武力衝突を引き起こしかねない事態に発展した。

中国人民解放軍は今年10月、海軍創設70周年を迎える。祝賀行事の主役は空母2隻をはじめとした大型で目立つ艦艇になるだろう。近海を支配しようとする中国の戦略の柱がハイテク装備による示威行動であるのは明らかで、過去半年間、特に台湾海峡周辺で艦艇と戦闘機の動きを活発化させている。

だが、今回のフィリピンとの対立が明らかにしたのは、海軍による伝統的な姿勢を、非伝統的な要素が補完しているという現実だ。数千とは言わないまでも、数百隻もの小さな漁船などで構成された「海の民兵」のことである。通常は武装をしていないが、海軍の艦艇や海警局(沿岸警備隊)の巡視艇に護衛される例も増え、月を追うごとに強引さが目立ち始めた。

<F35B搭載の「ワスプ」を派遣>

トランプ米大統領の仕掛ける貿易戦争が米中関係を複雑にする中、米国はこうした対立に明らかに巻き込まれつつある。

米海軍は4月初め、フィリピン軍との合同軍事演習に強襲揚陸艦「ワスプ」を派遣した。最新鋭のステルス戦闘機「F35B」20機を運用し、海兵隊の遠征部隊が同乗可能な事実上の小型空母だ。

ポンペオ米国務長官は3月1日、フィリピンの軍隊や民間船舶が中国から攻撃を受けた場合、1951年の相互防衛条約に基づき、米軍は軍事的な対応に出ると警告した。

現在のフィリピンとの対立から判断すれば、近隣諸国に対する中国の姿勢は、新たな、そして潜在的に不安定なステージに達しつつあるようだ。これまで中国は、領有権を巡って議論の余地がある島々の一部を、ときに大規模に埋め立てながら拠点化してきた。それが伝統的な軍事力、そして漁船団のような「民間」船舶の両方を使い、他国が実効支配する海域でも強引に権利を主張するようになってきた。

一方で、今回の対立は政治力学の複雑さも浮き彫りにした。フィリピンのドゥテルテ大統領は、南シナ海の周辺諸国の中で親中派のリーダーの1人と見られてきた。中国は米国に比べ、数千人の死者を出した同政権の「麻薬撲滅戦争」に対する批判がうるさくない。ドゥテルテ政権誕生以降、戦略的に重要な港湾インフラの買収も含め、中国からの投資は急増している。

ドゥテルテ氏は国内の強硬派をなだめるか、疎遠になる中国との関係をさらに悪化させるか、厄介な二択の間で揺れ動いている。国内の愛国主義的な勢力、さらに安全保障政策に携わる関係者の多くは、もっと強い態度で臨むよう、ドゥテルテ氏に絶えず働きかけている。

<中国とフィリピン、本気度は不明>

現在の対立は、フィリピン側が島の軍事拠点化を強化したことで始まった。とはいえ、中国が進める南シナ海で進める巨大な人工島の建設に比べれば、スケールははるかに小さい。世界の漁船の半数以上を有する中国が、大量の船を送ってこの海域を埋め尽くすのはたやすい。

ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が公開した衛星画像を見ると、漁船団には1隻以上の中国軍艦、または海警局の巡視艇がほぼ必ず付き添い、係争中のどの島からも一定の距離を維持している。

そのメッセージは明白と思われる。インドネシアやベトナムのように、フィリピンが係争中の海域で中国漁船に対する警告射撃や拿捕(だほ)を試みれば、ただちに武力衝突が生じるリスクを冒すことになる、というものだ。

フィリピンも中国も、実際にどこまで踏み込む意志があるかは不明だ。ドゥテルテ氏は中国との戦争は「自殺行為」だと述べているが、中国が島々を「放っておかなければ」、対抗するためフィリピン軍を派遣するとも警告している。

だが、今回対立が激化している海域のみならず、2012年に争いが起きたスカボロー礁も含め、中国が大規模な漁船団を頻繁かつ継続的に展開する態勢を維持する可能性は高い。それだけでも地域の緊張をいっそう高めることになるだろう。

米国防総省は「ワスプ」の艦隊がどこにいるのか、正確な位置と行動を明らかにしてないが、フィリピンのメディアは、スカボロー礁の近くで同艦を目撃したという地元漁師の話を伝えている。そこも中国の漁船団と「海の民兵」が定期的に活動している場所として知られている。

事実であれば、この海域で主張を強める中国に対し米海軍が取った行動の中で、最も積極的なものと言える。

<ロシアも絡み複雑化>

さらに状況を複雑にしているのは、ロシア海軍の小規模な艦隊が現在、南シナ海で演習を行っていることだ。これは中ロ両国が協力を強めている兆候である。

さらにロシア海軍は、おそらく事前に取り決めていたとみられるフィリピンへの寄港も実施した。米国との同盟関係を巡ってドゥテルテ政権内で対立があることや、フィリピンがリスクを分散させておくことにどれだけ熱心かを示している。

台頭する中国に対抗するため、オバマ前政権がアジアに「軸足」を移すと発表してからおよそ10年。米中両国とも、互いを敵とする従来型の全面戦争を想定し、準備のためにかなりのエネルギーを注いできた。それは米中だけでなく、世界経済に壊滅的な影響を及ぼす。だから今まで起きてこなかった。

中国は直接的な軍事手段を使わず近隣諸国に圧力をかけることで、戦火を開くことなくこの地域を支配することを望んでいるようだ。

しかし、こうした形の対立は、この先数十年続く可能性がある。他国が抵抗を強めていく中で、年を追うごとに危機が高まる可能性がある。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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