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コラム

コラム:中東危機はどこに向かう、全面衝突回避も遠い雪解け

[ロンドン 8日 ロイター] - イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官は自分の暗殺に対して、イラクの米軍駐留基地への20発程度のミサイル発射が「見合った対応」だとイラン指導部の自分の僚友らが見なしたと知ったら、さぞがっかりするだろう。

 1月8日、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官は自分の暗殺に対して、イラクの米軍駐留基地への20発程度のミサイル発射が「見合った対応」だとイラン指導部の自分の僚友らが見なしたと知ったら、さぞがっかりするだろう。写真はイランのテヘランで、革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の葬儀に参列する人々。6日撮影(2020年 ロイター/Nazanin Tabatabaee/WANA)

むろんイランの軍事的報復が本当に完了したかどうかは、まだよく分からない。いずれにせよ、イランのザリフ外相は攻撃直後に「均衡の取れた対抗措置を完了した」と、いつになく明快な調子でツイッターに投稿した。

もしそうであったとしても、イランの文化遺産さえも対象に含む大規模な報復攻撃をツイッターでちらつかせていたトランプ米大統領が、その脅しを完遂するのかは別の問題だ。今回の攻撃で米側に死者はなく、トランプ氏が「万事うまくいっている」と投稿もしていることは、そうした事態にはならないことを示唆する。

さらなる直接的な軍事行動が回避できれば、米政権や中東全域の多くの人間にはひと安心だろうし、司令官殺害の判断が正しかった証しと受け止める者もいるだろう。司令官が殺害されていなければ、直接的な軍事行動を支持する声はずっと続き、米国はイラクで危険な悪循環にはまって、さらに多くの死者が出ていたかもしれない。

率直に言って、本当にそうなのかどうかは到底分からない。差し迫った危機が今、緩和し始めているとはいえ、米政権とイラン指導部はいずれも今後数週間、難しい判断に直面する。イランはウラン濃縮再開を言明しており、そうなれば中東は容易に危険な対立に突き落とされかねない。一方で米国は、今や米軍撤退を公に要求しているイラクになんとか対処しなければならない。

たぶんやむを得ないことだが、実際のところ事態を進展させるのは米国、イラン、イラクのそれぞれの国内政治だ。トランプ氏にしてみれば、司令官殺害が大統領選を控える自分にいかなる不利益になることもないように見えるだろう。しかし、イラク、さらには中東全域にわたって米国の軍事的プレゼンスの削減や、さらには終結が実現することはないだろう。

<紛争>

米軍撤退に反対する人々は、撤退はイランが切望していた地域的、戦略的な大勝利を与えることになると主張する。こうした勝利のためにソレイマニ司令官は長年、血にまみれた努力をしていた。しかし、トランプ氏がそうしたことをそもそも気に掛けるか、紛争が長期化するシリアやイエメンといった地域の代理戦争が米軍撤退で悪化ないし拡大するかということはかなり不透明だ。

もちろん実際には、米政権はほぼ恒常的な紛争地域への関与を既に大幅に縮小している。最も顕著なのは、昨年のシリアからの撤兵だ。イエメンではもうサウジ軍への給油を打ち切った。

欧州諸国、とりわけドイツもサウジへの兵器輸出を縮小もしくは停止した。20年におよぶ中東の紛争に西側諸国全体では疲労感が募っている。代理戦争は続くだろうが、それをたきつけるのは中東の勢力となり、米国やその同盟国の関与は低下するかもしれない。

だからといって事態がエスカレートしないとは言い切れない。トルコは先月、リビアの内戦に参入した。リビアではカタールとアラブ首長国連邦(UAE)が長く対立。糸を引いているのはロシアやイタリアなどの他国と見なされている。司令官殺害がイエメンやイラクに対するイランの関与を大幅に低下させるとみる理由はまったくない。

この数カ月、イラクとイランでは反政府抗議行動が拡大していた。この双方に対し、残忍でしばしば犠牲者を伴った対抗措置のけん引役になったのはソレイマニ司令官だとされている。こうした反政府抗議活動は、シーア派民兵を使ってイラクの米軍施設攻撃を強化しようと司令官が決断する一因になったとも見なされている。これは米軍によるシーア派のイラク拠点空爆を引き起こし、シーア派民兵ら暴徒によるイラク米大使館襲撃につながった。

<悪夢のシナリオ>

米国が最も恐れた悪夢のシナリオは、今回の米大使館襲撃が、11月の大統領選の数カ月前にベトナム戦争末期のサイゴン陥落時のような大使館撤収を引き起こすことだった。その可能性は今、大きく低下したように見える。しかし状況はイランの、とりわけ核政策の選択に大きく左右されていくだろう。米政権内には依然、イランの体制転覆を期待してさらなる制裁強化を求める声もなお多い。ただし、トランプ氏は必ずしもその1人ではないのだが。

一方、欧州諸国は異なったアプローチを望むだろう。恐らくは、オバマ前米大統領がまとめた核合意の修正版に関係者すべてがじわじわと戻る方法だ。

イラン問題に対して英国、フランス、ドイツ3カ国の連携がさらに強まれば、2020年代を迎えたばかりのところで最初に直面した国際危機において、最大の遺産を打ち立てることになるかもしれない。

しかし、もっと重要なのは、「トランプドクトリン(主義)」とも言うべきものの出現だ。トランプ氏には今や、マティス前国防長官のような、トランプ氏の行動を抑え、トランプ氏の思考に影響を与えるようなアドバイザーにじゃまされることがはるかに減っている。

軍事対立に直面したトランプ氏は明らかに、米外交政策専門家であればだれでもほぼ間違いなく考えるはずの行動よりも過激で直接的なものを容認したがった。

しかし、今後は中東地域から米軍をさらに引き揚げるかもしれない。これこそが米同盟国と、そして敵国が考えるアプローチだ。そしてこうした政策が必ずしも世界をより安全にするとは限らないだろう。

ただ、不安定さを醸成することで身を立ててきたソレイマニ司令官のような人々も、一度立ち止まって考える必要がある。殺害された司令官は明らかに、自分には手が出せないと思っていた。自分を殺せばさらなる流血の事態が触発されると踏んでいたのも間違いないだろう。

そうなる代わり、司令官の葬儀の参列者は皆、司令官の僚友を含むすべての陣営関係者が、葬儀をいかに素早く歩き去ろうとしているか気付かないではいられなかったはずだ。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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