January 18, 2020 / 11:13 PM / a month ago

コラム:兵士に「スマホ禁止令」、進化する軍事情報戦の脅威

[ロンドン 14日 ロイター] - イランとの対立が深まるなか、米陸軍第82空挺師団第1旅団戦闘団は中東に向けて出発した。このとき、司令官は簡潔な命令を1つ下した。スマートフォンや個人用情報デバイスを米国に置いていくように──。

米国政府は潜在的な敵国が、情報端末の脆弱性を突いて、追跡や悪用、さらには標的選定に用いるのではないかと懸念している。写真は「自撮り」をする米兵。2016年10月、イラクのモスル南方のケイヤラで撮影(2020年 ロイター/Alaa Al-Marjani)

政府当局が、この種の機器に付きまとう軍事的な脆弱性に神経を尖らせている明白な兆候だ。スマホや個人用情報デバイスは、一般市民と同様、兵士にとっても疑いもなく日常的な存在になっている。しかし、米国政府は、潜在的な敵国が、その脆弱性を突いて、追跡や悪用、さらには標的選定に用いるのではないかと心配している。

<スパイ活動も筒抜けに>

こうした懸念は決して目新しいものではないが、イスラム国やタリバーン、アルカイーダといった国家以外の組織が米国の主要な敵と見なされていた時期には、さほど深刻に捉えられていなかった。だが、米国がいま警戒しているのは、イランだけでなく、ロシアや中国など他の国家であり、テロ組織に比べ、自国の存亡を左右するはるかに大きな存在がもたらす脅威だ。

「スマホ持参禁止」は、さらにずっと大きなトレンドも反映している。全般的に、コミュニケーション革命(及びそれによって生成される膨大なデータ)によって、偵察活動は以前よりはるかに容易になっている。人工知能の成長によって、このトレンドはさらに強化される可能性が高い。

また、米国家安全保障局(NSA)の仕事を請け負っていたエドワード・スノーデン氏の事件が象徴するように、膨大な情報の大量漏洩もいまや簡単に起き、スパイ活動やその関連分野において数十年も蓄積されてきた職人技も色あせつつある。米中央情報局(CIA)などの諜報機関では虚偽の身分を複数使い分ける手法を続けることが、ほぼ不可能になってしまったとの報道もある。

「スパイという職業の基盤が崩壊してしまった」と、CIAの元職員デュエイン・ノーマン氏はヤフーの記事のなかで語っている。この記事では、諸外国の政府が、電話や銀行口座の履歴、顔認識、容易に入手できるDNAテストの結果などを通じて、米情報機関職員の正体を、虚実共々、これまでよりはるかに正確に追跡できるようになっている様子を紹介している。

「(諜報コミュニティにおける)議論は、気候変動がテーマの場合と同じようになっている。つまり、それを否定する者は単に現実を見ていない、ということだ」と同氏は言う。

<限られる選択肢>

また軍の司令官にとっても、選択肢は狭まりつつある。ロシアとウクライナとの紛争において、ロシア側勢力は、敵対勢力が携帯電話や無線を使用するや否や、すぐに相手の位置を特定するという驚くべき手腕を披露した。

米国で発行されている軍事専門紙「ミリタリー・タイムズ」によれば、米海兵隊はすでに、中東に戦闘任務で派遣される隊員が個人用デバイスを携行することを禁じているという。海軍は規則の再検討を進めており、陸軍はそうした判断は(第82空挺師団のように)司令官の裁量に委ねられているとしている。

デバイス所持を禁止すれば、兵士らが家族と会話する能力が奪われるだけでなく、通信・組織にも悪影響が生じる。しかし、米国防総省は今月、職員に対して中国企業が運営するアプリケーション「TikTok」(ティックトック)の使用をやめるよう要請した。また、「WhatsApp」(ワッツアップ)など類似のプラットホームもいくつかのブラックリストに追加された。

「不注意な会話」や不必要な無線、その他の発信の削減というのは、最近生じた課題ではない。遠く第1次世界大戦まで遡っても、英軍の指揮官は、前線の塹壕で使用される野戦電話システムがドイツの通信兵に盗聴されていることに気づき、最重要の機密情報については、野戦電話ではなく手渡しや口頭で伝達するよう、できる限りの努力を重ねた。

海軍の艦艇、軍用機、そして特に潜水艦は、特に敵の領域の近くでは、相手に特定されやすい情報をできるだけ隠すよう、長年にわたって最善を尽くしてきた。だが近年は、本来であれば高い意識を期待される者も含めて、過失が増えている。

<落とし穴となったフィットネスアプリ>

2018年初頭、フィットネスアプリの「Strava」(ストラーバ)が発信するデータにより、シリア国内に米国やロシア、さらにはイランが設置した秘密拠点が特定されてしまった。軍関係者や軍事請負業者が、注目を集めて広くシェアされるなどとは考えもせずに、訓練中のランニングのデータを記録してしまったものと思われる。

米軍ではすでに、こうした失敗さえも訓練過程に組み込むにまで至っている。ある訓練では、兵士が自撮り写真を投稿し、画像の位置情報によって所在地が露呈してしまったことにより、部隊全体を「全滅」扱いとしている。

各国当局は、こうしたアクシデントによるもの以外の情報漏洩にも神経を尖らせている。昨年11月、トランプ米大統領が感謝祭に合わせて予告無しにアフガニスタンを訪れた際、ホワイトハウスと米軍関係者は、記者や大統領補佐官のスマホを回収した。ニュースが漏洩しないようにという配慮だけでなく、スマホそのものが追跡されることへの懸念もあったようだ。

後者に関して、最大の脅威は、人工知能と音声認識ソフトの発達により、人間の分析担当者や通訳者に頼らずに、携帯電話を利用して周囲の会話をモニターできるようになることだ。これは思ったよりも早く実現する可能性がある。これこそ、中国企業ファーウェイが複数の欧州諸国において5G携帯電話ネットワークの中核を担うことを一部のセキュリティ専門家が非常に懸念している理由の1つだ。

英国は近く独自の判断を下す予定だが、英国保安局のトップは英フィナンシャル・タイムズ紙に対し、中国企業を完全に締め出さなくてもリスクを管理できると考えている、と述べた。だが米国のセキュリティ担当部門は、はるかに慎重だ。

スマホ経由で組織されることの多い抗議行動や暴動が急増している中国やイランといった独裁国家では、電子機器(ひいては国民一般)にアクセスし追跡できるようになることが優先課題とされている。中国政府は、新疆ウイグル自治区を筆頭に、国内全域を人類史上で最も高度な監視国家に変貌させようとしている。

中国国内ではすでに、国家当局がデータ及びデバイスにかなりの程度、場合によってはほぼ完全にアクセスできるようになっている。人工知能と機械学習がより高速・明敏になっていけば、そのアクセス範囲は劇的に拡大するだろう。

西側諸国にとって問題なのは、彼らの潜在敵国が、こうしたテクノロジーをどの程度効果的に国外の情報収集に転用できるか、という点だろう。「ベルリンの壁」崩壊以降、米国とその同盟諸国は、どんなデバイスや通信手段であれ、望むままに利用できる状況に慣れ親しんできた。だが、その時代は急速に終焉に向かっている。

(翻訳:エァクレーレン)

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