June 1, 2018 / 4:42 AM / 18 days ago

コラム:戦争に備える平和国家スウェーデン

Peter Apps

[30日 ロイター] - この2週間で、スウェーデンの全世帯に、戦争への備えをまとめた冊子が配られた。スウェーデン政府が発行したもので、いかなる手段を使ってでも侵入者に抵抗するよう、全住人に指示している。

  ほんの最近まで考えられなかった問題について、とりわけ北欧の国々がいかに急激に対策を講じる緊急性に迫られるようになったかを示す劇的な出来事だ。

「長年の間、戦争の脅威に対してスウェーデンではきわめて限定的な用意しか行われていなかった」と、このスウェーデン語の冊子には書かれている。「しかし、われわれの周りの世界が変わり、政府はスウェーデンの総合防衛力の強化を決めた。平時の緊急事態への備えは、戦時の回復力の重要な基礎になる」

欧州の大半の国では、4年前のロシアのプーチン大統領によるクリミア併合とウクライナでの戦闘は警鐘と受け止められたが、自国の存在を脅かす脅威とまでは考えられていなかった。

ドイツや英国、フランスなどは、国防体制を見直し、少しずつ防衛費を増額した。しかしほとんどの場合、安全保障専門家の間ですら、圧倒的な規模を誇るロシアの通常戦力が自国領土を攻撃するという差し迫った本物の危機を見て取る人間はほとんどいない。ロシアの軍事力は、冷戦後もっとも活発な状態にあるとはいえ、同国の戦車や軍隊は安心できるほど遠く離れた距離にある。

だが地理的にロシアにずっと近い北欧では、明らかに事態は異なる。

ノルウェーは、侵略者から国を守る専門部隊であり、通常戦力とは別組織の郷土防衛隊の隊長に、特殊部隊幹部を任命した。フィンランドは、戦闘で多くの負傷者が出た場合の対応力を強化するため、より大規模な中隊に軍を再編した。両国とも、健全な青年男性を対象とした徴兵制を長年維持している。さらに、理論上は中立のスウェーデンも、男女が対象の徴兵制度を復活させた。

北欧諸国の軍隊が、海外での国連平和維持活動を含めた人道的活動や武装勢力掃討などにより注力していたほんの数年前と比べれば、劇的な変化だ。

ノルウェー、スウェーデン、フィンランドのいずれも、ロシアの侵略を国境で食い止めることはできない。

程度の差こそあれ、これらの国々の戦略は、侵略者に国土の大半を明け渡し、その後、攻撃しては撤退する戦術を繰り返して、徐々に相手を失血死させるというものだろう。

これらの国々が、実際に戦争が近いと考えているわけではない。とはいえ、最近ノルウェーで人気のテレビ番組は、ロシアによる侵略を軸にした「占領下」という番組であり、潜在的な脅威がいかに変化したかを物語っている。

ほとんどの欧州安全保障専門家は、ロシアが圧倒的な軍事攻撃ではなく、これまでと同様に、過激な主張の政党を支持したり、定期的にサイバー攻撃を仕掛けたりするなどの非対称戦術を続けると予測している。

北大西洋条約機構(NATO)にとって、より重要なのはエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の防衛だ。これら3カ国は旧ソ連の構成国で、地理的にロシアに近い上、ロシア語人口を多く抱えていることもあり、より狙われる可能性が高いとみられている。

ドイツとカナダ、英国が主導する部隊が3カ国に駐留しているほか、最近では米軍の有力部隊や欧州各国が参加して大規模な軍事演習が行われた。

 5月30日、この2週間で、スウェーデンの全世帯に、戦争への備えをまとめた冊子が配られた。写真はスウェーデン国旗を掲げる人。メルボルンで2010年1月撮影(2018年 ロイター/Vivek Prakash)

北欧諸国も、単独で攻撃に耐える事態に陥らないことを願っている。ノルウェーは長年NATOに加盟している。加盟国ではないスウェーデンとフィンランドでは現在、加盟を議論しており、軍事のみならずNATOとのつながりを強化している。3カ国とも、北欧やバルト諸国で構成され、英国主導の連合遠征軍に参加している。同遠征軍は、NATOとは軍事的に別行動をとることができる。

だが、北欧やバルト諸国が自国内でとっている備えを見れば、こうした国が口には出さないものの、内心では軍事的な協力関係が頼りにならないのではないかと心配していることが分かる。このような不安は、トランプ米大統領の就任や、ドイツやフランスなどでの極右政党の台頭によって、いや応なく深まっている。

北欧諸国が本当に恐れているのは、そう遠くない未来、場合によっては今後10年以内に、彼らが長年頼りにしてきた欧州や環大西洋の構造が崩壊してしまうことだ。

「軍の存在意義は、単純に国の存続にある」と、北欧のある軍人は昨年私に語った。同盟国は頼りにするが、必要とあれば単独で戦うという意思表明だ。

ロシアは明らかに、スウェーデンが心配している唯一の危険ではない。冊子は、テロ攻撃の危険にも具体的に言及しているほか、戦争や特定されない「危機」のリスクにも全編を通じて触れている。

だが冊子を読めば、スウェーデン政府がもっとも心配しているのは、戦争が始まってもいない段階から「戦争に敗れた」というデマを国民に流す工作を伴った、圧倒的な軍事攻撃だということは明らかだ。

スウェーデンの冊子は、「侵略を受け、降伏した」という内容のメッセージはすべて無視するよう明示している。

「スウェーデンが他国から攻撃を受けた場合、われわれは絶対にあきらめない。抵抗をやめるよう促す情報は、すべてニセ情報だ」と、冊子は断言している。この冊子には、不安をあおっているなどの批判もあるとはいえ、これがスウェーデン当局が訴えたかったメッセージであることは疑いようもない。

冊子は、最近やってきた移民にも理解してもらえるようアラビア語やソマリ語などに翻訳された。こうした移民の若者は男女とも、徴兵の対象になる。

冊子全体のトーンは全体的に穏やかなものだが、間違いようのないメッセージが込められている。攻撃を受けた場合、救護活動などに協力するにせよ、戦って死ぬにせよ、国内にいる人すべては指示通りに動くことを求められている。

これは、フィンランドとノルウェーのレジスタンス戦闘員がソビエトやナチスの侵略と戦い、中立のスウェーデンが両者に脅かされていた暗黒の1940年代に、予期せぬ形で揺り戻されたようなものだ。

欧州でもっともリベラルで、進歩的で、平和なこれらの国の指導者が、いまや暗い時代の再来を恐れていることの、憂慮すべき証左でもある。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

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*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています

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