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コラム:シリア化学兵器の「恐ろしい教訓」
2017年4月7日 / 23:00 / 7ヶ月後

コラム:シリア化学兵器の「恐ろしい教訓」

[4月5日 ロイター] - 少なくとも70人が犠牲になったとされるシリアのハンシャイフン近郊で起きた化学兵器とみられる空爆は、数十万人が亡くなったシリア内戦において、その死者数だけを取り上げれば到底重大だとは言えないだろう。

 4月5日、少なくとも70人が犠牲になったとされるシリアのハンシャイフン近郊で起きた化学兵器とみられる空爆は、数十万人が亡くなったシリア内戦において、その死者数だけを取り上げれば到底重大だとは言えないだろう。だが、化学兵器となると話は別だ。写真は4日、シリアのハンシャイフン近郊で化学兵器とみられる空爆が起きた後、酸素マスクで手当てを受ける民間防衛隊メンバー(2017年 ロイター/Ammar Abdullah)

だが、化学兵器となると話は別だ。

第1次世界大戦のさなかに欧州の大国が最初に使用して以来、化学兵器は多くの意味で、その物質的もしくは軍事的効果とは不釣り合いなほど大きな心理的、そして政治的な衝撃を与えてきた。生物兵器の脅威と並び、化学兵器は突出した恐怖をはらんでいる。

第1次大戦の塹壕で軍医たちは、通常の砲爆撃の方が死者の数がはるかに多いにもかかわらず、毒ガス攻撃に対する身もすくむような恐怖の方が、砲爆撃のそれを上回ることが多いのに気づいた。大戦終結の頃には、基本的なガスマスクと化学防護装備により、多くの兵士は毒ガス攻撃を受けてもほとんどダメージなく生還できるようになっていた。

にもかかわらず、大半の国が化学兵器を禁止するに至ったのは、こうした兵器に対する恐怖だ。

1993年に署名された化学兵器禁止条約の調印国は現在192カ国に達しており、世界で備蓄されていた既存の化学兵器の90%以上が昨年末までに廃棄されたと考えられている。

だがシリア内戦によって、時と場合によっては、さほど深刻な結果を抱え込むことなく、政府が自国民に対して化学兵器を使用することができるということが確認されてしまったようだ。

ここ数週間、ティラーソン国務長官やマティス国防長官を含む米国高官は、「シリアのアサド大統領の排除はもはや優先課題ではない」と示唆していた。アサド政権は、ほぼ何の報復を受けずに国内反体制派に対する行動を起こせると感じていることを誇示しているかのようだ。(編集部注:米軍は6日、化学兵器の使用に対する対抗措置として、アサド政権下の空軍基地に対するミサイル攻撃を実施した。)

大量破壊兵器に関する国際的なルールと規範を損ない、米国の力と影響の限界を露呈するという意味で、これは警戒すべき兆候だ。今も政権側と戦っているシリア市民にとっては、さらに抵抗を続けることによる犠牲について残酷な警告を受けたことになる。

化学兵器による反体制派への攻撃は目新しい戦術ではない。1920年代や30年代には大英帝国が、同じような狙いでイラクの村落に対して毒ガスを使用した。ムッソリーニ政権下のイタリアもアビシニア(現エチオピア)に対して同じことを行なった。イラクのサダム・フセインはハラブジャ周辺のクルド人市民に対してサリンガスを使って推定数千名を殺害し、残虐な独裁者というイメージを確定させた。

今回のケースは、多くの点が意図的にボカされて分かりにくくなっている。恐らく、他国からの反発や報復の可能性をさらに低下させるためだろう。西側諸国の政府も、独立した監視機関も、シリア空軍による意図的な攻撃を示す証拠があると述べている。だがアサド政権を支持しているロシアは、政権側による空爆によって反体制派側の武器倉庫から化学物質が流出したとしている。

そうした可能性もゼロではないとはいえ、空爆による着弾箇所が道路や見通しのいい原野だったことを示す画像など、これまで得られた大半の証拠はその逆を示している。過激派グループはこれまでにも定期的に化学兵器の製造を試みており、特に「イスラム国(IS)」は、イラク第2の都市モスルの支配を維持するために毒ガスを用いている。

だが5日の攻撃には、2013年にダマスカス郊外で発生したアサド政権絡みの化学兵器による攻撃との顕著な類似点が見られる。このときは市民数百名が殺害されており、一時は、米国がアサド政権との直接的な武力対決に踏み込む契機になるだろうと見られていた。

それ以前から米国のオバマ前大統領をはじめとする西側諸国の指導者は、化学兵器が使用されれば、外部からの介入の引き金となる限度を越えることになると宣言していた。だがアサド政権側は2013年に入ってから、ごく少数の死者しか出ないような、小規模の化学兵器攻撃を行うことで、この限度を探ってきた。

シリアは2013年に化学兵器禁止条約に調印し、ロシアの仲介による取引の一環として、米国による軍事行動を回避すべく、化学兵器の備蓄をすべて引き渡したものと思われていた。今やそれは事実ではなかったように見える。5日の攻撃以前にも、はるかに限定的な規模の化学兵器による一連の攻撃が見られたからだ。

アサド大統領とその背後にあるロシアが、トランプ政権にはいかなる軍事的対応をとる意志もないと考えているのはほぼ確実である。何しろ、オバマ政権時代のホワイトハウスと同様に、長期的に介入しようという意欲もなければ、そのための戦略も持っていないからだ。

皮肉なことに、化学兵器が政治的な武器としていかに効果的かをシリア政府が示しつつある一方で、国境を越えたイラクでは、戦場において化学兵器の効果がどれほど限定的かをISが悟りつつある。米国やイラクなどの連合軍や人権監視団体の報告によれば、昨年9月、10月、そして今年の3月にやや原始的な毒ガス攻撃が数回にわたって行なわれたというが、被害者は比較的少数にとどまっているとみられる。

過激派グループによる化学兵器・生物兵器を利用した攻撃への懸念は何十年も言われているが、実際の例はきわめてまれであり、多くは効果をあげていない。

専門家によれば、アルカイダやISはいずれも化学兵器・生物兵器を利用したいと考えているが、どちらも高い優先順位を与えているわけではないという。これらのグループは最近、テクノロジーという点では対極的な方向に関心を注いでおり、ブリュッセルやパリ、そして3月の英ウェストミンスターでの攻撃に見るように、トラックやナイフ、小火器といった、利用できる限りで最もシンプルな武器を使っている。

だが、これが常に真実であるとは限らない。

日本のカルト宗教であるオウム真理教は、生物兵器を利用する試みに失敗した後、サリンの製造に成功した。1995年にこれを使って東京の地下鉄への攻撃を行ない、死者13人の他、6000人以上が重軽傷を負った。専門家らは、さらに効率よくサリンを散布するシステムを完成させていたら、死者数は大幅に増えただろうと指摘する。

しかし一般的には、5日にシリアで起きた事件が示しているのは、化学兵器による攻撃のリスクが最も大きくなるのは、ある国の政府が自国民の一部を見せしめとして使いたいと考える場合だ、ということだ。 これに対して、米国にせよ他の西側諸国にせよ、どのように対処すればいいのか手をこまねいている、というのが厳しい現実なのだ。

(編集部注:このコラムは米軍がアサド政権軍の支配下にある空軍基地をミサイル攻撃した6日以前に執筆されました。)

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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