June 1, 2019 / 12:09 AM / 5 months ago

コラム:トランプ氏のイラン戦略、なぜ北朝鮮より危険か

[ロンドン 30日 ロイター] - アラブ首長国連邦(UAE)の沿岸で停泊中だったノルウェー船籍の石油タンカー「アンドレア・ビクトリー」の船尾に12日、大穴を開けた吸着型機雷の爆薬は4キロ未満だった、と海事安全保障の専門家はみている。

5月30日、アラブ首長国連邦(UAE)の沿岸で停泊中だったノルウェー船籍の石油タンカー「アンドレア・ビクトリー」の船尾に大穴を開けた吸着型機雷の爆薬は4キロ未満だった、と海事安全保障の専門家はみている。写真は17日、アラビア海で演習を実施する米空母 エイブラハム・リンカーンと強襲揚陸艦キアサージ。米海軍提供(2019年 ロイター)

隣国サウジアラビアで起きた石油パイプライン施設2件への大規模攻撃や、船舶3隻への攻撃と同様、この攻撃で壊滅的な損傷が生じ、世界の石油供給が断絶されるような事態に陥るリスクは非常に低かった。

だが、イランとその同盟相手の仕業だと米国などが批判した、こうした攻撃の目的は、最初からそこにはなかった。

米国や湾岸諸国との間で高まる緊張が実際に戦争に発展した場合、イラン政府やその周辺がどれほどの混乱を起こし得るかを警告するためのデモンストレーションだったようだ。

これは、関与を否定できる手法や新たなテクノロジーを使って敵に攻撃を仕掛けたり影響を及ぼそうとしたりする国が増え、国同士の対立のルールがいよいよあいまいになっている実態を浮き彫りにしている。

トランプ米政権は、オバマ前政権と同様に、こうしたやり方への対処戦略を打ち出せていない。

<敵はどこに>

2017年に北朝鮮に対峙した時と同様、トランプ大統領とボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を中心とする一部側近は、米国の圧倒的な軍事力をちらつかせて敵を屈服させようとする傾向がある。

だが今回の場合、さまざまな戦略的、地政学的な現実が絡み合い、こうしたアプローチは単純にはいかない。この地域に甚大な被害を及ぼす戦争を引き起こすリスクを背負う意思が米国に本当にあるのか、懐疑的な見方が国際的に広がっているだけでなく、この地域の入り組んだ地政学的状況によって、米政府が現実的に取り得る選択肢も極めて限定的だからだ。

北朝鮮の核問題を巡っては、トランプ氏と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の双方が、何としても戦争を避けたい韓国に外交的主導権を握られ、対話のテーブルへと促された。

懐疑的な見方が広がってはいるが、トランプ氏は明らかに、外交的な突破口を今も願っている。だが今月の訪日で明らかになったように、トランプ氏は今、日中という2大勢力に挟まれた状態にある。

北朝鮮唯一の本物の同盟国であり支援国でもある中国政府の圧力は、金委員長を交渉の場に引き寄せる鍵となった。しかし、米国が仕掛けた「貿易戦争」が過熱する中で、中国は圧力を弱めているとみられ、これが北朝鮮がミサイル実験を再開した要因の1つと考えられている。

ミサイル実験を受けて、アジア太平洋地域における米国の主要同盟国である日本は劇的に警戒を高めており、これがトランプ氏訪日における一番の争点となった。

北朝鮮の少数だが配備済みの核弾頭は危険な発火点だが、別の観点から見れば、米政府のイランとの対立の方が危険かもしれない。

アジアでは、米国の同盟国と敵国はともに、戦争回避に向けた決意を広く共有している。だが中東では、それは明確ではない。

実際のところ、イランに対しては、UAEやサウジなど米国の主要同盟国は、すでに自国が戦争状態にあると明らかに考えている。さらに、国際的なルールがあらゆる面で急速に威光を失いつつあるのもこの地域だ。国連が世界最悪の国際人道危機と評するイエメンの状況は、関係国にどこまでやるつもりがあるかを示している。

<影の戦争>

これは今に始まったことではない。だがこの数年見られなかったほど、状況は悪化している。

オバマ前政権は、イランの核開発がイスラエルからの攻撃を招き、地域全体が混乱に陥ることを懸念し、この問題に多くの時間と労力を割いた。当時も、イランの核科学者が暗殺されてイスラエルの関与が疑われ、イラン側の報復とみられるイスラエル大使館や外交官に対する攻撃がタイやインドで発生するなど、「影の戦争」が起きていた。また、事態が制御不能になりそうな兆候もあった。

だが最終的には、全ての当事者が落ち着きを取り戻し、2015年のイラン核合意により、イラン政府は国際社会との関係再構築の糸口をつかんだかに見えた。

この合意はいま、トランプ大統領によって引き裂かれた状態にある。トランプ氏の対応は、シリアからイラクやイエメンまで、疑いなくイランの関与が疑われる事案への対抗措置でもある。

欧州諸国は同合意の存続を願っているが、イラン産石油のバイヤーのほとんどは米国から締め出される事態を望んでいないため、実際には米政府の決定だけが意味を持つことになる。

トランプ政権が、イラン産石油禁輸の例外措置をすべて停止し、全世界市場から事実上締め出す措置をちらつかせていることから、イランは「失うものは何もない」と受け止めるようになるかもしれない。

これは、イランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊(IRGC)」の場合、特にあてはまる。同部隊は、リスクが大きい国外での活動を一手に担っており、米政府が先月、テロ組織に指定した

これらの事情をすべて踏まえれば、極めて危険な状況が見えてくる。

トランプ氏が滞日中、「恐ろしい」ことが起きることは誰も望まないと発言したことは正しい。また、安倍晋三首相がイラン訪問を検討していると報じられたが、これは米政府も支持しているとみられ、外交対応への要望が引き続きあることがうかがわれる。

だが、リスクは現実のものだ。すべての当事国が、必要とあれば戦争も辞さない構えを示したがっているが、こうした姿勢は容易に、「予言の自己成就」につながりかねない。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。2006年にスリランカの内戦を取材中に交通事故に遭い四肢がまひしたため、国際情勢やグローバリゼーションのほか、身体障害についてもブログを書いている。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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