November 27, 2018 / 6:54 AM / 18 days ago

コラム:ウクライナ艦船拿捕、プーチン氏の危険な領土ゲーム

[26日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領が今年5月、アゾフ海でクリミア半島とロシア本土を結ぶ橋を開通させた際、ロシア当局者は、ロシアが2014年にウクライナから奪った係争地である同半島を、ロシアの交通インフラに一体化させるのが目的だ、と説明した。

だが、巨大な橋の下を通ってケルチ海峡を通過する船を制限することで、ロシア政府は、アゾフ海というスイス国土とほぼ同じ面積の海域への海上アクセスを規制する力も手にすることになった。

ロシア政府は25日、貨物船を使ってアゾフ海への侵入をブロックし、この航路の「扉」に鍵をかけた。戦闘機や戦闘ヘリが上空を飛びかう中、ロシア国境巡視船がウクライナの艦船3隻に砲撃し、拿捕した。

乗組員数人が負傷したという。ロシア連邦保安局(FSB)は26日、ウクライナ艦船が違法にロシア領海に侵入したことを受けて拿捕したと表明。ウクライナ側は、これを否定している。

ロシアはその後、再びこの海峡を開放した。だが今回の衝突で、横紙破りで非軍事的、かつ時に致命傷は与えないテクニックを駆使して地政学の地図を塗り替えようとするロシアの意欲が増大する一方であることが改めて示された。

これは、終わりの見えない国境紛争を続けているウクライナなどのプーチン氏に対抗する国々だけでなく、西側諸国や北大西洋条約機構(NATO)も悩まされている戦略だ。

ウクライナとその西側同盟国は、対応を定めなければならない時期にきている。さもないと、ロシア側に「弱腰」とみなされ、さらなる侵略行為を招くことになると指摘する人は多い。だが、コントロールできない衝突を求める国はない。実弾や艦船、航空機や人間が巻き込まれてはいるが、実態はチェスのゲームに近いのだ。

今回の件は、軍事力と経済力、そして巨大な建設やインフラ計画が、サイバー兵器やプロパガンダと並んで使われるという、国際舞台でで増えつつある戦略の傾向を示している。このような「衝突」は、南シナ海のように流血を伴わないこともあれば、ウクライナ東部ドンバスや、シリアやイエメンで行われている中東の代理戦争のように残虐なものもある。

通商から人権に至るさまざまな分野における緊張の高まりを受け、このような対立は確実に増えているようだ。

パプアニューギニアで今月行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、米中の対立が原因で、首脳宣言を採択できなかった。 アゾフ海の危機は、今週アルゼンチンで開かれる20カ国・地域(G20)の首脳会議にも影を落とすだろう。プーチン大統領とトランプ米大統領は共に同会議に出席する。

巨大な埋め立てや建設事業を盾に、中国政府が領有権の主張を強め、軍事基地を建設してきた南シナ海と同様に、アゾフ海における対立も、衆人環視の中で時間をかけてここまで拡大したものだ。

橋の建設は、ロシアがウクライナからクリミアの支配を奪った翌年の2015年に始まった。

11月26日、ロシアのプーチン大統領(写真)が今年5月、アゾフ海でクリミア半島とロシア本土を結ぶ橋を開通させた際、ロシア当局者は、ロシアが2014年にウクライナから奪った係争地である同半島を、ロシアの交通インフラに一体化させるのが目的だ、と説明した。モスクワで2018年10月撮影(2018年 ロイター/Maxim Shemetov)

プーチン氏は後日になって、クリミア併合にロシア軍が関与したことを認めたが、ウクライナの他地域に対するロシア政府の軍事関与については、証拠があるにもかかわらず否定し続けている。

ロシア政府は、アゾフ海での出来事についても同様に誠実さに欠ける対応を取っているようだ。ロシアの外務省高官は先週、西側が新たな制裁を正当化するために意図的に緊張をあおっていると批判した。クリミア併合と同じく、この海洋版の「領土分捕り」は、国際法違反にあたる。アゾフ海は、ロシアとウクライナの共同管理下にあると法的に判断されていた。

だが現実には、今やロシアの支配下となってしまった。アゾフ海に面したウクライナ領唯一の主要港であるマリウポリは今、事実上の封鎖状態に置かれている。25日の事件の前から、ロシアによる輸送妨害で地元経済は大きな打撃を受けていた。マリウポリの住民は今、より悪い事態を恐れなければならないかもしれない。2014年には、マリウポリから数キロの地点まで戦闘が迫り、その後も散発的な戦闘が東のドンバスやルガンスク周辺で続いて1万人近くが死亡した。

今週末の衝突発生以前に、ウクライナ軍幹部は、この地域が「第2のクリミア」になる事態を防ぐため、クリスマスまでにアゾフ海に海軍基地を開設すると吹聴していた。

だがそのような戦術が、ロシア側から確実に大規模な反撃を招くことが明らかになった。ウクライナ側は他の選択肢を検討しているようだ。ロシアのメディアは25日夜、ドンバス周辺の戦地でウクライナ軍の砲撃が増加したと報じている。

ロシアによるクリミア併合後、西側からの軍事支援が増加したとはいえ、ウクライナはNATO加盟国ではない。したがって、西側諸国に行動を起こす義務はない。

しかし、欧州諸国や米国の安全保障関係者の多くは、直接的な支援を拡大したがっている。訓練の提供や、追加兵器支援が考えられる。米国や他のNATO加盟国の軍艦が、黒海航行を増やすことも一案だ。黒海沖での小競り合いは増加している。英国の軍艦上空をロシア機17機が威嚇するように飛行する事件が今年起きている。

西側がこのような対応を取れば、現在すでに回避不能とみられる追加制裁が科された場合と同様に、ロシアはさらに激怒するだろうが、それでもロシア政府による行為を罰することができる。また、東欧の防衛強化というNATOの取り組みをてこ入れする効果もあるだろう。

25日の衝突に対する最も重要な反応は、「軍事防衛に対する正当な対価」を払っていない、と欧州を批判したトランプ米大統領のツイートだったのではないか。

これらの状況から、G20首脳会議の雰囲気は暗くなるばかりだ。欧州各国の指導者は、反トランプでまとまりつつあるが、今回の件でさらに腹を立てた状態で乗り込んでくるだろう。米大統領と中国の習近平・国家主席の首脳会談が今回の最重要イベントになると考えられていたが、今やプーチン氏が参加する会談なら何でも大きな注目を集めることになりそうだ。

アゾフ海での衝突は、今後さらに流血の事態を引き起こすかもしれないが、その後の展開は恐らくコントロールできる範囲のものになるだろう。しかし、外交を捨ててリスクの大きい軍事的な賭けを選ぶ国が増えれば、世界的な破滅が起きる確率も高まるだろう。

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。

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*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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