July 6, 2019 / 9:40 AM / 3 months ago

コラム:人権より独裁者、トランプ氏が塗り替える外交の勢力図

[ロンドン 3日 ロイター] - トランプ米大統領は民主国家の指導者より、独裁者や絶対権力者と一緒にいることを喜んでいる──そう非難していた人たちにとって、この1週間のイベントは攻撃材料の宝庫となっただろう。

 7月3日、トランプ米大統領は民主国家の指導者より、独裁者や絶対権力者と一緒にいることを喜んでいる──そう非難していた人たちにとって、この1週間のイベントは攻撃材料の宝庫となっただろう。写真は板門店で6月30日撮影(2019年 ロイター/Kevin Lamarque)

香港でデモ隊が民主主義と人権を求める中、トランプ大統領が20カ国・地域(G20)首脳会議で成功裏に終わらせた会談の相手は、まさにその自由を国民に与えていないとして欧米社会から批判されている指導者らだった。

まずは中国の習近平国家主席との会談。焦点は米中貿易戦争の緊張を緩和することだった。ロシアのプーチン大統領との会談では、面倒なジャーナリストを「一掃する」と冗談を飛ばした。

トルコのサウジアラビア領事館で起きた記者殺害事件への関与があったとして、国際的に非難されているサウジアラビアのムハンマド皇太子とも友好的な会談を行った。

独裁者らと礼儀正しく世間話を交わした米国の大統領は、トランプ氏が初めてではない。しかし、トランプ大統領は今までの誰よりも、こういった会談を自らお膳立てし、楽しんでいるように見える。

極めつけは6月30日、史上初めて北朝鮮に足を踏み入れた現職の米大統領となったことだ。両首脳の間には個人的な関係があるとトランプ氏が語ったことを金正恩朝鮮労働党委員長は歓迎し、行き詰まった非核化協議を再開することで合意した。米国の国家安全保障政策に携わる関係者の間では、懐疑的な見方が圧倒的であるにも関わらずだ。

あらゆる面において驚きだったのは、大阪でトランプ氏が取った行動の多くが、側近を含めた政権内からのアドバイスに反していたと思われることだ。ここ数週間、および数カ月の大統領の言動からは、彼が内輪の人間すら信用していないことが見て取れる。

イランとの対立でも、同じやり方が見られた。6月にイランが米国のドローンを撃墜した際、トランプ氏は報復措置として軍事攻撃を承認したものの、直前で撤回。側近中の側近をも驚かせた。

これが原因で、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)やポンペオ国務長官との間に不和が生じた。ボルトン、ポンペオ両氏はタカ派で、イラン政府など米国が敵と考える国々に対して強硬路線を主張している。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、トランプ氏は、側近の一部がイランと戦争をするよう仕向けており、「胸が悪くなる」と表現。「これ以上戦争などいらない」と語ったという。

イラン問題、G20における複数の会談、そして北朝鮮訪問は、すべてトランプ氏の矛盾を示している。矛盾というのは、大統領が、周辺の人々の助言を無視し、彼らの予測をひっくり返すようなことを楽しんでいることだけではない。大統領が、側近の助言よりも好戦的で破壊的な行動をとる傾向があるにもかかわらず、懐柔的であるということだ。

これを単に気まぐれと片付けることもできるだろうが、気まぐれよりはロジックを感じる。これはまた、緊張が高まり衝突が不可避と思われた状況でも、外交的な「退路」を作り出す。

<北朝鮮の非核化、現実的な目標は>

北朝鮮首脳との会談を巡ってトランプ氏を批判する声が上がる中、任期1年目の大統領が大っぴらに同国を非難し続け、緊張を高めているとして批判されていたことはほぼ忘れられている。

弾道ミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮に対し、トランプ氏は自身が持つ権力すべてを使って軍事行動を検討しているように見えた。緊張緩和の糸口がようやく見つかったのは、2018年の平昌冬季五輪で韓国が予想外の外交攻勢に出てからだ。これは同年6月の初めてとなる米朝首脳会談につながった。

北朝鮮が核を手放す見込みはほぼないし、それは現実的に米国が手に入れようとしている結果でもない。米政府が見据えるべきは、米国本土を攻撃できる長距離ミサイルや核弾頭の開発を停止させることだ。このところ長距離ミサイルの試射をしていないところを見ると、これまでは効果は出ていると言える。

実現しそうにない軍備縮小で合意を目指すのではなく、トランプ大統領の現在の目標は、金正恩氏が発射実験を再開しない程度に安心感を与え、対話を続けることにあるようだ。これは真の長期的解決ではないだろうが、戦争のリスクは軽減した。

中国の経済問題についても、トランプ氏が交渉を妥結するとの見方は強まっている。北朝鮮、そしてイランと同じく、トランプ氏は中国との危機的状況を自分で作り出し、周辺のスタッフのほとんどが賛成しなかった貿易戦争を始めた。

しかし、イランの時と同じく、トランプ氏は国防総省内に顕著になりつつある、「中国は敵」という単純な考え方を嫌っているのかもしれない。

これまで政府内のコンセンサスよりも強硬路線を貫いていたトランプ氏は、今になって中国に対してより開放的な態度に変わった。欧米の安全保障の専門家が主要なリスクと見なす華為技術(ファーウェイ)への輸出許可がその例だ。

オバマ政権と違い、トランプ氏は民主主義や人権という観点から国家間の関係を決めることに全く、もしくはほとんど興味がない。

ポンペオ国務長官は、大統領が中国との会談で香港の件に触れると述べていたが、その話はどこかに飛んで行ってしまったようだ。サウジの記者暗殺の件も、ムハンマド皇太子の様子を見ると、議題にも上ってなさそうだ。プーチン大統領に至っては、トランプ氏は国内を統制する彼をうらやましく思っているように見えた。

すべての点において、これらは奇異なことだ。一方で、他国は過去10年緊張を高める要因となってきた、米国による内政干渉や政権交代圧力を恐れなくなるかもしれない。

世界平和をトランプ氏の気分と気性に任せるのは危険だが、それが今の現実だ。イランが6月にドローンを撃墜した際のトランプ氏は、融和的な状態にあった。大統領がその状態にあり続けることができるのであれば、たとえ一時的であっても、世界は以前より安全になるかもしれない。

近年の米国が、あまりに多くの戦争に関わってきたことは確かだ。敵対国との共通点を見つけることは称賛するべき目標だ。

しかし、民主主義と人権が危機にある現代において、それを無視し続けることも、予期せぬ不快な結果を招く恐れがある。

 7月3日、トランプ米大統領は民主国家の指導者より、独裁者や絶対権力者と一緒にいることを喜んでいる──そう非難していた人たちにとって、この1週間のイベントは攻撃材料の宝庫となっただろう。写真は大阪で6月28日撮影(2019年 ロイター/Kevin Lamarque)

*筆者はロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。2006年にスリランカの内戦を取材中に交通事故に遭い四肢がまひしたため、国際情勢やグローバリゼーションのほか、身体障害についてもブログを書いている。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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