[香港 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 半導体業界の買収に規制当局はレッドライン(超えてはならない一線)を引いているようだ。英半導体設計大手アームや独シルトロニックの買収破談は、半導体業界での再編の動き以上に、業界の貴重な技術の実情を物語っている。
ソフトバンクグループによる米半導体大手のエヌビディアへのアーム売却は頓挫した。
エヌビディアによるアーム買収計画に対しては、当初から激しい反対があった。アームがクアルコムや中国の華為技術(ファーウェイ)などに重要な半導体設計をライセンス供与していることを踏まえると、エヌビディアがアーム買収後に同社の知的財産へのアクセスを制限するのではないかという懸念は妥当だと思われる。
米連邦取引委員会(FTC)は昨年12月、エヌビディアがアームを買収すれば、自動運転技術やネットワーク向け半導体市場で競争が阻害される恐れがあるとし、買収差し止めを求めて提訴した。欧州連合(EU)や英国の規制当局も、価格上昇や選択肢の減少、イノベーションの後退を懸念していた。
先週には、台湾のシリコンウエハーメーカー、環球晶円(グローバルウェーハズ)が、ドイツ当局の承認の遅れから独シルトロニックの買収断念を発表したばかりだ。
両社の合併で、半導体の重要な素材である300ミリメートルウエハーで世界第2位のメーカーが誕生するはずだった。ただ、欧州で唯一のシリコンウエハーサプライヤーが外国企業に買収されれば、半導体やその部品不足が深刻な中で、欧州のアジアのサプライチェーン(供給網)への依存が一段と高まることになる。
一方、半導体業界の再編は引き続き魅力的といえる。ICインサイツによると、半導体業界の2021年設備投資は30%以上拡大して1520億ドルに急増すると見込まれていた。規模が大きい多角化経営の企業にとり、将来の供給問題の可能性より買収による規模拡大のほうがリスクが低いかもしれない。
最近のニュースに目を向けると、政府は買収対象が重要な技術を所有していない限り、おおむね支持している。当局は昨年、ルネサスエレクトロニクスによるダイアログ・セミコンダクターの60億ドルでの買収や、マーベル・テクノロジーによる100億ドルのインファイ買収を認可。先月にはアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)がザイリンクスを350億ドルで買収する計画を中国当局が承認している。
●背景となるニュース
*英アーム、米エヌビディアへの売却頓挫、IPO計画へ=関係筋
*台湾グローバルウェーハズ、生産能力拡大へ 独社買収失敗で
*中国当局、米AMDのザイリンクス買収を条件付きで承認
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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