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アングル:高齢化進むアジア、導入広がる「見守り」テクノロジー

[19日 シンガポール トムソン・ロイター財団] - シンガポールに住む74歳の男性。認知症の症状が進み、自宅から何キロも離れた場所で見つかるまで徘徊するようになって、男性の介護担当者らは頭を抱えていた。そこへ、テクノロジー企業が着脱可能なGPS(衛生利用測位システム)タグの使用を勧めてきた。

 1月19日、 シンガポールに住む74歳の男性。認知症の症状が進み、自宅から何キロも離れた場所で見つかるまで徘徊するようになって、男性の介護担当者らは頭を抱えていた。写真は2022年12月、WiFi動作センサー設置したシンガポールの自宅で作業するリンさん(2023年 ロイター/Rina Chandran)

男性が住む集合住宅の一室に、介護士らは人感センサーを設置。監視カメラも玄関口に設置して、離れていても男性の様子をうかがえるようにした。この公営住宅には、他にも共用部に6つの監視カメラが設置されていて、高齢の居住者らを見守っている。

「これらの機器を設置したことで、簡単に住人を見守れるし、転倒したり徘徊したりしてもすぐに駆け付けられるようになった。おかげで少しは息をつけるようになった」と、とある介護ボランティアは語った。このボランティアは、取材対応の許可が下りなかったとして、匿名を希望した。

こうした監視テクノロジーは、シンガポールなど急速に高齢化が進んでいるアジア諸国で広く普及し始めている。

導入を支持する人々は、危険な目に遭いやすい高齢者の安全保護にテクノロジーが貢献していると主張する。一方で専門家らは、こうした機器は干渉性が強く、データ漏えいの危険性があると警鐘を鳴らしている。

「高齢者を対象とした機器の多くは、『見守り』を名目に設置されている。高齢者は見張られている、あるいはプライバシーが奪われていると感じるという問題をはらんでいる」と、シンガポール国立大学のハン・エイ・チュウ上席研究員は指摘する。

「テクノロジーを利用して高齢者が偵察されたり、データが商業利用されないよう、データ保護やプライバシー問題にも注意する必要がある」と、テクノロジーと社会問題を研究する同氏はいう。

ビデオの使用は「医療従事者の負担を減らすことが目的だ」と、ビデオ管理ソフトウェア企業マイルストーンシステムズのマロウ・トフト、アジア太平洋副局長は話す。同社は、前出の74歳男性が住んでいる集合住宅への機器の導入を請け負った。

モニタリング機器のおかげで「敷地内がしっかりと警備され、転倒や失踪などの異常事態にも即座に対応できる」ようになったと同氏は語った。

<高齢化するアジア>

国連は、2050年までにアジア太平洋地域に住む4人に1人が60歳以上となり、日本や韓国、シンガポール、中国、タイでは社会と経済に深刻な影響が出ると報告している。

高齢者の生活を支援するため、カメラやロボット、人感センサーやAI(人工知能)に基づいたスピーカーといったスマートホーム技術製品が導入されつつある。

だがこうした機器の多くは警備や監視システム用に開発されており、仕組みを理解していない立場の弱い人々の権利を侵害する恐れがあると、専門家らは批判している。

「スマートホーム製品をよく理解していない高齢者にとって、このような機器は新たな懸念材料だ」と豪モナッシュ大学で電子テクノロジーと社会を教えるヨランディ・ストレンガーズ教授は指摘する。

同氏によると、「高齢者は個人データの侵害に遭いやすかったり、個人データがどう使われているかを理解していなかったりする傾向にあり」、スパム広告から詐欺に至るまで、多くのリスクにさらされるのだという。

<目を離さない>

65歳以上の高齢者の世界総人口数は、2050年までに現在の倍の16億人に達する見通しだ。

世界で最も高齢化率が高い日本では、政府が高齢者向け介護ロボットの開発を支援している。犬型やぬいぐるみのようなアザラシ型のものもあり、話し相手になったり、利用者のモニターや動作の手助けを行うなど、介護士らの手の届かないエリアでのケアを担う。

また日本は、転倒と失踪の1番の原因である認知症の人の人口における割合が最も大きい。複数の都市が、認知症を抱える高齢者の所在を確認できるWiFiセンサーを路上に設置している。

韓国では、通信大手SKテレコムが2019年に発売したスマートスピーカー「ヌグ」が、「社会的なセーフティネット(安全網)」として76の地方自治体と福祉施設に配布され、1万4000人を超える1人暮らしの高齢者に利用されている。

米アマゾンのアレクサと似たこのスピーカーは、質問への応答や音楽再生、通話、高齢者の認知能力を改善するためのゲームやクイズの提供ができる。

新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)下では、政府はこのスピーカーを用いて感染対策のコツや、健康に良い料理レシピや気分の上がるおすすめの音楽を流したこともあった。

また救急隊は、スピーカーのSOS機能を利用した高齢者をこれまでに300人以上救助している。

SKテレコムの広報によると、高齢ユーザーのスピーカーとの会話内容はAIによって分析される。「孤独」や「幸せ」といったキーワードを元にユーザーの精神状態を測り、機器の精度を向上させている。

「ユーザーは、使用パターンの情報が収集されていることを理解している。サービス利用には同意が必要になっている」と、広報担当者は説明した。

<監視>

シンガポールでは、高齢者向け機器の導入費用を国が負担している。国内企業は、AIが動画や音声を精査して、転倒したり助けを必要とする人を検知できるようにする科学技術の開発に複数件取り組んでいる。

こうした状況について、「とりわけ監視テクノロジーについては、詳細な情報と、電源を切るタイミングを理解してもらった上で、導入を決めてもらう」ことが重要だと、前出のチュウ氏は語る。

だがそうした話し合いが不可能だと判断する家族もいる。

リムさん(74)は、認知症があり、これまでに2度転倒した96歳の母親を見守るため、監視カメラを母親の自宅に設置した。

「母は当初、『プライバシーが欲しい、監視カメラの設置は勘弁してくれ』と言っていた。心配していた私たちはその主張を押しのけたけれど、母はすっかりカメラのことを気に掛けなくなった」と語ったリムさん。プライバシー保護のために、名字のみを明かして取材に応じた。

同じく1人暮らしのリムさんは数年前、自身のマンションに人感センサーを設置。動作が全く検知されなければ自動で状況確認電話が来る仕組みだ。

応答しなかったり助けを求めた場合には、介護士と機器のサービスプロバイダーにアラートが届く。また後者はリムさんに再度連絡を取るか救急隊を呼ぶことになっている。

「誰かが自分を見守っていて、無事にしているか電話をかけてくれるとわかっているのは安心できる」とリムさんは語った。

「介護士不足だし、若者は年老いた家族の面倒を見なくなった。こういった企業はその穴を埋めているのだ」

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