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焦点:「搾取やめて」、待遇改善要求強めるアジアのギグワーカー

[バンコク 1日 トムソン・ロイター財団] - アジアのアプリ関連事業で単発の仕事を請け負うギグワーカーの間で、労働条件の改善を求める声が日増しに強まっている。米ニューヨークやオランダなどで宅配サービス従事者が次々と正当な権利を勝ち取っており、彼らを勇気づけている。

 10月1日、アジアのアプリ関連事業で単発の仕事を請け負うギグワーカーの間で、労働条件の改善を求める声が日増しに強まっている。米ニューヨークやオランダなどで宅配サービス従事者が次々と正当な権利を勝ち取っており、彼らを勇気づけている。写真は2020年10月、米カリフォルニア州ロサンゼルスで、ギグワーカーを個人事業主と位置付ける法案に反対する抗議活動に参加する人(2021年 ロイター/Mike Blake)

これまでアジアのアプリ運営会社は欧米の同業者と同じく、ギグワーカーに適用される労働法制が緩い点を利用し、賃金を低く抑え、病気手当て、医療保険といった福利厚生をほとんど支給せず、長時間の労働を要求してきた、と権利保護団体は批判している。

ギグワーカーと契約している企業を評価するフェアワーク・インディアの首席調査担当者バラジ・パータサラティー氏は「運営会社はずっと労働者保護の義務を逃れることができた。これは規制が手を差し伸べられる分野であり、ギグワーカーがどんな場合に従業員やパートナーとして扱われ、どういった手当てをもらうべきかを規定することになる」と指摘した。

アジア各地でギグワーカーの抗議活動などにより、アプリ運営会社に向けられる目が厳しさを増すとともに、当局も雇い主に法的保護の拡充を求め始めている。中国当局は7月、宅配サービスの運転手に最低賃金を上回る給与と医療保険の利用権を提供するよう企業側に命令。シンガポール政府もギグワーカーの保護強化の検討に入った。

約500万人のギグワーカーがいるインドでは昨年、彼らに適用範囲を広げるための社会保障関連法が導入された。ただ、まだ同法は各州によって実行されていない。

先週には、インドのギグワーカーおよそ3万5000人を代表する団体が、ウーバーやオラ、ゾマト、スウィッギーといったアプリ運営会社からの社会保障給付を求めて最高裁判所に提訴した。同国でこうした訴訟が起こされたのは初めてだ。

フェアワークの調査担当者プラデュムナ・タドゥリ氏は「大きな節目だ。アプリ運営会社はインドではかなり新しい存在で、各地で幾つかのストライキを目にするものの労働者は団結していなかった。だが彼らは声をそろえて自己主張を開始し、反撃に出ている。ギグワーカー、特に宅配サービス従事者や運転手などが世間に認知され、無視するのは難しくなっている」とトムソン・ロイター財団に語った。

<搾取の現実>

アプリ関連事業とその請負仕事で成り立つギグエコノミーは、新型コロナウイルスの感染対策として各国がロックダウンを実施した期間に急成長。人々が商品や食料を自宅に届けてもらう必要があったためで、数百万人が労働力として流入した。

しかし、柔軟な働き方に魅せられた多くのギグワーカーからは、「搾取」されているという不満の声が聞こえてくる。アプリ運営会社が一般的にギグワーカーを独立自営業者とみなす中で、彼らの半分は時給が2ドル(約220円)未満にすぎない。さらに国連の調査では、途上国の労働者の稼ぎは先進国の60%にとどまる。

シンガポールのリー・シェンロン首相は、宅配サービス従事者が従業員の外見を持ちながら、基本的な労働保護を受けられず、住宅の取得や医療保険加入、退職金運用の余裕がない現状について「とりわけ懸念している」と発言した。

同国ではギグワーカーの実態を調査する目的で政府諮問委員会が設立された。副委員長を務めるシンガポール国立大学のダニー・クアー教授(経済学)は、宅配サービス従事者と運転手を中心に、ギグワーカーにより充実した退職金積み立てや住宅供給の制度を提供するための作業を進めていると説明。「柔軟性は保護されないことを意味しない。われわれはギグワーカーに現在と将来において適切な保護レベルを享受してもらいたい」と述べた。

シンガポールの宅配サービス従事者が結成した団体に助言しているイェオ・ワン・リン氏は、ギグワーカーは従業員と認定されないのが問題の一端で、そのため彼らの団体は通常の労組ほど強い力を持てないとの見方を示した。「より強力な法的裏付けを与え、これらの労働者の声をもっと代弁できるようにしてほしいとわれわれは訴えている」という。

英料理宅配サービス企業で、シンガポールにおいて約9000人の運転手を雇っているデリバルーは、運転手の労働条件を改善する取り組みを歓迎する意向を表明。ただし彼らが独立自営業者であるという位置づけを損なわない限り、と条件を付けている。

<生計の手段>

国際労働機関(ILO)によると、世界全体では昨年、料理宅配からウェブデザインまでデジタル労働型プラットフォームの数は800近くに上り、10年前の約140を大きく上回っている。

クアー教授は、そうした拡大は経済にとって好機になると指摘。シンガポールは「全ての関係者の利益がうまく釣り合う方法を探す」と付け加えた。その一環として、世界各国のギグワーカーに関する規制を調べ、国内事情にどう適合させるべきかを模索しているところだ。

フェアワークのパータサラティー氏は、北米ないし西欧と対照的に、インドのような貧しい国ではアプリに基づく仕事は「単発ではなく、生活がかかっている」と強調する。

社会保障給付を求める訴訟を起こしたギグワーカー団体の全国事務局長を務めるシャイク・サラウディン氏も、インドでは何十万人もの労働者がアプリ運営会社に頼って生計を立てていると話した。

サラウディン氏は、ギグワーカーによるストや州政府への嘆願は無視されてきたが、それでも彼らは世界中の仲間たちが法的権利を手にした姿に励まされていると明かす。「ロンドンやロサンゼルスなど多くの場所で、われわれのような労働者が権利を与えられるのを目にしている。それこそわれわれが望むものだ」と語った。

(Rina Chandran記者)

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