[シドニー 18日 ロイター] - オーストラリアは今後2週間、最貿易相手国である中国との関係において試練を迎える。急増する対中輸出の一部にプレッシャーが高まる中、オーストラリアは国内問題への中国の影響を制限する法案の可決に向けて準備している。
中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]の豪州における第5世代(5G)高速通信の整備計画への参入禁止措置が見込まれているため、外国による干渉を防止する法案が成立した場合、その影響は一段と悪化するとみられる。
オーストラリアのワインメーカーは自社製品が中国の港で足止めを食らっているとし、ターンブル政権に対し、貿易障壁の原因とされる中国との外交的緊張の緩和に努めるよう求めている。貿易障壁が他の主要輸出品に拡大することへの懸念も出ている。
●豪中関係はなぜ悪化したか
輸出ブームを駆り立てた画期的な自由貿易協定(FTA)を中国と結んでからようやく2年がたとうとしている中、ターンブル首相は、外国の影響を制限するのを目的とした新たな法案を提出する理由として、中国による「干渉」を挙げた。
ターンブル首相は昨年、議会において、中国共産党がオーストラリアのメディアや大学、政治に干渉しているとの報告に懸念を示した。その中には、野党議員が中国の利害関係者と密接な関係を持ち、献金を受けていたとの報告も含まれ、後にこの議員は辞職に追い込まれた。
ターンブル首相率いる中道右派政権は、外国からの政治献金を禁止したり、外国のために働くロビイストに登録を義務付けたりする法案を準備している。また、諜報の定義変更も提案されており、犯罪の対象となる活動が拡大することになる。
「中国は、ターンブル首相からやり玉に挙げられることに反論した」と、豪中経済関係が専門のシドニー工科大学ジェームズ・ローレンスソン氏は指摘する。
中国は、オーストラリアへの内政干渉を否定しており、オーストラリア政府に対し、そのような嫌疑は関係を阻害する偏見だと非難している。
●豪州はなぜ強い態度を取るようになったか
オーストラリアは最近まで、長年の防衛同盟国である米国と、昨年輸出額の3割近くを占める中国との間でうまくかじを取ろうとしていた。
だがそのようなかじ取りは、オーストラリアの治安機関がサイバーセキュリティー面と政治干渉のリスクの高まりを警告する中、ますます困難になっている。また、南シナ海での軍事化をやめるよう求める国際社会に対する中国の抵抗も緊張を高めている。
こうした戦略的情勢により、ターンブル首相が2015年の就任時に明言していた親中的な態度は急転換したと、ハワード元首相の顧問を務めたピーター・ジェニングス氏は指摘する。
中国によるオーストラリアへの干渉問題は同年、中国軍と近い関係にあるとされる中国企業に北部ダーウィン港を貸与する契約が浮上し、一段と批判されるようになった。同契約を巡っては、米海軍兵士1500人超が駐留する基地が近いことから、米国も懸念を示したとされる。
●中国の反応は
農産物などオーストラリアの1次産品の主要輸入国である中国の反応は当初、外交的な抗議にとどまっていた。しかし先月、中国税関当局は、豪州ワインメーカー6社の出荷を遅らせるようになった。その中には、トレジャリー・ワイン・エステーツTWE.AXやペルノ・リカールPERP.PAが含まれる。
政府データによると、豪州産ワインの対中輸出額は昨年8億4800万豪ドル(約700億円)に上り、今年は10億豪ドルを上回ると見込まれている。だが、今となってはこうした数字は楽観的だとする専門家もいる。中国は、豪州産ワインの輸入について「通常の手続きに従って」処理されているとしている。
●今後数週間が重要なのはなぜか
経済的圧力が高まっているにもかかわらず、オーストラリアは今週にも外国による内政干渉を巡る法案を可決する可能性がある。
同法案はまず、外国政府とつながりのある個人の登録を義務付けている。これは、対中強硬派が、治安当局の警告に対応する法案の根幹部分と位置づけている。
「ずっと延び延びになってきた外国による干渉を阻止する法律は、オーストラリアの法律の弱点と抜け穴に取り組むものだ。こんにちの状況に見合うよう強化されるべきだ」と、ビショップ外相の主席顧問を務めたジョン・リー氏は言う。
同法の制定は、ファーウェイの豪州における第5世代(5G)高速通信の整備計画への参入禁止措置と同時に行われる可能性がある。
同社は2012年、オーストラリアの全国ブロードバンド網(NBN)整備計画への参入を禁止された。そして今年5月、豪州政府は、自国とソロモン諸島の間にインターネットケーブルを敷設するため数百万豪ドルを予算に計上し、ファーウェイの計画に先手を打った。
オーストラリアは公には説明していないが、この件に詳しい関係筋によると、中国が通信インフラにアクセスすることによって自国の安全保障を脅かす可能性を危惧しているという。
オーストラリアは、米国と同様、ファーウェイが事実上、中国政府に支配され、重要なインフラが中国政府の手に落ちることへの懸念を高めている。
ファーウェイはこうした嫌疑を繰り返し否定。独立した企業であると主張している。
●緊張緩和できるのは誰か
オーストラリア政府の強硬姿勢は国内で有権者の受けが良い一方、同国は緊張緩和のため、いくつか穏当な方法を試みている。
同国のシオボ貿易・投資相は中国に歩み寄りをみせている。ビショップ外相も中国での年次外相会談を求めているが、まだ返事はないと関係筋は言う。
関係修復には、より上位の閣僚、すなわちターンブル首相が主導することを中国政府は望んでいると、一部専門家は指摘する。
ターンブル首相は19日、中国の財界リーダーらを前に基調講演を行う。これにより、安全保障と商業的利益のバランスが取れることをオーストラリアの産業界は期待している。
「オーストラリアは安保上の懸念について何でも表明できる。だが、それが貿易に及ぼし得る影響について意識せざるを得ない」と、豪州ワイン生産者連盟(WFA)の責任者、トニー・バッタグリーン氏は語った。
(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)
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