[オックスフォード 11日 ロイター] - グーグル系ウェイモの自動運転タクシーが走るのは、太陽が照り付ける米アリゾナ州フェニックスの広大な道だ。一方、そこからはるか離れた欧州のスタートアップ企業は、雨がちで混雑した街中を走る自動運転車の開発に当たっている。
英国でテスト走行するオックスボティカ、FiveAI、ウェイブといった企業は、欧州での自動運転には独自の課題があり、グーグルの親会社アルファベットが手がける自動運転事業ウェイモや、ウーバー・テクノロジーズ(UBER.N)、オーロラといった米企業がまだ解決できていない領域だと指摘する。
ライバルの米企業に比べ、ごくわずかな元手で開発を行っているこれらのスタートアップ企業の関係者は、混雑した土砂降りのロンドンの道に適した、より安価な技術を提供するために様々なアプローチを取っていると語る。
FiveAIに出資するアマデウス・キャピタルのアレックス・バン・ソメレン氏は、「アリゾナのだだっ広いハイウェーを走るように作られた車は、(ロンドン南部の)クロイドンでは生き残れない。全く環境が違う」と語る。
これらの企業は、最も過酷な環境で動くシステムやソフトを開発することで、莫大な資金力の米企業がいずれ進出してきた際に、優位に立つことを目指している。
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の予測によると、コネクテッドカー(つながる車)の時代となる2035年には、約1500億ドル(約16兆円)の新たな利益が自動車業界にもたらされる。
一部の投資家は、2030年には世界の新車販売の5分の1を自動運転車が占めるとみている。
熾烈(しれつ)な戦いを生き残るスタートアップ企業はわずかだろうが、2014年以降、世界3400あまりの企業に700ド億ドルの民間資金が投じられてきた。BCGによると、これら「ニュー・モビリティー」産業には、自動運転、ライドシェア、電動スクーターや機械学習が含まれる。
<限られた予算>
大学都市の英オックスフォードでは、ポール・ニューマン教授が創設したオックスボティカが、自動車メーカー、物流業者などに販売する「ユニバーサル自動運転」ソフトウエアの開発を行っている。
同社は複数のカメラやセンサーを設置したフォード・モーター(F.N)のモンデオに、オックスフォード市街の混雑した道を走らせ、ソフトのテストを重ねている。ルートは同じ周回を1日5回、目抜き通りを抜け、パブ「レッドライオン」の前を通って戻ってくる。これを3カ月続ける。
ニューマン氏は、同じルートを何度も走らせることで、開発の進展を測るために必要な基礎データが集まると話す。また、注意が必要なエリアでテストすることで、ある特定の場所にさしかかったときに、関連情報をもとに新しいデータをソフトが提案することができるようになる。
「戦術を要するのは、通りを行き交う自転車や大学生だ。欧州の都市はそもそもポニーを念頭に道を設計しているから、必要な要素が異なる」
同社は北米と中国にもオフィスを構える計画だ。2021年にはロンドン市内の特定のルート限定で、安全を監督する人を乗せて自動タクシーサービスの開始を予定している。これはタクシー会社アディソン・リーとの提携で行われる。
オックスボティカの公道実験は非常に労力がかかり、コストも膨大だ。これは、限られた予算でウェイモやウーバーと競争しようとする企業にとっての課題となっている。
スタートアップ企業のデータベース、クランチベースの最新データによると、オックスボティカがこれまでに受けた資金援助は2260万ポンド(約2800万ドル)、FiveAIは3770万ドル。
一方、米ゼネラル・モーターズ(GM)(GM.N)の自動運転車部門GMクルーズは5月、増資で11.5億ドルを調達。企業価値は190億ドルとなった。カリフォルニアの自動運転配達サービス、ニューロも2月に9億4000万ドルを調達している。
欧州の自動運転車やテクノロジー企業に投資されたベンチャー資金は、2018年に倍増した。それでも、米国のスタートアップ企業に流れる資金に比べればごくごくわずかなものだ。調査会社CBインサイツによると、欧州ベンチャー企業が昨年集めた8900万ドルは、米国の2%にすぎない。
<降り続ける雨>
米国のスタートアップ企業には潤沢な資金があるかもしれないが、欧州勢は元手がない分、そして運転環境の違いによって、米企業よりも創造性を駆使していると主張する。
例えば米国の自動運転車の多くに使われている物体検知技術ライダーは、雨や霧、雪の中で車の周辺情報を正確に把握するのが難しい。そのため欧州勢はライダー以外の様々な技術を検討している。
FiveAIのスタン・ボーランドCEOは、「雨の中でのライダーの低下は極めて恐ろしい」と語る。
ボーランド氏もオックスボティカのニューマン氏も、ライダー技術を重要視してはいるが、英ケンブリッジに拠点を置くウェイブは、レーザーを使った検知技術は必須ではないと主張する。
ウェイブの共同創業者アマー・シャー氏は、物体までの距離の計測は、技術の進歩によりカメラだけで信頼できるデータが得られると考えている。自動運転車が大量生産されることでコストは大幅に下がり、精度も上がるという。
さらにシャー氏は、資金力のあるウェイモやクルーズが脅威ではないかと問われると、意に介さない様子を見せた。
「彼らはアリゾナ州のフェニックスに10年もいて、そこからほとんど足を踏み出せていない。ヨーロッパに来られるわけもない」
<自動運転の冬の時代>
それでもアナリストやコンサルタントらは、将来的にウーバーやウェイモのような企業が、月額制やオンデマンド自動運転車などのサービスで市場を席巻すると予測する。しかし、真の「自動」運転はまだまだ先かもしれない。
自動車コンサルティング会社ベリルス・ストラテジー・アドバイザーズのアーサー・キプファーラー氏は、「当初は比較的早い段階で実現すると思われたが、今は自動運転にとって冬だ」と語る。
2018年3月、走行実験をしていたウーバーの自動運転車が歩行者をはね、死亡事故を起こした。ウーバーは開発プログラムを一時的に停止した。
オーロラなどに投資をするカナダ年金基金投資委員会のデボラ・オリダ氏は、「場所がサンフランシスコであれ中国であれ、公道に出て自動運転をするのであれば、それは複雑かつ不慣れな都会の環境だ。完全自動化は程遠い」と指摘する。
欧州スタートアップにとっては、1つのシステムでどこでも走れるという売り文句に疑念を抱く投資家らを、自分たちの側に引き込むチャンスだろう。
一方で、一定の地域の特色を意識しすぎたアプローチでは、最初に商業化を果たすであろう米国の大手に追いつけないという声もある。
ベリルスのキプファーラー氏は、「ビジネスをしたいなら、なるべく簡単、かつ早期に始められる場所に行き、そこで規模を拡大して学びび、そこからもっと困難なステージに進めばいい」と語る。
「もし研究がしたいなら、ロンドン中心部やインドのムンバイ、デリーに行って実験をやるべきだ。商業サービスは永遠に始められないが、研究成果は残る」と皮肉った。
(翻訳:宗えりか、編集:久保信博)