November 23, 2019 / 10:50 PM / 15 days ago

アングル:NAFTA解体で壊れる自動車サプライチェーン

[ロムルス(米ミシガン州) 18日 ロイター] - ゼネラルモーターズ(GM)(GM.N)のV型6気筒エンジンで使われるピストンは、ミシガン州ロムルスにある同社工場にたどり着くまでに、海外も含めて長い旅路を重ねている。

 自動車各社は発効25年を経た北米自由貿易協定(NAFTA)を活用し、北米大陸各地のより低コストな工場へと業務をシフト、利益の大半を稼ぎ出す米国やカナダでの収益性を向上させている。写真はテネシー州スプリングヒルにあるGMの工場。8月22日撮影(2019年 ロイター/Harrison McClary)

粉末状のアルミニウムは、テネシー州を出発し、ペンシルバニア州に運ばれる。高温での鍛造によりピストンに使われるコネクティングロッドとなり、カナダに送られて整形・研磨される。それからメキシコでの部分組み立てを経て、ようやく完成したピストンがトラックに積み込まれてロムルスに戻り、GM製V6エンジンに組み込まれる。

国境を越えること合計4回。だが、そのあいだ関税を課せられることは一度もない。

グローバルなサプライチェーンを担当するGMのエグゼクティブ・ディレクター、ジム・ボベンツィ氏は、最近ロムルス工場を視察した際に、「(部品は)最初からパスポートを持っているようなものだ」と語った。「北米は境界のない1つの地域だと考えている。部品やコンポーネントは常に国境を越えて行ったり来たりしている」

GM製V6エンジンは一例にすぎない。GMやライバルのフォード・モーター(F.N)、フィアット・クライスラー・オートモービル(FCHA.MI)は、発効25年を経た北米自由貿易協定(NAFTA)を活用して、北米大陸各地のより低コストな工場へと業務をシフトし、費用を削減し、各社にとってグローバルな利益の大半を稼ぎ出す北米地域での収益性を向上させている。

<新協定で関税増加、投資は抑制>

ドナルド・トランプ大統領は現在、NAFTAを新たな貿易協定「米・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)に置き換えようとしている。各国指導者は昨年11月に新協定に調印しており、トランプ大統領はこれによって米国の雇用が改善されるとしている。

米国の自動車メーカー各社は、NAFTAによる実質的な国境撤廃があるからこそ事業が可能になっていると主張し、新協定のもとでもこれが維持されるよう熱心にロビー活動を行ってきた。

だが、もしトランプ大統領が繰り返している「連邦議会がUSMCAを批准しなければ米国はNAFTAから脱退する」との脅しが現実になれば、自動車メーカー各社は世界貿易機構(WTO)のルールに基づくややこしい関税を支払わざるをえなくなる。

業界の専門家によれば、そうなれば、複数国にまたがるサプライチェーン(そこには米国人労働者を雇用する米国企業も含まれている)によるコスト優位は破壊され、自動車メーカー各社は生産体制の再設計と、北米以外のより低コストな生産拠点を探さざるをえなくなる可能性が高いという。

こうした不透明感があることから、自動車メーカー・製造企業各社は、重要な投資を手控えているところだ。

GMでグローバル公共政策担当副社長を務めるエバレット・アイセンシュタット氏は、「我々の生産事業の多くは、非常に資本集約性が高く、これだけ多くの投資を行っている以上、ルールがどのようなものになるかは明確に知っておきたい」と語る。「ここ米国内で生産・投資を続けるために、相当程度の安定性・予測可能性を確保するためには、(USMCAにおいて)そうしたルールが維持されることが非常に重要になる」。

米国企業による投資は第3四半期に3%減、第2四半期にも1%減少している。投資減少は、NAFTAの問題や世界各国の関税強化など、拡大する貿易摩擦への懸念が背景にある。

BMOキャピタルマーケッツで米国経済部門を率いるマイケル・グレゴリー氏は、「企業はただでさえ投資に慎重になっている」と語る。「トランプ政権がNAFTA解体を積極的に口にするような事態に至れば、米中貿易紛争への懸念どころではないだろうと思う」

新たな貿易協定に労働者・環境の保護強化を求めている民主党は、2019年中のUSMCA批准に向けて前進しつつあると述べている。だが、もしそれが実現しなければ、次期大統領選を控えた2020年に先送りされるリスクがある。そうなれば、不透明な時期がさらに延びることになろう。

<ピストンがたどる旅路>

GMがパワートレイン(駆動装置)を製造するロムルス工場は、利益率の高い「キャディラック」ブランドのSUVや小型ピックアップトラックその他のGM製車両向けに、年間約40万台のV6エンジンを製造している。

ここで旅路を終えるピストンは、日々工場に納品されるエンジンブロックやシリンダーヘッドといった70以上もの部品を運んでくるトラックの中にあっては、ごく小さい部品にすぎない。

ロムルス工場で製造されるV6エンジンは、一次サプライヤー100社から納品される235点の部品を使用している。そのうち67社が米国内の工場、13社はメキシコ、8社はカナダ、12社はそれ以外の国から出荷している。エレクトロニクス関連部品のほとんどはアジアからである。

全部品を総計すると、GMは年間710億ドルを費やし、一次サプライヤー3100社から13万3000点もの部品を調達している。

ロムルス工場では毎日5台のトラックが、V6エンジンの中核となる重さ100ポンド(45キロ)のエンジンブロックを288個運んでくる。それぞれ、ミシガン州サギノーのGM鋳造事業部か、メキシコのサプライヤーからの納品だ。

GMのボベンツィ氏は、メキシコ産の方が低価格だが、2社のサプライヤーを併用することで、エンジンブロックのような必要不可欠の部品を1つの工場にだけ依存するリスクは低減可能、と話している。

マイアミ大学(オハイオ州オックスフォード)で自動車産業とNAFTAの研究を進めるジェイムス・ルーベンシュタイン(James Rubenstein)教授(地理学)によれば、生産が労働集約的になるほど部品がメキシコから調達される可能性は高まる、という。

「最終組み立てのコストは、車両コスト全体にさほど影響しない」とルーベンシュタイン教授は言う。「サプライチェーンをもっと遡った労働集約性の高い部品に注意を向けることが、現実にコストの差をもたらす」。

<各地から集結する部品たち>

組み上げられて重量約500ポンドとなったV6エンジンが、ナッシュビルに近いGMスプリングヒル工場で[トラックから]降ろされると、そこではさらに大きなコンポーネントどうしの組み立てが行われる。

1基ごとにラベリングされたV6エンジンが、「キャディラック」用及び「アカディアス」用の組み立てラインを流れ、88社のサプライヤーから納品された約200種の部品が装着される。そのうち58社は米国、12社はメキシコ、5社はカナダ、残りはそれ以外の国の企業だ。

スプリングヒル工場の労働者が組み付けるのは、メキシコのGMサンルイスポトシ工場から運ばれてきたオートマチックトランスミッション、日本のデンソー(6902.T)が製造したスターターとジェネレーター、同じくデンソーがミシガン州で製造するエアコン用コンプレッサー、ゲイツ・インダストリアル(GTES.N)がメキシコで製造するドライブベルト、同じくゲイツがカナダで製造するテンショナーとプーリー、テネコ(TEN.N)がテネシー州で製造するコンバーター、中国産のバッテリーケーブルといった具合だ。

フォードやフィアット・クライスラー、さらには日本のトヨタ自動車 (7203.T)や日産自動車(7201.T)といった主要自動車メーカーも、いずれも似たような国際的なサプライチェーンを構築し、北米における組み立て事業を支えている。

こうした多様な調達先によってコスト削減を実現することで、「キャディラックXT6」などの高価格車種の利益率が改善される。このSUVの小売価格は5万5490ドルで、米国の平均新車価格を約2万ドル上回っており、GMにとっては利益率の高い車種の1つとなっている。

ミシガン州のセンター・フォー・オートモーティブ・リサーチ(CAR)で産業・労働・経済分野を担当するクリスティン・ドジチェク(Kristin Dziczek)副社長によれば、労働集約性の高い部品に関して製造コストの低い国を活用することは、いまや「グローバル市場で競争するうえで必須の要素」になっているという。

たとえば欧州の自動車メーカーも同じように、関税のかからない欧州連合内の低コスト国へと部品製造を移転させている。

ドジチェク氏は、NAFTAの解体、すなわち域内での関税復活は、米国自動車メーカーの競争力を損なうだろうと言う。

CARは6月、トランプ大統領が「違法移民への報復としてメキシコからの輸入に対して最大25%の関税を課す」という警告を実行に移した場合、米国製自動車の平均価格は1100ドル上昇するという試算を示した。

北米地域で関税が復活すれば、自動車メーカーは低コスト部品の調達先をメキシコからベトナムなど他の低コスト市場に変更せざるをえないだろう、とドジチェク氏は言う。

米自動車メーカー各社は、NAFTAによる実質的な国境撤廃があるからこそ事業が可能になっていると主張し、メキシコ、カナダとの新たな協定のもとでもこれが維持されるよう熱心にロビー活動を行ってきた。写真はテネシー州スプリングヒルにあるGMの工場。8月22日撮影(2019年 ロイター/Harrison McClary)

これはメキシコのサプライヤーに不利になると同時に、米国のサプライヤーにも打撃となり、米国の雇用を増やすというトランプ氏の狙いも挫折してしまう。アジアと米国のあいだで部品をやり取りすることはコスト効率が悪いからだ。

「メキシコから調達できないのであれば、メキシコ同様に製造コストの安い別の国から調達することになる」とドジチェク氏は言う。「そして、その『メキシコ』が遠くなればなるほど、米国のサプライヤーがそうしたビジネスから利益を得られる可能性は低下する」

(翻訳:エァクレーレン)

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