[パリ/フランクフルト 10日 ロイター] - 欧州の自動車メーカーは欧州連合(EU)の排ガス規制の達成期限が間近に迫り、二酸化炭素(CO2)排出量削減への取り組みが「待ったなし」となっている。
基準を満たせなければ罰金が科せられるが、新技術の適用はコストがかかり、そのコストを消費者に納得させるのも難しい。コストがまかなえるだけの規模まで電気自動車(EV)の販売を一気に増やすのは困難だ。メーカーが仕方なく、新基準に適合しないモデルの販売を取りやめたりもするだろう。ただでさえ販売が低迷している業界で、業績が悪化したり、人員整理を余儀なくされる恐れもある。
EUの排ガス規制は乗用車の95%分に対し、1キロ走行当たりのCO2排出量を2020年までに現行の120.5グラムから95グラムに削減するよう定めている。21年には全ての新しい乗用車が基準への適合を義務付けられる。
しかし規制強化はメーカーにとって最悪のタイミングで期限を迎えそうだ。世界の主要な自動車市場は縮小しており、英国がEU離脱を控えており、米中通商紛争は長期化している。消費者は燃費の良いディーゼル車を敬遠してスポーツタイプ多目的車(SUV)に流れており、最近の1キロ走行当たりのCO2排出量は増えている。
気候変動への対策強化を求める運動が盛り上がり、規制緩和を求めるのは政治的に不可能となっており、メーカーはかなり前にそうした取り組みを断念した。今週フランクフルトで開幕する国際自動車ショーさえも、環境保護活動家らの攻撃の対象になった。
欧州メーカーはフランクフルトのショーで電気乗用車の新モデルを発表し、排ガス規制への対応策を示す。10日にはフランスのPSAグループPEUP.PAが「コルサ」のEVを、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)VOWG_p.DEが小型EV「ID.3」をそれぞれお披露目した。
<試練の時>
企業イメージに敏感なメーカーはこれまで電動化モデルについて、自動車ショーの目玉に据える一方で商業面では重視してこなかった。しかし排ガス規制の達成期限を数カ月後に控えた今になって、電化モデルの大量販売を迫られ、これが収益の重しになっている。
ドイツのコンサルタント会社FEVの推計によると、排ガス規制の目標達成には21年までに乗用車のEVのシェアを3倍の6%に、ハイブリッド車(HV)のシェアを5倍の5%に引き上げる必要がある。しかしEVとHVを合わせた今年上半期の販売は前年同期比35%増にとどまった。
またメーカーは排ガス排出量を25年までにさらに15%、30年までに37.5%削減しなければならない。
規制をクリアできなければ、メーカーは基準を1グラム超えるごとに1台当たり95ユーロの罰金が科せられることになっており、罰金額はあっという間に膨大になる。
サンフォード・C・バーンスタインによると、メーカーが車のラインナップを変えなければ業界の21年の罰金は総額250億ユーロ(280億ドル)に達する可能性がある。メーカーは罰金を避けるために製品の大規模な見直しに取り組んでおり、このコストが利益総額の半分以上を吹き飛ばしそうだという。
ドイツのVWは小型EV「ID.3」に続いて来月には新型「ゴルフ」を発表する予定で、48ボルトのマイルドハイブリッドシステムの量産化で先頭を走っている。
<一部モデルの生産停止か>
一方、アナリストによると、フランスのメーカーは米国と中国の両市場での販売が少なく、規制対応による業績への打撃を緩和することができないため、ドイツのライバルメーカーに比べて利幅の大きな落ち込みに直面している。
ルノーRENA.PAはEV市場で旧式化した「ゾエ」への依存が大きく、「クリオ」と「キャプチャー」のハイブリッドタイプの開発を急いでいるが、市場への投入は20年第2・四半期となる見通し。
PSAは48ボルトのハイブリッドで遅れを取り、EVのシェアの7%への引き上げで、「DS3」、「プジョー208GTi」、「プジョー308GT」の価格の高いプラグインタイプとEVタイプに頼ろうとしている。
PSAは燃費効率の悪いオペルの一部モデルの生産を停止しており、「プジョー208GTi」や「プジョー308GT」のスポーツタイプの生産を停止する準備を進めている。
業界幹部の間からは他のメーカーがPSAと同様に一部モデルの生産を停止し、既に電化の影響を受けている欧州の自動車産業の雇用に打撃が及ぶとの指摘が出ている。
コンサルタント会社アリックスパートナーズのディレクター、Georgeric Legros氏は「(排ガス基準を満たさない)車の一部は販売して罰金を科せられるよりも販売をやめた方がコストが安い。来年は一部モデルの生産停止や人員解雇があるだろう」と述べた。
(Laurence Frost記者、Edward Taylor記者)
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