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コラム:金融危機10年、終焉から始まる「正念場」
2017年10月8日 / 01:09 / 2ヶ月前

コラム:金融危機10年、終焉から始まる「正念場」

Edward Hadas

 10月4日、2008年に迎えた最悪の状態から約10年が経過した今、各国中央銀行当局者は、ようやく金融危機がほぼ終焉(しゅうえん)を迎えたと考えられるようになった。だが、正念場はここからだ。NY証券取引所で2015年7月撮影(2017年 ロイター/Lucas Jackson)

[ロンドン 4日 ロイター Breakingviews] - 2008年に迎えた最悪の状態から約10年が経過した今、各国中央銀行当局者は、ようやく金融危機がほぼ終焉(しゅうえん)を迎えたと考えられるようになった。だが、正念場はここからだ。

金融当局は、金融システムをどうにかこうにか維持してきた。これは良いニュースだ。

では悪いニュースは何か。回復のために彼らがとってきた政策には、そもそもシステムを崩壊寸前に至らせた従来の慣行と不健全なまでに類似した点がある、ということだ。

金融政策には複雑な要素がたくさんあるが、危機後の基本的なアプローチは、かなりシンプルなものだった。政策金利を低く抑え、債券市場に資金を投入し、政府債務についてはあまり心配しすぎず、あとは運を天に任せる、というものだ。

主要先進国はいずれも、2009年以降、ゼロ金利あるいはマイナス金利を続けている。「量的緩和」という気取った呼び名のもとで行った債券市場への資金投入により、中央銀行のバランスシートは膨れ上がった。

米連邦準備理事会(FRB)の保有資産残高の対国内総生産(GDP)比は、危機以前の6%から、現在では23%に上昇している。財政健全化がこれほど言われているにもかかわらず、ほとんどの先進国において、危機のあいだに財政赤字が急増し、その後の削減ペースは鈍い。

もっと悪い結果になる可能性もあった。1930年代の大恐慌を特徴づけた危機や銀行倒産による経済へのダメージは、はるかに大きかった。だが、世界金融危機後の景気回復が遅々として不安定であったことを思えば、もっとうまくやれた可能性もあるかもしれない。

景気回復が十分に進んだため、2015年に米国でおずおずと始まった緊縮的な金融政策は、徐々に各国に広がりつつある。FRBは、一時は0.25%まで下がっていた政策金利を1.25%まで引き上げ、つい先日には量的緩和の反転につながる小さな動きをいくつか発表したばかりだ。

イングランド銀行(英中央銀行)と欧州中央銀行(ECB)も引き締めをほのめかす発言をしてきたが、今後数カ月のうちに実際の行動に移す可能性がある。

とはいえ、超緩和的な金融条件から、かつて正常と思われていた状態へと回帰する旅が始まったとはまだ言いがたい。米国債10年物利回りは2.3%で、インフレ率1.9%を依然としてやや上回っている。経験豊富な投資家なら、利回りがインフレ率の約2倍に達するまでは魅力を感じないだろう。

だが10年という時間は、新たな習慣が定着するためには十分に長い。企業、政府、金融機関はみな低金利に慣れてしまった。中毒になっているとも言える。

 10月4日、2008年に迎えた最悪の状態から約10年が経過した今、各国中央銀行当局者は、ようやく金融危機がほぼ終焉(しゅうえん)を迎えたと考えられるようになった。だが、正念場はここからだ。写真は米ドル紙幣。スペインのセビリアで2014年11月撮影(2017年 ロイター/Marcelo Del Pozo)

金利が上昇すれば、銀行としては昔ながらの融資でより大きなマージンを稼ぎやすくなるかもしれないが、そうした利益よりも、新たに窮迫する借り手が生じることによる損失のほうが大きくなってしまう可能性がある。

株価が下落する余地はいくらでもあるし、あらゆる市場で通用すると想定されていた投資戦略にも危険な側面はあるものだ。借り入れコストの増大は政治的にもセンシティブな問題であり、先般の危機以前よりもはるかに多くの債務を負っている各国政府に対するプレッシャーになりかねない。

危機以降、金融規制が強化されたとはいえ、一部に懐疑的な見方があるのは当然である。金融市場の拡大が経済成長ペースを上回るという危機以前のパターンにほとんど変化は見られない。

世界銀行の試算によれば、世界の民間部門債務比率は2008年の対GDP比154%から、2016年には過去最高の177%に上昇した。かなりの部分は、中国において企業の借り入れブームが起きているためだ。同じ時期、政府債務も64%から94%に上昇した。

各国の中央銀行は、バランスシート調整圧力が広範囲に及ぶ時期において、金融政策を困難にする基本的なパラドックスに陥っている。混乱によって経済活動は抑制され、債務者の経済的負担は増大する。だが、経済活動を刺激するためのさらなる金融緩和策は、過剰な借り入れを促す傾向がある。

財政出動による刺激は、こうした金融のパラドックスから脱出する方法の1つであると考えられていた。だが最近では、各国政府はすでに適正水準を超えた債務を抱えてしまっている。さらに、先進大国のほとんどすべてにおいて、ピリピリした警戒心の強い政治的ムードが漂っている。国債発行を原資とする積極的な財政出動プログラムは議題に上がってこない。

伝統的な政策ツールの何もかもが機能していない以上、今こそ、非伝統的なソリューションを考え始めるべき時なのかもしれない。因襲打破につながる考え方はすでに表われている。1930年代の危機のあいだ、複数の代表的な経済学者らは、国債発行と資金創出との関係を切り離すことを示唆していた。

後に「シカゴプラン」と呼ばれることになる、こうした考え方のバリエーションは、その後も検討されることになった。その理屈は魅力的である。量的緩和によって金融市場に間接的に資金を投入する代わりに、経済にダイレクトに資金を注入する。これは、当面はグローバルなレバレッジ解消を促しつつ、将来においても過剰な融資は減ることになる。

こうしたアイデアは、あまりにも革命的すぎて、依然としてまともな扱いを受けていない。当局者の誰ひとりとして、真剣な関心を示さない。中銀関係者は現行システムに慣れ親しんでいる。

仮に政治家たちがこのアイデアの利点を理解していたとしても、有権者に対して、実績もない未知数のシステムを支持するよう提案するには、彼らはあまりにも臆病である。住宅の資産価値を損なうようなシステムであれば、なおさらだ。

というわけで、各国の金融当局は、より平穏な金融市場を目指して、長く曲がりくねった、でこぼこだらけの道を慎重に歩み続けることになろう。それは困難な旅になる可能性が高い。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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