[ベンガルール 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員と電気自動車(EV)大手・テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)ほど、政治思想の面でかけ離れた人物を見つけることはできない。
その2人が、暗号資産(仮想通貨)ビットコインのエネルギー大量消費批判では足並みをそろえている。グリーンピースなどの環境団体やブロックチェーン決済企業のリップス・ラブズ共同創設者、クリス・ラーセン氏といった環境保護に熱心な人々は、ビットコインのコードを修正してもっと環境に優しい仕組みにしようという取り組みを進めている。
だが、ビットコインの欠陥は「修復」では解決せず、根本的に作り替える必要があるのかもしれない。
アムステルダム自由大学など、さまざまな研究機関による最近の推計からは、ビットコインに絡む温室効果ガス排出量は、ギリシャ1国分より大きいことが分かる。
いわゆる採掘者(マイナー)が複雑な計算を通じて導き出した解答を承認してもらうのと引き換えに新たなコインを得るという仕組みが、膨大なエネルギー需要を生み出しているからだ。
この計算を解くには大量の電力を使うコンピューターが必要で、寿命が短いコンピューターの各部品がさらに電力を浪費してしまう。
そこで、ビットコインのメカニズムを変更し、現在のマイニングの代替として、承認に伴う電力消費が少ない別のシステム導入が提案さえている。しかし、ラーセン氏や環境団体が直面しているのは、既得権益と技術的な課題だ。
こうした改革を実現するには、ビットコインのネットワークに存在する全てのマイナーが同意しなければならない。そして近年の事態は、合意が得られる確率が低いことを示唆している。
以前に何度か同じような試みが行われた結果、ビットコインの派生版となる暗号資産が幾つか生まれたが、これらは成功とは程遠い状況にある。
ビットコインは依然として最有力のデジタル通貨で、時価総額は約1兆ドル。供給が厳しく制限され、完全に分権化された技術を用いている点が、インフレや政府の介入を懸念する投資家の心をとらえている。
時価総額で2位の仮想通貨・イーサは、取引円滑化に重点が置かれているため、ビットコインが持つ魅力の一部は備えていない。それでもスケーラビリティー問題(1つのブロック中に書き込める取引データに制約があること)の改善と環境問題の対応に向け、コード修正を進めている。この修正は何年にもわたる調査研究と、関係者の合意形成のための努力を踏まえたものだ。
ビットコインによく似た代替的な暗号資産も存在する。その1つのチア(Chia)は、獲得に必要な電力がビットコインよりはるかに少ない。とはいえ、時価総額は約2億5000万ドルにとどまっており、規模と人気の面ではビットコインに太刀打ちできない。
それでもなお、ビットコインの熱心な支持派が環境に優しくありたいと思うなら、忠誠心の置き所を変えるしかないのではないか。
ビットコインの改変がほぼ不可能というのは、言い換えればそれは「仕様であってバグではない」ということだ。現存する他の暗号資産が用をなさないとすれば、ビットコイン支持派が自分たちのために、より良いビットコインを作り上げる必要があるだろう。
●背景となるニュース
*ブロックチェーン決済企業、リップス・ラブズの共同創業者、クリス・ラーセン氏は3月29日のインタビューで、ビットコインの承認がより環境にやさしい形になるよう、業界に現在と別のメカニズムを採用することを求める運動に資金提供していると明かした。
*ビットコインは2017年8月、より多くの取引処理を可能にするコード変更によっていわゆるハードフォーク(分岐)が行われ、新たな暗号資産のビットコインキャッシュが誕生した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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