[ワシントン 27日 ロイター] - 米カリフォルニア州で23日からの週に、銃撃で多くの死傷者が発生した事件が立て続けに発生した。バイデン大統領はいずれについても従来と同じ言葉で米国における銃暴力に対して心からの怒りと悲しみを表明するとともに、議会に対してはアサルトウェポン(殺傷能力の高い攻撃用銃器)を全面的に禁止する法案を可決するよう改めて訴えている。
現在の議会は、下院が野党共和党に多数派を握られ、上院も与党民主党がかろうじて過半数を確保している状況だけに、こうした法案が成立する可能性は非常に乏しい。
しかし、バイデン氏は頑固に1つの戦略を推し進めている。つまり銃撃で多数の死者が出た局面では常にこの問題について世論を喚起し、議会の銃規制反対派に圧力をかけるという政治行動だ。
バイデン政権の最終的な狙いは、既に銃規制強化を強く支持している世論を味方にして、規制に反対する共和党議員の考えを変えようというところにある。
バイデン氏は24日の民主党指導者との会合で、銃規制強化が「本当に必要とされている」と強調。26日にはホワイトハウスにおいて春節(旧正月)を祝う演説を行った際にも「われわれはアサルトウェポンの禁止を再び目指していく」と語った。ホワイトハウスのある高官によると、アサルトウェポンへの言及はバイデン氏が当初の原稿にアドリブで付け加えたもので、同氏がいかに高い関心を持っているかがうかがえる。
また、共和党側の反対姿勢にも動揺する気配は見えない。上院司法委員会における共和党の有力メンバーで、銃規制を巡る過去の議論でも主役の1人だったジョン・コーニン氏は、カリフォルニア州の事件でも議会を取り巻く状況に変化はないと説明し「法制化に向けたこれ以上の動きはない。われわれはその可能性について、過去数カ月でかなり消耗した」と述べた。
それでもバイデン氏はあきらめない、というのが政権内の見方だ。
別のホワイトハウス高官は「アサルトウェポンの禁止を勝ち取って、銃の安全確保に賛成する議会を形成するというのが大統領の戦略であり、われわれはそこに向かって前進を続けている」と意気込む。
こうしたバイデン氏の姿勢は、2024年の大統領選まで、より長続きする政治的な効果をもたらすかもしれない。ニューハンプシャー大学のダンテ・スカーラ教授(政治学)は「バイデン氏の再選戦略の一角をなすのは、過激主義者らと対比する形で自身を穏健派、中道派、現実的な政治家として際立たせようとすることではないか」と指摘した。
<高いハードル>
約10年前にコネティカット州サンディフック小学校で26人が死亡する銃乱射事件が起きて以降も、連邦政府のアサルトウェポンに対する規制はほとんど進んでいない。同事件で使用されたアサルトライフル「AR-15」からは、たった数分間に150発を超える弾丸が撃ち出された。
カリフォルニアは米国の州では最も規制が厳しいが、それでも最近発生した幾つかの銃撃事件で合計18人が亡くなっており、連邦レベルの規制が穴だらけのために実効性を担保できていない。
一方、アサルトウェポン禁止を巡るバイデン氏の政治行動は年季が入っている。1994年に半自動小銃の販売を禁止する「アサルトウェポン規制法(AWB)」を10年間の時限立法として成立させる上で、大きな役割を果たしたのもバイデン氏だ。
オバマ政権時代にも副大統領として一連の銃規制を導入する取り組みを主導したが、これらは共和党と強力な銃規制反対のロビー団体、全米ライフル協会(NRA)に阻まれてしまった。
ただ、バイデン氏は昨年、議会が承認した新たな銃規制強化法案に署名して成立させている。これは30年ぶりの大幅な規制強化で、若者の銃購入希望者についての身元確認をより厳格にすることや、ドメスティックバイオレンス(DV)の加害者への銃販売の全面禁止などが盛り込まれた。
こうした措置やさらに厳しい対策にも、世論の強い支持が集まっている。
キニピアック大学が昨年6月に実施した調査では、米国民の約75%は銃購入可能の年齢を21歳に引き上げることに、92%は全ての銃購入希望者を身元確認の対象とすることに賛成した。
もっともこれを含む複数の調査で、アサルトウェポンの禁止を支持すると答えたのは全体の半数強にとどまっている。
法制化の手続きという面でもハードルは高い。現在、バイデン氏が何か法案をまず議会本会議で審議してもらうだけでも、上院なら60票、つまり民主党・無所属の全議員と共和党の9人の賛成が不可欠だし、共和党が優勢の下院でも単純過半数の218票の支持を取り付けなければならない。
そもそも米国では合衆国憲法で正当に銃を所持する権利が保障されており、多くの共和党員にとって譲れない問題となっているほか、銃所持の権利を唱える団体や銃製造業者の団体などが多額の献金で規制反対派を後押ししている。
NRAの広報担当者は「暴力的な犯罪は増加し、人々は解決を切望している。ところが、大統領は犯罪者を直接処罰するか、到底十分とは言えないメンタルヘルス医療の問題に取り組むどころか、暴力的犯罪にこれまで何の効果もなかった取り組みを蒸し返そうとしている」と述べた。
これに対してバイデン政権は、マサチューセッツ大学の調査研究結果などを挙げて、AWBが施行された10年間の銃による大量殺人事件の発生数と死者数は、以前の10年に比べてそれぞれ37%と43%も減ったと主張している。
アサルトウェポンの全面禁止が難しいとしても、アサルトウェポン購入可能年齢を21歳に引き上げるといったより穏健的な規制なら、共和党の優勢がそれほど絶対的ではない下院でも成立可能だ、とニューハンプシャー大学のスカーラ氏は提言する。
また、銃規制強化派によると、バイデン政権が本気になれば大統領令や予算拡充による現行規制の運用強化など、議会の法制化に頼らなくても打てる手はあるという。
(Jeff Mason記者、Richard Cowan記者)
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