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コラム:米利上げ「後ずれ」の背景、目先はドル高一服か=村上尚己氏

[東京 19日] - 16―17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、事前の予想どおり政策金利を据え置いた。声明文では、年初の成長率の落ち込みが一過性のもので、その後労働市場を中心に経済全体が回復していることなどが示された。

 6月19日、アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏は、利上げ開始判断に慎重を期す米連邦準備理事会(FRB)の姿勢が意識され、当面はドル高の勢いが弱まる可能性があると指摘。提供写真(2015年 ロイター)

また、足元の雇用統計における雇用の伸びの加速を踏まえて、労働市場のスラック(余剰)の縮小がやや進んだと言及された。

2015年の国内総生産(GDP)成長率については、マイナス成長となった1―3月期の停滞を踏まえて2%台半ばから2%前後に下方修正。2015年の失業率の予想値も若干ながらも上方修正された。これらは、足元までの経済指標の動きを反映したもので、ほぼ想定どおりの結果と言える。

春先以降の景気判断を前向きに改善させたことを踏まえれば、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ開始への判断はあまり変わらないはずである。ただ、景気判断を前進させた一方で、FOMCメンバーの主流派が利上げ開始判断をやや慎重化させた点は気がかりだ。

FOMCメンバーの政策金利の想定値である、いわゆるドットの中央値は2015年については前回3月同様に0.625%(0.50―0.75%)のレンジのままだった。これだけを見ると、年内2回の利上げが想定されているとの解釈もできなくはない。ただ、3月時点で0.50―0.75%の政策金利を想定していた7人のメンバーは、イエレン議長を含む執行部などの主流派とみられるが、そのうち4人ほどが想定レンジを0.25%ポイント引き下げた。これらのメンバーは、かなりハト派に位置するメンバー(ボストン連銀のローゼングレン総裁とみられる)の見解に近づいたことになる。

FOMC直前のメンバーの発言などから、多数派のうち若干名が政策金利の想定レンジを引き下げるのは予想されていたが、それが半数以上になったのは、少なくとも筆者にとって意外だった。利上げ判断は経済指標次第であり、9月FOMC時に利上げを開始する可能性はもちろんある。ただ、そのタイミングを慎重に判断する主流派メンバーが増えたわけで、利上げ開始の判断基準について意見の相違があるのかもしれない。

当社は現段階では9月利上げ開始をメインシナリオと想定しているが、これらの主流派の意見を集約させる過程で、利上げ開始のタイミングが後ずれする可能性が高まったと言える。

<年内利上げの線は依然濃厚>

では、なぜ主流派は、ハト派の見解に近づいたのだろうか。繰り返すが、足元の労働市場の改善は顕著だ。また、それが消費・住宅などの総需要の回復を後押しする兆しもある。そして、労働市場の改善が雇用コスト指数上昇という格好で賃金上昇につながる兆しも見えてきている。

これらの動きは過去3カ月で判明したものだ。このままであれば近い将来「2%インフレに戻るという合理的な確信」が得られるとの判断も可能だろう。インフレ率が上昇しなくても、「先行きのインフレ上昇を見据えて」利上げを開始するという判断に至る可能性は十分ある。

ただ、今回想定される政策金利水準を引き下げた、イエレン議長に近い主流派の数人は、労働市場などのスラックの大きさに不確実性があるので、労働市場の回復(=需給改善)がインフレや賃金の上昇に波及する証拠を見定めたいと、より慎重に認識しているのかもしれない。また、家計や労働市場の改善ははっきりしているが、輸出や設備投資などの他の経済指標の改善が見えていないことを警戒している可能性もある。

今回のFOMC発表に際して、金融市場が示した反応は大きくなかった。為替市場ではFOMC前への警戒から1ドル=124円前後までドル高が進んだ後に、ほぼ想定どおりとの解釈で、123円台半ばに戻り前日からほぼ横ばいでとどまった(東京時間19日正午時点は123円近辺)。

そもそもドル円は5月後半から米国指標の改善もあり、ドル高方向に先んじて動いてきた経緯がある。米経済回復がドル高要因となる基調は変わらないだろうが、利上げ開始判断に慎重を期すFRBの姿勢が意識され、当面はドル高の勢いが弱まる可能性がある。

加えて、債券市場では、もともと9月利上げ開始に懐疑的な見方が根強かった。今回のFOMCで利上げが年末まで先送りされる可能性は想定されていたが、FOMCメンバーの見解が、そうした市場の想定にいったんは近づく格好になった。

これまで米長期金利は、欧州金利の変動につられて、上昇してきた側面が大きかった。早期利上げの可能性を高めるインフレや賃金関連指標の大幅な上昇が、夏場以降に明確に表れるまで米長期金利の上昇が一服する可能性がある。ただ、年内利上げが実現する可能性はかなり高く、年末までに緩やかな金利上昇は続くだろう。

前回3月のFOMC直後のドットチャート大幅変更は、新興国市場などリスク資産の価格上昇をやや後押しした。今回のドット変更が持つインプリケーションは3カ月前ほど大きくないだろうが、景気判断を前進させる一方で、利上げ開始に慎重姿勢を保つというFRBの姿勢は、6月になって高まりつつある市場のリスク回避姿勢を若干和らげる可能性がある。

なお、足元を含めてFOMCメンバーの政策金利の想定はやや下方修正されたが、フェデラルファンド(FF)レートの長期均衡値の中央値は3.75%と前回からほぼ不変、同様に長期のGDP成長率の想定も変わっていない。米国の潜在成長率などが下方修正されている可能性が指摘される機会が増えているが、FRBはそうした見方とはとりあえず一線を画しているようである。

つまり、潜在成長率などに変化がなく、2%の実質成長率と2%のインフレを定常状態とFRBは認識し、金融政策でその定常状態への正常化を実現することを強く意識している。需給ギャップやスラックが依然大きいと認識されているため、性急な利上げリスクを極力回避し、さらに利上げ開始後もゆっくりと利上げを進めるFRBの政策姿勢に影響している、と考えられる。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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